2012年06月09日

天地明察(てんちめいさつ) 冲方丁(うぶかたとう)


天地明察(てんちめいさつ) 冲方丁(うぶかたとう) 角川書店 

 天地明察とは、本書290ページに登場するのですが、北極星を基準にした星の動き、ことに太陽と月の関係に心をくだき、日蝕・月蝕の日にちと時刻、正確な暦を言い当てるあるいは、間違いのない暦を導き出すことと理解しました。
 背景は江戸時代で、主人公は苗字が色々変わるのですが、名は春海(はるみ)さんです。侍ではあるけれど武術はできず、算術担当、徳川幕府幹部相手の囲碁教師担当となっています。
彼が若い頃の日本には、「宣命暦」があり、その後、春海氏が作成した「授時暦」が生まれ、彼と対立するグループの「大統暦」が存在するのです。たかが暦と感ずるのですが、暦によって大きな財貨が動くのです。そして、それらの暦はどれも正確ではないのです。正確な暦が誕生するまでのドラマが春海氏の生涯を記述することによって小説ができあがっています。
 宇宙がある。太陽と月がある。地球がある。地球が丸いことに江戸時代の算術者たちはヨーロッパの学者同様に気づいています。そのことに目からうろこが落ちました。この本を読むまでは、日本の学問は西洋に大きく遅れをとっていたと誤解していました。先日読んだシーボルトの日記と同様に春海氏は、緯度・経度を計測する長い旅に出ています。
 暦を最終的に決めるのは帝(天皇)、徳川幕府との関係など、庶民からは遠いお話であります。「明察」とは、正解であり、「誤謬(ごびゅう)」が不正解です。解けない問題が「無術」です。春海氏を中心として、算術関係者たちが問題を出し合い、解きあうのですが、春海氏は痛恨の「無術」を出題してしまい、さらに彼が作成した「授時暦」が日蝕で予想の日にちをはずすのです。失敗を繰りかえしながら、彼はその人生の大半を暦づくりに尽くして、太陽を回る地球の軌道が楕円であることを発見し、正確な暦である「大和暦」の完成に至るのです。
 良質な書物で健全な本です。上品でもあります。ただ、それらが要因で、わたしには合わない本でした。箱の表面を手のひらでなぞったような内容でした。記録なのです。暦に対する現代人の気持ちもあります。農耕民族ではなくなった大半の日本人にとっての今の暦は、身近なようで身近ではない。日にちや時間に生活を拘束されることに安定感がある反面、内心不満と苦痛を抱いています。
 算術の天才関孝和氏が登場します。本来であれば、春海氏ではなく、関氏が登用されて暦がつくられるべきでしょう。日本人は血統とか家柄にこだわる民族です。
 ひとつの暦を創るまでには、春夏秋冬をはじめとして、感覚的にいって10年は要するわけで、主人公の春海氏にとって、彼の人生は70有余年だったわけですが、凡人と比較して、彼が人生の時間とか期間を短く感じたのか、それとも長く思ったのか、その点に興味をもちました。

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