2012年06月11日

長い旅の途上 星野道夫

長い旅の途上 星野道夫 文春文庫

 作者はわたしより年上ですが、44歳で熊に襲われて亡くなっています。この本と同時期に「破線のマリス」野沢尚著を読んでいました。同著者はわたしより年下ですが、44歳で自殺されました。長い旅の途上は、アラスカの自然や動物を扱っています。破線のマリスは、東京のテレビ局を扱っています。両者は対極にあるものですが、同時に2冊を読んでいると類似の内容に思えてきます。著者星野氏の周りに人はいるのですが、彼はひとりに思えます。そして、破線のマリスに登場する主人公遠藤瑤子さんもまたひとりです。彼女の周囲にはたくさんの人々がいるが、孤独です。思えば日本人の5割以上が一人暮らしをしているのではなかろうか。高齢者でも若者でもひとりで生活する人が多くなりました。このエッセイは表面上、生き生きとしているけれど、作者のさみしさが伝わってきます。作者は、アラスカで暮らしながらアラスカを朗々と謳い(うたい)あげてはいるけれど、本当は日本で暮らしたかったのだと思う。
 アラスカの風景はオローラをはじめとして雪の結晶が目に浮かび幻想的です。アラスカのクジラはハワイから来るというお話には大きななあこがれを駆り立てられます。自然は神であり、賛歌でもあります。アラスカで暮らす人たちは命が惜しくない人たちという印象をもちました。命を失うことを恐れていない人たちです。人は、いつかは死ぬと悟ってもいます。死ねば自然に還るだけのこと。土に還ればいいこと。長い旅とは「輪廻(りんね)」でもあります。
 (少しずつ読み足しています。今は炎天下の公園のベンチで読んでいます。大きな木の陰なので暑さはやわらぐ。女子高生がふたりでサックスホーンの練習をしています。途切れ途切れのサックスの音が公園に響いている。風が心地よい。冷房が効いた個室にいるよりも気持ちがいい。アラスカの自然を思い浮かべながら涼しい気持ちになる。)
 写真撮影は怖い。撮影者の命が奪われることもある。写真を撮影しなければ生きていけたのに。作者は、アラスカのどこかでカリブー(トナカイ)に生まれ変わって、集団のなかの1頭として大地を驀進(ばくしん)していると思う。生き物はなんのために生まれてくるのか。今そのことを考えています。答えはまだ出ません。

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