2012年05月31日

いつか陽のあたる場所で 乃南アサ


いつか陽のあたる場所で 乃南アサ(のなみ) 新潮文庫

 339ページの小説ですが、文字が大きいので、半日もあれば読めます。刑務所を出所したふたりの女性の物語です。小森谷芭子(こもりやはこ)29歳、罪名昏睡強盗、江口綾香、41歳、罪名殺人です。いずれも男性関係が動機の犯罪となっています。安心して読める文章運びです。同時期に、小暮写眞館(宮部みゆき著)を読んでいました。それぞれの登場人物が、東京上野公園(動物園)へ行くわけです。わたしは、その場面を重ねて、両方の小説に出てくる登場人物がすれ違ったり、同じ光景をながめたりしながら、でもそれぞれ別の人生を歩んでいると想像して楽しみました。
 設定に関して少し語ります。出所した犯罪者を許すのか、許せないのか。小森谷さんも江口さんも男性に恵まれず、あるいは育ちに恵まれず犯行に至った経緯があります。その点で、許しがたいとまでは思えません。されど、これが、被害者に非がないとなれば、心理は一変します。人を殺した人間の罪が服役で償われたとは思えません。被害者の遺族にとって憎しみは永久に消えないでしょう。また、東野圭吾著「手紙」にあったように、加害者家族のその後の生活も深刻です。「いつか陽のあたる場所で」という加害者に期待をもたせるような明るい雰囲気は、小説の中だけにしてほしい。悪いことをした人間をかばおうとする古い日本人の性質には共感したくありません。
 126ページに新米警官高木聖大(せいだい)くんが登場します。22歳、身長174cm、体重66kg女好きの彼は同著者の「ボクの町」の主人公です。こちらの小説でも、彼の性格はそのままで、うれしかった。そして、325ページでは、同作者著「ニサッタ、ニサッタ(明日という意味)」に登場する竹田杏奈(あんな)さんが、江口さんに姿を変えて登場します。感激しました。小説家はこうして、自分の地図をつくっていくのです。

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