2012年06月14日

晴天の霹靂(へきれき) 劇団ひとり


晴天の霹靂(へきれき) 劇団ひとり 幻冬舎

 前作「陰日向に咲く(かげひなた)」は傑作でした。前作では登場人物がたくさん登場しましたが、今回は轟春夫(とどろき)35歳売れないマジシャン(手品師)のひとり語りが記述の大部分となります。
 読書感想について、ページをめくりながらの経過に従(したが)って書いてみます。
 晴天の霹靂(へきれき)、ずいぶん難しい漢字のタイトルにしたものです。読書前は、売れない芸人が突然売れ出したというような晴天の霹靂があったと受け取りましたが、小説の中身はまったく違います。
 出だしの書き方は面白い。前半、テレビの話が多いのですが、わたしは、私生活を切り売りして収入を得る苦痛を味わいたくありません。テレビに出ることができない売れないマジシャンの轟(とどろき)春夫くんですから、小説の内容は地味です。場末のマジックバーで働く彼と彼の周囲の人間のやりとり記述は、水準を超えています。轟くんはなんだかみじめな男です。こういうタイプの男性像が主人公となる小説が増えました。
 轟春夫くんの父親及び父子関係に関する構想のヒントは「ホームレス中学生」だと推測します。73ページ付近の記述には、おとうさんがあまりにもやさしくて、息が詰まります。82ページで、「晴天の霹靂」の意味が判明します。この小説自体が手品なのです。
 社会の底辺で暮らす生活が続きます。ドラマの脚本のようでもあります。中盤は期待はずれになってきました。このまま尻すぼみになってしまうのだろうか。203ページにある手品の種明かしは、本来、ことが終わってから書くものではないだろうか。この内容を下地にして書き直したほうがいいとまで思いました。不完全です。
 そして、最後にふーむとうなりました。よくできています。まんまとだまされました。読み手は完敗です。

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