2012年06月08日

キップをなくして 池澤夏樹

キップをなくして 池澤夏樹 角川書店

 久しぶりに小説らしい小説を読みました。作者は鉄道マニアの作家さんかと思っていました。読了後、その経歴を見てたいへん驚きました。たくさんの文学賞受賞歴がある作家さんであり、なおかつ今では審査員の役割を果たす方でした。
 この物語は遠山至君の「夢」なのか。それとも列車事故で死亡した「霊魂」なのか。秘密をはらみながら物語は進行していきます。わたしはいつものように、他の物語をこの物語に重ねて楽しみました。「ゴースト・ニューヨークの灯」では、地下鉄に住む霊魂たちが超能力取得のための練習をしています。「ドミノ」恩田陸著では、東京駅を舞台にはちゃめちゃなハプニングが発生しています。この本には、加納朋子作品のような淡いミステリーがただよっています。がちょうのモルテンさんの背中にのって空を旅した「ニルスの不思議な旅」まで思い浮かべました。鉄道事故の話では、「悼む人」天童荒太著の主人公が登場します。さらに「オリンピックの身代金」奥田英朗著の主人公テロリスト島崎国男まで行動します。前日に読み終えた「プリンセス・トヨトミ」の舞台大阪国=この物語の東京駅国になります。たてつづけに浅田次郎著「ぽっぽや」とかNHK朝の連続ドラマだった「すずらん」までこの本に重ねてみます。地下鉄サリン事件も登場します。北海道行きの電車は銀河鉄道999(スリーナイン)です。
 本の内容は、こどもたちのお話ですが、ところどころにおとなである作者の姿が登場します。それは、駅長であったり、タカギタミオ君であったり、福島健君であったりします。
 8歳のミンちゃんことみなこさんの話からは、命の尊さが伝わってきます。小学生向けの推薦課題図書になってもいい本です。
 鉄道マニアのための本でもあります。ただ、いささか古いことは否めません。今はもうなくなった青函連絡船が登場します。今の時代では、組織(チームワーク)よりも個人(の能力)が優先されているので、若い人たちがこの物語を素直に受け入れてくれるかどうかは半信半疑です。
 遠山至君は亡くなっていません。話のつじつまあわせとして「有頂天家族」森見登美彦著に登場する動物、タヌキということにして、遠矢君はじつは山手線内にある緑地帯に住むタヌキだったということで、この本をわたしなりの物語に変容させました。

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