2012年06月16日

魂萌え(たまもえ) 桐野夏生

魂萌え(たまもえ) 桐野夏生 毎日新聞社

 タイトルの「萌え」からはパソコンショップ街にあるメイド喫茶のご主人様とのたまう十代の女子を思い浮かべ、その世代の物語と予測しましたが、うってかわって、60代以上高齢期を迎える男性・女性の胸にしみいる振り返り人生とひとり暮らしを迎えるかよわき人間観察で、心に残る1冊となりました。
 関口敏子さん59歳の夫である隆之さん63歳が、自宅で入浴後心臓麻痺により突然亡くなります。渡米して8年間交流がなかった息子が帰国して母親の敏子さんに相続を迫ります。敏子さんが息子の妻に会うのも初めてなら、孫ふたりの顔を見るのも初めてです。敏子さんの娘の美保さんは同棲中のようです。そのような家庭が実在するのだろうかと疑問は湧くのですが、現実は小説より奇なりです。
 敏子さんに追い討ちをかけるように、亡夫の愛人が登場するのです。敏子さんの高校の同級生である山田栄子、西崎美奈子、江守和世がからみ、さらに亡夫の蕎麦(そば)打ちサークル仲間の元銀行員・結婚詐欺にあったことありの今井69歳、元百貨店外商部塚本67歳、小久保61歳、辻57歳がからんで、男女関係もできちゃったりして、にぎやかといえばにぎやかではあるけれど、仲間が死んで、その妻と寝るというような不謹慎なこともある、それは友人とはいわないなどと憤りつつ、それでもいいかと思わせる敏子さんの幸せもある。
 とにもかくにも家の外のできごとのあれやこれやに免疫も抗体もない平凡な主婦である敏子さんは狂いそうに、あるいはうつ的になるのです。
敏子さんはがんばりました。この先はどうなるのだろうかと読み続ける楽しみがありました。500ページほどの長編ですが、2日ほどで読み終えました。敏子さんの息子夫婦には、切れそうになります。相続と銘打って、同居の要求から始まり、現金類への強欲は際限がありません。ひとつがまんすれば、ふたついいことがあることを知らない人たちです。敏子さんの娘はまだましですが、それにしても、自分で自分の財産を築きなさいと叱りたい。
 前半は憂鬱なストーリーでした。敏子さんの堪忍袋の緒(お)が切れてからはうれしくなります。苦労人がホテルマンの野田さんです。一見華やかな敏子さんのとりまきメンバーもそれぞれ心の傷を負っています。彼らは今からひとりで生きていく練習をするのです。


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