2012年05月27日

ぐるぐる猿と歌う鳥 加納朋子

ぐるぐる猿と歌う鳥 加納朋子 講談社

 書名は「ぐるぐるざるとうたうとり」ですが、書中では「ぐるぐるざるとハミングバード」と紹介されています。
 児童虐待を素材にした小学生向けの物語です。主人公は、高見森(しん)くん小学校5年生で、東京から福岡県北九州市に引っ越してきました。お隣に住むのが、佐久間心(しん)くん同級生です。登校班の仲間が、十時あや(ととき)さん、竹本5兄弟などです。「登校班(当地では分団といいます)」そして、9人のこどもたちの紹介を読んでほろりときました。50過ぎのわたしにも登校班の経験があります。
 高見森くんと女の子の出会いと別れのミステリーがあります。当時、ふたりとも5歳でした。これが伏線になっていって、最後に秘密が明らかにされます。
 文章がとてもいい。なにげないセリフなのですが、なかなか文章で出てくる表現ではありません。作者はあとがきで、製作にとても長い時間がかかると、自分自身を責めながら申し訳なさそうにしているのですが、長考の末に出てきた登場人物の言葉であることが伝わってきます。30ページにあるおかあさんの「おとうさんは疲れているのよ」というセリフはなかなか出てきません。
 さし絵がいい。シャープじゃないのがいい。ぼてぼてっとして、小学生ぽくて、場面を想像しやすい。
 同作者の他の作品群も通してですが、作者は名前にこだわる人です。あまりにもこだわりが強すぎてついていけないときもあります。文学者である所以(ゆえん)なのでしょう。
 前半から中盤にかけて、今時の「携帯電話」とか「チョー」がつく言葉遣いとかテレビとかネットとかゲームが出てこないことが好印象でした。しかし、残念ながら後半では登場します。せっかく九州弁がいい香りを放っているのにもったいなかった。
 平屋(ひらや)の社宅が並んでいるから成立する物語です。マンションとか2階建て一戸建てでは無理です。その点で、この物語は、昭和時代の郷愁でもあります。
 理屈よりも気持ち優先です。小説の中では許されます。小説は夢なのです。こうあったらいいと願う夢です。現実社会では、登場人物のとあるこどもは施設収容です。208ページから続くわずか4ページの記述には身が引き締まります。

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