2012年06月10日

徒然草(つれづれぐさ) 吉田兼好

徒然草(つれづれぐさ) 吉田兼好 長尾剛(たけし)訳 汐文社(ちょうぶんしゃ)

 傑作です。日本の古典はすばらしい。日本人は、タイトルを知っていても内容は知らない。古典に興味をもたせない学校教育とか出版広告が少しうらめしい。もっと早く読みたかった。兼好の言葉として、「月」の呼び方は、1月、2月ではなく、「睦月(むつき)」「如月(きさらぎ)」のほうが、風情があるというものがあります。現代は、効率ばかりを優先して、ひとつひとつをゆっくりと味わう機微(表面には表れない趣(おもむき))に欠けています。
 時代背景は、鎌倉時代ができてから110年ぐらいが経過しています。戦乱の世を迎える室町時代・戦国時代はまだ先のようで、世の中は平和です。舞台は京都です。吉田神社に仕える人の息子さんが兼好で、名前の呼び方は「けんこう」ではなくて、「かねよし」さんと書中にあります。ペンネームであり、苗字は吉田神社からとってあります。同神社は、「鴨川ホルモー」とか「有頂天家族」という作品にも登場していた気がします。(その後吉田神社を訪れました。)
 人生の教訓が語られています。吉田兼好は神社の家に生まれていますが、法師(僧侶)です。本人は、神社とお寺は仲良しで、珍しいことではないと説明しています。随筆のところどころに「身分」に関する記述があります。豪華な家屋敷を建てて贅沢三昧(ぜいたくざんまい)の暮らしを送る「貴族」、同様に鎌倉時代の初めは質素だったけれど、今は貴族と同様に遊んでばかりいる「武士」、そしてたくさんの貧しき人々となっています。
 この作品は、心の救いになる良書です。「双六名人の言葉」では、成功しか考えていない人間の落とし穴について書いてあります。「妖怪猫また」では、ととろの猫バスを思い浮かべました。京都の様子が書いてあり、当時の風俗書の様子もあります。みかんの話では、人々は責任者に責任を求めるけれど、本当に悪いのは「行為者」と責めたくなります。
 「今出川」という地名は知っていましたが、本当に「川」だったことは知りませんでした。「群集心理」について書いてある部分があり、新型インフルエンザを思い浮かべました。何百年経っても人心(じんしん)は変わらないし、変われないことがわかりました。土地の所有権に固執(こしつ、こだわる)する様子は現代も同じです。いい本でした。


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