2012年06月17日
孤独な夜のココア 田辺聖子
孤独な夜のココア 田辺聖子 新潮文庫
全部で12編ある短編集です。1篇は10分もあれば読める短さです。はじめは、作者のエッセイ集と勘違いして読み始めました。前半のものは創作、後半は作者の実体験ぽい。いずれの作品も女性の気持を文章にした内容となっています。登場する女性たちは、現在60歳前後となっている世代でしょう。彼女たちの20代から30代にかけての経験となっています。
22歳年上の男性を愛してしまったわたしが登場する「春つげ鳥」、ときおり作品に登場する「りちぎ」という言葉から伝わってくる可笑しさ(おかしさ)を伴うまじめさ。そのまじめさが、ラストシーンで、涙になったり、笑顔に変わったりするのが、この短編の手法であり特徴です。
男から見ると、男性心理の考察は、ちょっと違うと思わせる「雨の降ってた残業の夜」にあるようには男は年上の女性を好きになれない。このパターンが引き続く「エープリルフール」では、年上女性が年下男性とつきあうときの年上女性の気持が記されています。この短編は逸品で、内容は女の「夢」です。
密(ひそ)やかな女の欲情を表現した「春と男のチョッキ」。昔のOL話です。(オフィスレディ)。
共働きの末、夫が女をつくって出て行ってしまう「おそすぎますか?」は、すべて女性のほうの責任とばかりもいえない。作品全体をとおして、上品な薫り(かおり)がただよっています。標準的でないのは、男性相手が父親と同じような年齢であったり、逆に年下であったり、また、働かないヒモであったりします。それでも幸せというときもあるし、そうではないときもあります。各短編のオチは、あっけない終わり方をします。その瞬間、読み手は静かな気持になります。
胸を突かれるラストを迎えたのが「ひなげしの家」。絶品です。
学校の話は読みたくない。「愛の缶詰」。学校生活は楽しくなかった。今でも特殊な世界だったと思う。短編集の中盤から登場するのが大阪弁で、そのひとつが「ちさという女」です。総体的に、おとなの女性に読んでいただく成人女性向けの絵本集となっています。
ヒモ男を養う女性を描く「石のアイツ」、実話かなと思わせるのが、「怒りんぼ」、京都町家暮らしの維持推進を図ろうとする「中京区・押小路(おしこうじ)上ル」でした。
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