2012年06月04日

パレード 吉田修一

パレード 吉田修一 幻冬舎文庫

 殺人事件が始まる推理小説だと思って読み始めました。違っていました。高校生の頃に読んだ小峰元(はじめ)著「アルキメデスは手を汚さない」のパターンかと予測しましたが、やはり違っていました。青春群像小説と思って読み続けました。違っていました。「詩」でした。読んでいると胸が重苦しくなってくる作品です。人間生活の悲哀があります。どこに行っても、どこに居ても同じ。新世界なんてないという行き詰まりを表した作品でした。
 21歳大学生杉本良介の「桃子」と名付けた愛車中古マーチは10km走る前にエンストしてしまう。俳優の恋人である大河内琴美23歳無職は、売り出し中の若手俳優丸山君からの電話を待ち続けるだけの毎日。相馬未来(みらい)24歳は売れないイラストレーター、住所不定者18歳小窪サトル(こくぼ)は男娼、主人公らいしいけれど存在感の薄い伊原直樹28歳は、映画配給会社勤務。彼らが2LDKの賃貸マンションに同居しています。
 10年前の本です。580円のコンビニ弁当は高い。ネットの「チャット」とか「BBS」いう言葉はなつかしい。最初に登場する「琴ちゃん」は、他の作品のどこかにも登場する琴ちゃんと同一人物のような気がしたのですが記憶がさだかではありません。同居する5人には家族関係もなければ恋人関係もありません。家賃分担のルームシェアです。されど交流はあります。彼らは仲間を欲(ほっ)しています。擬似家族。擬似きょうだい。そして、各自には、表と裏の心理があります。
 サトルが指摘するように、他の4人は、だらけた生活です。自分を甘やかしている人たちです。小説の構成は5人がひとりずつ語っていく形式です。個性がひとりずつ詳細に記述されるので、読みながらだと、総合的な合体感がありません。前半部は文章がリズムにのってうまく流れている印象がありますが、饒舌(じょうぜつ)で、作者は自分に酔っています。それでも時間移動の文章さばきは上手です。ただ、相馬未来の部分はつまらなかった。また、伊原直樹の部分は夏目漱石の「こころ」とか「門」を意識したような文調です。
作品全体を通じて、なにかの作品をつくるための準備作だったのではないかと察します。登場人物の性格・生い立ち・素行の確定作業をしていた。その素案が、たまたま公表に至った。
 今の時代に本作品を読んでみての感想になります。なにがなんでも「東京」という時代はもう終わりました。それから、この本を読むと自分が20代になった気分になれます。


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