2012年06月11日

七人の敵がいる 加納朋子

七人の敵がいる 加納朋子 集英社文庫

 テレビドラマ化されて話題になったようですがドラマを見たことはありません。山田陽子の個性が際立ったようです。小説は7本の短編が各章となり1本の小説を構築するに至っています。
 PTAの役員から始まり、学童保育の役員、子ども会の役員、少年サッカーの父母会、町内会の役員と仕事以外の地域での活動への取り組みが「負担」という後ろ向きな気持ちのまま続いていきます。こどもをもつ親なら避けてとおることのできない道です。
 読みながら思ったことは、過去にそういう時代があったという回顧と郷愁です。こどもができて大変なのは10年間です。いっときの苦しい時期でした。大変だったということは覚えていますが、具体的に何がと考えるとほとんど覚えていません。10年経過したあとの10年以上は役員からもそれがもとでできた人間関係からも遠ざかります。静かな老後が待っています。あまりくどくど考えずにやらねばならないことを無心にかたづけていくことがその時期をのりきる秘訣です。共働きの子育てで忍耐の末成功しているカップルもいるし、破綻したカップルもいました。こどもの心が傷ついたケースもありました。いろいろです。
 章ごとに感想を追ってみます。
「女は女の敵である」小学校1年生の教室でPTAの役員決めです。共働きをしているキャリアウーマン山田陽子は役員は暇な専業主婦がやるべきだと言い放ちます。ビジネスの社会と地域社会は共通ではありません。秩序のあるビジネス社会のほうが実は楽なのです。地域社会にはルールがあるようでありません。だれでもいつでも抜けることができます。山田陽子の意見に同感する部分は多い。されど変化はむずかしい。
「義母義家族は敵である」陽子の立場での記述が続きます。義母に子の世話をお願いします。それも限界ありです。こちらが思うほどあちらとあちらの一族は好意的ではありません。現実です。
「男もたいがい敵である」身につまされました。夫は妻に感謝しない。それから実はこどもも働く母に感謝していない。それぞれ楽な生活を送りたいだけです。民間会社で幹部社員を目指す女性なら子をもつことはあきらめたほうがいいというのはありうる選択肢です。学童保育所での役員決めです。学童保育所を支える組織があります。運営費を稼ぐために資金獲得の活動をしなければなりません。公然と保育料を払わない親もいます。ほとほと疲れます。
「当然夫も敵である」ここまで読んで作者はよくここまで書いたと感心します。自分の立場が悪くなるだろうに。
「我が子だろうが敵になる」継母の設定話を入れることがよかったのか。ネタがなくなっての逃げを感じました。焦点がぼやけます。
「先生が敵である」ロリコンエロ男性教師が登場します。山田陽子は闘う人です。280ページ付近はミステリー作家らしい作者本来の想像世界が描かれていて好感度アップしました。
「会長様は敵である」会長はPTA会長です。だったらあなたが会長をやればいいと言い返されそうです。

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