2012年06月09日

悩む力 姜尚中(カン サンジュン)

悩む力 姜尚中(カン サンジュン) 集英社新書

 1日あれば読み終えることができる分量であり、読みやすさでもあります。夏目漱石氏の研究書のようでもあります。目次に並んでいる項目は、人として生きていくうえで、重要かつ重くて深い事柄です。自問自答を続けて、悲観することが人間の性分なのでしょう。作者は自身の国籍のことで、若い頃に傷ついたり迷ったりしています。日本人のわたしたちには、永遠に体験することがない苦痛なのでしょう。
 他人が周囲に居ないと自分が成り立たない。これは、「二十歳の原点」高野悦子著に通じます。彼女は親族・他者を排除した結果、最後は鉄道に飛び込んで亡くなっています。周囲の人間との関わりがなくなると人間は病気になったり死んだりします。
 39ページにある、いつでもいつまでも親がわたしを守ってくれるという思い違いをしているこどもさんが多くなっています。付け加えて、いつでもどこでもだれかがわたしの面倒をみてくれるという意識のお坊ちゃまやお嬢さまも増えています。
 「知ってるつもり」は「お金持ちのつもり」にも通じます。日本人は経済的に豊かになったのではなく、借金がしやすくなっただけなのです。
 「悩む人間は水準が高い」という言葉に対して、気の持ちようという言葉もあります。川の流れにたとえてみると、常に流れていることが必要です。流れに逆らわずに、という条件が付きます。停滞は水の濁り(にごり)や澱み(よどみ)につながります。
 宗教については、信じる者は救われるということはあります。信じない者は救われないということはないと思いますが、何かを信じて寄りかからないことには、生きていくことはとてもつらい。
 お金があって働かない人たちのことが書いてあります。たとえお金があっても、働いていないということは、一人前の人間ではないという社会の評価があります。
 「どこかで線を引く」という言葉はいい言葉です。
 高齢者に関する言葉は遠慮があるようです。
最後の固まり部分は、無理をしてページを文字で埋めたという感がありました。頭でっかちな部分がありますが良書です。

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