2012年06月02日

いちばん初めにあった海 加納朋子


いちばん初めにあった海 加納朋子 角川文庫

 ふたつの作品がひとつの物語を形成しています。「いちばん初めにあった海」、そして、「化石の樹(き)」です。
 それぞれ好みがありますが、この作家さんの文体はわたしに合います。意味がとれない部分が多々あるのですが、それでも気持にしっくりきます。この小説には、「謎」が多い。別の面として、はかないけれど、しっかり構築してある「詩」です。いちばん初めにあった「海」は、子宮の中にある、たしか羊水という名称の水分を指すと考察します。主人公である堀井千波(ちなみ)さんは、亡くなっているのです。彼女は死後の世界から読者に語りかけているのです。彼女は17歳の若き義母という立場で転落事故死しています。彼女は自分が死んでいることを知らない。死んでいるから目は見えないし、言葉を発することもできない。あの世へ行けない霊魂です。そんな彼女に会いに来たのが、成長した義理の娘、YUKIなのです。もっと踏み込んで考えると、千波さんの魂(たましい)のなかに、YUKIが存在しているのです。
 作者自身のことを語る私小説のようでもあります。冒頭付近は、文章がブツブツと切れていたり、つながっていたりして円滑ではありませんが、才能をうかがわせる内容となっています。「化石の樹」まで読むと、こういう時空間移動(じくうかん)もあるのかと感心させられます。からまっていた「謎」は、霧がだんだん晴れるにつれて、姿を現してくる。表現に具体性がないから読者は想像を続ける。
 だれかがだれかを裁(さば)こうとしている。裁く者も裁かれる者も「救い」を求めている。たいした記述です。恐れ入りました。


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