2012年06月13日

新参者 東野圭吾

新参者 東野圭吾 講談社

 第1章から第9章まであります。最初は、各章が独立した短編集だと思って読み始めました。第4章まで読んで、そうではなく、各章が関連している長編だといくことに気づき、あわてて第1章に戻り、登場人物の相関図を紙に落とし始めました。各章の発表年は、2004年8月から始まり、2009年7月に完結を迎えています。5年間という長期間の製作に驚嘆(きょうたん)しました。
 6月10日午後8時頃、ひとり暮らし45歳の三井峯子さんが絞殺されます。舞台は東京の人形町です。行ったことはありませんが、本書中に江戸時代の趣(おもむき)を残す人情味が厚い商店街であることが最初から最後まで詳しく綴られています。
 読み始めに、「加賀恭一郎」という刑事の名前に覚えがあることに気づきました。同作者の作品「赤い指」に登場していた人物です。「赤い指」もこの作品も同一趣向の内容となっています。最初は、人間が動く基準は欲望だけなのかと絶望的な気持ちになります。そこからどんでん返しがあるのですが、それはあまりにも美しすぎる。気持ちが引きます。ただ今回の場合は、三井さんの死について、家族や知人たちが、それぞれ重い責任を感じていることについては納得します。
 読み手の犯人探しについて少し書きます。だれが妊娠しているのか、人間なのか、それとも犬なのかまで勘ぐりました。殺人犯人が、別れた夫では推理小説になりません。320ページで、加賀刑事がすべての独楽(こま)を買い占めた理由がわかり、そういうことなのかと虚を突かれました。さすがです。
 捜査途上において、上杉刑事と加賀刑事のコンビがしっくりいかないところは、現実の職場でのリアルな人間関係が表れています。警察以外でも、こういうことで、あたりまえのことがあたりまえに進まないことがままあります。そして、親として、こどもにどう対応していくべきかという命題はとてもむずかしい。子育ては失敗ばかりです。

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