2012年06月04日

マザコン 角田光代

マザコン 角田光代 集英社文庫

 短編集8本です。
「空を蹴る」迫力ある文章運び。この作家さんの文体を読み慣れました。はじめてこの作者さんの小説を読み始めたときは、ついていけなくて途中で読むことを断念しました。
 女性作家なれど、男性の主人公で記す。作者の壮絶な体験が文章の背景に見える。それでも女性の気配は残る。自分ひとりの旅をふたりの人物に設定する。グループに属せない孤独。母という「幸福」を失った淋しさ。この作品集では、認知症になったあるいはなりつつある母親が登場します。
「雨をわたる」作中の言葉を借りると、「母はどこでもない場所にひとりっきりでいる。」ひとりで、フィリピンに移住した母について記します。母も子もお互いに親子の愛情はあるけれど気持ちのうえでは一緒に住めない。文字とか文章記述とか書き方の流れにこだわりがあります。
「鳥を運ぶ」離婚した娘(私)を入院した母親が飼育していた鳥たちに置き換えている。うまい。
「パセリと温泉」職場で何もしない管理職の男は、家庭でも何もしないお荷物でしかない。自分だけが正常という家族関係のなかにいるひとり娘です。この文庫の内容は「幸福感のない小説群」です。娘は母を責めつつ、自分も母と同じ思考回路をもつことに気づく。失意が表現してあります。
「マザコン」6才年上38才の妻をもつ男性は、結婚しない方がよかったと後悔しています。彼は母のような女性と結婚しました。
「ふたり暮らし」親の子に対する支配欲から子は脱出を図る。その経過で断絶もありうる。この本は「淋しい家族」の肖像群でもあります。
「クライ、ベイビイ、クライ」作者は何かをたたきつけるように書き続ける。作者は何かを憎んでいる。遠距離居住だと、離婚したことを親に言わないし言えない。母親から送られてきた野菜を腐らせるように滋の生活は腐っていく。やけを起こして職を辞する人を「虚無」はねらっている。自費出版詐欺とオレオレ詐欺をくっつけてある。ネタ切れなのか。母の二の腕に関する記述は効果がない。後味が悪かった。
「初恋ツアー」作者の言葉を借りれば、「すさむ」内容が続く。夫を失くして、老人になった母親が、初恋の男性に会いたいと言う。札幌で出会いの場をつくる。息子は嫉妬する。口にしないけれど女性には男性がらみの秘密がある。息子は親孝行をしたかった。自分の案内で旅行をしておいしいものを母親に食べさせたかった。でも、母親は、夫が死んだ今、昔あこがれていた初恋の男性に会うほうを優先させた。女性は母親である前に女だった。そこからいろいろな気持のゆき違いが生じていく。


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