2012年06月12日

青春の蹉跌(さてつ) 石川達三

青春の蹉跌(さてつ) 石川達三 新潮文庫

 昭和43年の作品です。以前、同じ作者の「蒼茫(そうぼう、青い海原を指します。)」を読みました。おそらく大正時代末期から昭和時代の初期だと思うのですが、ブラジルへ向かう日本人移民の物語でした。日本を出港した移民船の中で、次々と人が死んでいくのです。病死でした。その先は記憶が定かではないのですが、ブラジルへ移民後も、やっぱり人が死んでいくのです。亡くなっていく群像は、日本の貧困な農民家族でした。この「青春の蹉跌」でも人が死ぬわけで、その点で、作者は「死」を扱いたい作家でもあるのです。
 「蹉跌」とは、小学生のときに理科で学んだ砂場での砂鉄とりを思い出します。磁石を砂に突っ込むと磁石に鉄がくっつくのです。でも蹉跌の意味は、挫折とか失敗の意味であることをこの本を読み終えてから知りました。いままで、何十年間も蹉跌は砂鉄と勘違いしていました。そういったことがままあると、今になって気づきました。まだまだ知らないことがたくさんあります。
 本作品の主題は重い。作者は人間の尊厳(犯すことができないおごそかなこと)にかかわる部分に挑戦しています。小説の中だけで表現できる世界です。主人公の大学生江藤健一郎くんの理屈っぽく、偏(かたよ)った考察、彼ひとりの論理展開が延々と語られる手法で物語は進んでいきます。だから読者は、相手方の大橋登美子さん18歳(貧しい家の娘さん)や江藤康子さん(お金持ちの娘さん)の気持ちの動きを自分で想像とか予想する必要があります。
 有名大学の法学部を出て犯罪で逮捕される人物があとを絶ちません。大学の法学部で何を学んできたのかと疑問をもちます。書中に、法を味方につけたものが勝者になる(金持ちになる)というような記述があります。主人公江藤健一郎は、だれを殺すのか。大橋登美子さんか、江藤康子さんか、それとも自分自身の母親なのか。前半にあった場面を後半になって思い出す。スキー場で雪のために遭難したカップルの姿、男性が女性をかばいながらふたりとも亡くなって冷たくなっていた。伏線なのでしょう。男と女は、「好き」という感情がないと長続きしない。


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