2012年06月03日

オルゴォル 朱川湊人

オルゴォル 朱川湊人(しゅかわみなと) 講談社

 全体で381ページの作品ですが、200ページまで読んで、感想メモがたまったので、感想を書き始めてみます。「呪い(のろい)」から始まります。離婚母子家庭のもうすぐ小学校5年生になるフジワラハヤト11歳の春休みです。呪いをかけるらしき人は、トンダじいさん(2年前に死去。ハヤトと同じ東京の公団住宅単身者用に住んでいたおじいさん)です。ハヤトは、トンダじいさんから預かったオルゴォルを鹿児島まで運ぶのです。200ページの今、大阪まで来ました。
 ハヤトの父親は大手菓子メーカーの役職者でしたが、内部告発をして退職に追い込まれました。夫婦には離婚が襲ってきました。父親は東京を離れて大阪で暮らしています。旅を舞台とするロードムービー(映画)のようです。
 ひとり親家庭になって、こどもにとってうれしいことはありません。ハヤトは母親を母とは呼ばずに「ヒトミさん」と呼びます。ヒトミさんは給食費なんて払わなくていいと言ってハヤトに給食費をくれません。離婚母子家庭の寂しさとかわびしさが伝わってきます。
 トンダじいさんもまた孤独な高齢者でした。自分が死んだらオルゴォルはほかの物と一緒にごみとして処分されてしまう。トンダじいさんはオルゴォルをハヤトに預けて、いつの日かオルゴォルを鹿児島の知人まで運んでほしいと頼んで死んでいきました。でも、鹿児島のその人は亡くなっているかもしれない。そのときは、鹿児島の土に埋めてくれるだけでいいそうです。この時点でわたしは、知覧特攻隊を思い浮かべました。特攻隊の話につながっていくのではないか。(やはりそうでした。)
 ハヤトはひとり旅で大阪の父親に会いに来たけれど、父宅には、父親の新しい妻(父37歳、新妻22歳)がいて、さらに新妻ミチコは妊娠していたのです。ハヤトにとって、異母兄弟が生まれます。そして、東京で待っているハヤトの母親ヒトミには、職場の課長という彼氏がいます。読み手にとって、感情が極まって、今にもどうしたらいいのかわからない感情があふれ出すような危うさがあります。読みながら、人生はそういうことだらけだという気持ちになりました。父親の姓は「深町」ですから離婚した妻ヒトミは、フジワラという結婚前の旧姓に戻ったのでしょう。この手の童話として、「かいじゅうたちのいるところ」デイヴ・エガーズ著があります。その主人公8歳マックスもこの物語の主人公ハヤト11歳も標準ではない家庭環境のなかで、心を曲げずに育っていく勇気を身につけていくのです。
 大阪の地理や鉄道案内が出てきますが、行ったことがある場所が多いので親近感をもちました。後半も広島、宮島、博多、鹿児島と訪問歴がある土地が出てくるので、文中の雰囲気がよくわかりました。この地球上で、自分が気を使わずに居られる場所は案外少ない。ハヤトの頭の中にある日本地図はおぼろげで、新幹線が名古屋駅を過ぎてから車窓の外に富士山をさがしたり、名古屋は「名古屋県」と勘違いしたりしています。ハヤトのクラスメートにマキタシンジロウといういじめられっ子がいます。父親の転勤に伴って、北海道、大阪、静岡、千葉と引越しした体験をもっています。彼は、クラスでいちばんの低身長でメガネをかけています。ともだちはいません。でも、ハヤトに対してやさしい男です。ハヤトは彼を「空気が読めない」と何度も馬鹿にします。シンジロウが、まじめに話をするからです。後半は、このシンジロウ君が鍵を握っていると読みながら確信するのです。あと思うのは、本のカバーの絵のイメージとタイトルほかの字体が内容と合いません。

(上を書いた数日後の早朝に読み終えました。)
 広島と長崎の原子爆弾話が出てきました。そしてやはり、鹿児島の知覧特攻平和会館の話が出てきました。ただし、オルゴォルの届け先は鹿児島市内らしい。相手は、ツガミシズという女性です。話の一里塚(いちりづか)として、鹿児島(特攻隊)、福知山線脱線事故、阪神淡路大震災、広島・長崎への原爆投下があります。鹿児島まで同行してくれたハヤトの父親の新妻の友人相川サエの父親は彼女が高校生のときに飛び降り自殺をして亡くなっています。この物語は小中学生向けだと思うのですが、かなりの項目にページ数のボリュームがありすぎます。一方、「鹿児島」の部分の分量は少ない。ページ数のペース配分が最後近くになってうまくいかなかったようです。


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