2012年06月16日

君はこの国を好きか 鷺沢萌


君はこの国を好きか 鷺沢萌(さぎさわもえ) 新潮文庫

 この作家さんのインタビュー記事を読んだのは7年ぐらい前のことでした。そして、まもなく彼女は亡くなりました。自殺でした。そのようなきざしはまったくなく、突然のことでたいへん驚きました。日頃から、作家とは、自殺と隣り合わせで物を書く仕事だと感じています。
 作者は在日韓国人です。その視点で小説は書かれています。本には小説が2本掲載されています。「ほんとうの夏」そして「君はこの国を好きか」です。うしろの「君はこの国を好きか」から読んでみました。
「君はこの国を好きか」
 「君は」は、在日韓国人を指します。「この国は」は大韓民国です。作者は主人公である木山雅美さんになってこの小説に登場します。日本に生まれて、日本で育ったのが在日韓国人3世の雅美さんです。彼女は、韓国へ留学します。在日韓国人、そして韓国で生まれ育った韓国人の大学生たち、さらに韓国人の大学教授、自分の親族、下宿や食べ物屋の人々が登場します。
 人付き合いが濃厚な韓国社会となにかと過ごしやすい日本の生活を比較しながら、韓国人になりきれない、かといって日本人ではないという、心の整理がつかない状態が続いた雅美さんは心も体も不安定になります。彼女のハングル文字に対する興味は強く、ハングルと漢字の関連に熱中したりもします。ふたつの名前をもっていること、選挙権がないこと(韓国の選挙権はあるのだろうか。)などが語られる反面、年齢の上下にこだわる、プライバシーの保護がない窮屈な韓国社会に対する違和感があります。さらに恵まれた日本の大学生と経済的に親に頼ることができない厳しい生活を送っている韓国の大学生をみて、雅美さんは、自分はこれでいいのかと悩むのです。彼女はか弱い。そして若い。
 10代から20代にかけて、対象物(人、場所など)に対する憎しみが愛情に変わる時期があります。不自然なことではありません。彼女の場合は「韓国」あるいは「韓国籍」でした。
 韓国金浦空港へ向かう飛行中の飛行機の中で降ろしてくれと泣き叫ぶパニック状態の雅美さんには困りました。迷惑なおねえちゃんです。拒食症なのでしょうか、彼女は食べたものを吐き続けます。国(国家)は自分を守ってくれない。守ってくれるのは「人」です。ひとりでもいいから慰めてくれる人がそばにいてほしい。
「ほんとうの夏」
 100ページほどの作品です。文字数が少なかったこともあって、わたしには珍しく速読をして、20分もかからずに読み終えました。こちらも日本に住む在日韓国人大学生のお話です。在日韓国人の俊之君は、彼女の芳佳さんを助手席に乗せてドライブ中に軽い追突事故を起こしてしまいます。警官に免許証を見せるときに自分が韓国人であることがわかってしまうので、芳佳さんを無理やり降ろして、徒歩で大学に行けと激しく追い払います。芳佳さんは俊之君が韓国人であることを知りません。恋愛をからめた在日韓国人の悩みとなっています。


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