2012年06月16日

今夜、すべてのバーで 中島らも

今夜、すべてのバーで 中島らも 講談社文庫

 アルコール依存症のお話です。作者はすでに亡くなっています。この本の主人公小島容さんが作者自身なのでしょう。
 病院の大部屋には、作者の身代わりである小島さんと西浦恭三郎さん(94歳)、綾瀬保くん(17歳)、吉田垂水さん(高齢者)、福来益三さん(アル中、高齢者)が入院しています。そして、主治医が赤河医師で、彼もまた酒癖が悪い。
 小説を読み進めながら、すでにここにこれがあったのかと少し失意に陥りました。この場所で、この設定で、この素材の入院生活を小説にできないだろうかと発想したことがあります。(ただ、わたしは、発想はしますが、小説は書けません。)わたしはもう30年ぐらい前、20代の頃、肝臓を痛めて3か月ほど入院生活を送ったことがあります。この小説に出てくる肝生検という検査を受けたこともあります。体がだるくて背中に1トンぐらいの岩がのっかっているようでした。100m歩いただけでも息も絶え絶えでした。
 自分小説だなと思いながら読み進めました。内容は暗いけれど、文章表現は魅力的です。作中の三婆の記事は面白い。主人公はめんどくさいので、3人のおばあさんに松竹梅と名付けます。松が副田ちか子、竹が井口なお、梅が馬渕咲子です。エルビス・プレスリーの薬物中毒意向の記述は、読みながら酔っ払いにしつこくからまれているようでした。
 登場人物たちの動きは入院中であることから小さい。214ページにある西浦じいさん94歳の猪にまつわるお話は深い。彼は人生の達人です。224ページ付近の病に冒(おか)された肝臓の表面描写はアルコールを飲むことが嫌な気分になります。主人公の小島さんと赤河医師、それから綾瀬くん17歳とのやりとりは作者の自問自答です。ラストは意外な終わり方をしました。


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