2012年05月30日

おつきさまのやくそく いとうひろし

おつきさまのやくそく いとうひろし 講談社

 今はもう亡なくなったフォークシンガー河島英五さんの「生きてりゃいいさ」という歌がこの本の読み始めに頭の中を流れてきました。15分間もあれば読み終えてしまう小学校3・4年生向けぐらいまでの物語です。夏休みの読書感想文を書くに当たって、どの本がいいか迷っておられるようでしたらお勧めの1冊です。 父子家庭でいつもお留守番をしている7歳ぐらいのさびしそうな「ぼく」が主人公です。おつきさまは「ぼく」に何を約束してくれるのだろう。ママがいない理由は離別なのか死別なのか最後まで語られません。クレーター(火山の火口のような穴)でぼこぼこのおつきさまのお顔は、間寛平(はざまかんぺい)さんのようで、見ていると自然に笑顔になれます。おつきさまは、侵入者であり泥棒ではなかろうか。そんな心配をよそに、「ぼく」と「おつきさま」とのやりとりにしみじみとしてきて涙がにじみそうになります。優れた作品です。言葉あそびやアイデアの発想などが楽しい。おつきさまは、指導者ではなく、「ぼく」の弟のようです。
 仕事で家にいないお父さんが交通事故に遭って、おつきさまになって、「ぼく」に最後のあいさつをしにきたのだろうかと勘ぐりました。作者はこれからこの物語をどう運んでゆくのだろう。落語を聞いているようでもあります。
 片親家庭の淋しさはひしひしと伝わってきます。子育ての場面では、幾度もこどもに対して「かわいそう」という言葉が登場します。子育てを終えた自分がふりかえってみると本当にかわいそうだった回数は、とても少なかった。大げさにかわいそうと考えすぎた。甘やかせば、厳しい世の中を生き抜いていくことができない人間になってしまいます。こどものときのかわいそうは、かわいそうだけで、すまされますが、おとなになってからのかわいそうは手遅れなときもあります。
 淋しさを克服するために夢をもつ。親子にとって大切なスキンシップをもつ。伝承していく。この物語は上手にできあがっています。
 今、偶然ですが、この家族と似たような設定の本を同時期に読んでいます。「左岸」江國香織著では、大学教授の10代の息子が自殺して、両親は離婚してしまいます。「悲しい本」マイケル・ローゼン作では、20代の息子を交通事故で亡くして、妻とも離別したらしき男性が嘆き悲しんでいます。親子が一緒に食事をとるとか、同じ部屋で川の字になって寝るとか、そんななにげない、あるいはなんでもないことが、しあわせなのです。

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