2012年06月17日

岸辺の旅 湯本香樹実

岸辺の旅 湯本香樹実(かずみ) 文藝春秋

 名作と呼ばれる同作者の「くまとやまねこ(絵本)」を読んだあと興味をもって読みはじめました。岸辺とは、最初、装丁の絵が「石狩川」とあったので、石狩川と思って読み始めましたが、すぐに三途の川(さんずのかわ、死後の世界へ渡る川)と気づきました。
 瑞希(みずき)さん38歳、結婚歴9年、夫の優介は3年前に家を出て行方知れず。夫がどうもどこかで亡くなったらしく、されど、死後の地へ旅立てず、妻の元へと姿を出したのですが、どうも、奥さんの瑞希さんのほうも亡くなりつつあるのか、そんな、ふたりが旅をするのです。映画「シックススセンス」の世界です。夫は歯科医となっています。彼は死後、海の底に住む蟹になったそうです。全体的に上品で高尚(こうしょう、気高くて立派)な運びとなっています。精神世界のなかの旅となっています。
 女性から見た夫像、そして父親像の記述です。男性の側から言うと重荷です。男性に女性を包み込む包容力を期待しないでください。夫婦の意識のすれ違いを感じます。物語は、夫に父親像を求めています。
 夫がいなくなって、自殺を企図した妻が、幻想の世界で夫の魂と出会い、ふたりで旅をした結果、妻は自殺を思いとどまり、夫の思い出を抱えながらひとりで生きていく決心をした物語と理解しました。

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