2012年06月11日

対岸の彼女 角田光代

対岸の彼女 角田光代 文春文庫

 川は栃木県から群馬県へと流れていく渡良瀬川(わたらせがわ)であり、岸のこちらにいるのは、女社長楢橋葵(ならはしあおいさん)、向こう側にいるのは、専業主婦から兼業主婦になった田村小夜子さんです。対岸とはいうけれど、お互いに女性であるという本質には変わりがありません。
 葵さんが作者自身の化身なのでしょう。小夜子さんの3歳の娘あかりちゃんに関する保育園をはじめとした夫、義母との事柄では、その下地となった情報収集能力に驚かされました。
 掃除チームのボス中里典子さんのセリフには感服させられます。作者の小説家としての力量を認めます。173ページにあるナナコの言葉、他人の荷物をかかえてまで自分は悩めないとか、自分は平気、学校には自分にとって大事なものはない、というようなセリフは、なかなかつくれません。葵さんもナナコさんも魅力的です。
 196ページ付近にある小夜子さんと夫との共働きは是か非かのやりとりは、男性側の勝手な思考となげやりな態度、無理解と無知が象徴されています。こどもは小さい頃から人にもまれたほうがいい。あとで楽ができます。
 物語は過去と現在を交錯させながら進行していきます。これから先、作者はどう筋立てしていくのだろうかと考えながら読み続けました。
 今ある体制(自分と自分の周囲にいる人とか環境)は、10年後の未来にはない。その善悪を問うのではなく、人の人生はそういうものと静かに肯定してあります。

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