2012年06月01日

蒼穹の昴(そうきゅうのすばる)上・下 浅田次郎


蒼穹の昴(そうきゅうのすばる)上・下 浅田次郎 講談社

 蒼穹とは、青空を指し、昴とは、星、おうし座にある星団を指すようです。青空なのになぜ星があることがわかるのだろう。清国の歴史です。1636年満州で建国、1644年から1912年まで存在。268年間続きました。
 2ヶ月たって、ようやく上巻を読み終えました。読破までにまだあと2ヶ月かかるのだろうか。(結局3か月半かかりました。)上巻終了から感想を書き始めます。
 第一章が、日本で言うところの明治時代はじめの頃の出来事で、李春雲(リイチュユン)、彼が糞拾いのこども時代からスタートします。西太后が権力を振るっていた時代です。彼の名は物語では、春児(チュンル)と表記されていきます。春児の近所に住んでいたのが、梁文秀(リョウブンシュウ)で、科挙の試験に合格してどんどん出世していきます。
 北京にある紫禁城(しきんじょう、故宮)は、以前訪れたので身近に感じます。その後、台湾の故宮博物院へも行きました。故宮博物院で見学していて感じたのは、自分が台湾にいるのではなく、北京にいるように思えたのです。それからときおり物語に登場する北京の胡同(フートン)で夕食をとったのですが、ものすごい量の人と車で、砂ぼこりもすごかった。エネルギーの固まりみたいなところでしたが、都市化のために次々と取り壊されているそうです。日本でいうところの長屋という印象でした。
 本を読み進めながら、春児は将来どんな大人物になるのだろうかと興味津々になりました。最初、ピイウーが何者で、何のために何をしているのかがわかりませんでした。アヘン中毒の記述からはなかにし礼著「赤い月」を思い出しました。占い師白太太(パオタイタイ)の言ったとおりになるのは神秘的です。
 試験制度について考えました。何万人のうちのひとりに選ばれたとて、絶対的な権力者の僕(しもべ)としてしか生きられない。カンニングがらみの116ページあたりの記述には教えられます。
 さて、上巻をふりかえって、文章力がすごい。資料をどこでどうやって入手して、それをもとにどう考察して作品を形成しているのだろう。春児は京劇の役者になるようです。281ページ、がんばれ春児! 英雄になれ!!

 下巻を読み終えました。夜眠る前に少しずつしか読まないので、なかなか前に進みませんでした。新発見として、わたしは清国が滅んだのは諸外国の侵略によるものと考えていました。しかしそれは、側面であって、核心部分の理由は「内部崩壊」です。組織は外部からの力によって壊れるのではなく、内部からの力によって壊れることがわかります。99年後の香港返還の記述にはうなってしまいました。99年後にはそれを決めた人はだれもいない。そして今、わたしたちがいるのです。文章が時間(とき)を超えています。
 162ページ春児の語りを読む。すごいなあ。説得力があり絶品です。また北京に行きたい。そういえば、北京での夕食時に同席された1日ツアーのご夫婦たちはリピーターばかりでした。それも2回目ではなくて、毎年、もう何年も北京を中心にして西安をはじめとした諸都市をからめて旅することが習慣になっている人たちばかりでした。今日の万里の長城は今までで一番良く見えたというお話をうかがったときには、幸運だったと感じました。いつもはスモッグで遠くが霞ん(かす)でいてよく見えないそうです。とあるひと組の年配のカップルが「(夫婦になって)いろいろありました。」とつぶやきました。まわりにいた夫婦たちも無言で(自分たちもと)うなずいたのでした。
 さて、物語に戻って、人間集団には、国王とか天皇とか、集団の象徴がないと存在できないのだろうかと感じました。春児の妹、玲玲(リンリン)は歴史を背負っています。彼女が助演女優として物語を支えています。梁文秀(リョウブンシュウ)は、実在の人物だろうか。袁世凱(えんせいがい)は学校で習いましたが、この本では気弱な男というような捉(とら)え方がされていて、豪快な人というイメージが崩れて、意外でした。
 385ページ、すごい人物が登場しました。彼はまだこどもです。涙がにじんできます。この物語はこの下巻では終わらない。どうも同著者の「中原(ちゅうげん)の虹」につながっていくようです。

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