2012年05月24日

先生のわすれられないピアノ 矢崎節夫


先生のわすれられないピアノ 矢崎節夫 ポプラ社

 以前、鹿児島県の知覧特攻平和会館を見学しました。出入り口近くにピアノが置かれていました。そばに、ピアノに関する紹介文があり、この本のことが書いてありました。こどもさん向けの本です。先生とは上野歌子さんで、16歳で佐賀県鳥栖市(とすし)の小学校の音楽教師(見習い)になられた方です。ピアノはドイツ製で価格は家5軒が買えた、当時だと5000円となっています。買ってくださったのは、婦人会の方たちで募金が原資となっています。購入したのは昭和6年です。
 特攻隊で死地に赴く(おもむく)若者ふたりが小学校を訪ねてくるのです。音楽大学の学生さんだったようです。死ぬ前に思いっきりピアノを弾(ひ)かせてほしいのです。曲名はベートーベン作曲の「月光」です。
 クライマックスシーンは、数時間の出来事です。それ以外のページをどうやって埋めるのでしょうか。実在したたくさんの人たちの名前が登場します。校長、音楽担当教師、役所の職員などです。美談となっています。そこに時代背景、歴史上の事実があり、戦争はもうやめようというメッセージが流れています。佐賀県の脊振山地(せぶり、吉野ヶ里遺跡のそば)とか、鳥栖市(とすし)、それから大分県の日田市などが地理的要素として登場します。いずれも行ったことがあるので、身近に感じます。
 上野先生は英語を学びたかった。でも、敵国語であるので、学びにくかった。戦時中、英語表現を日本語表現に直す記述があります。こっけいで無意味です。52ページに、昆虫記を書いたファーブルの言葉があります。涙がでそうになります。運命を変えるチャンスは3度ある。よき教師に出会ったとき、よき友人にめぐり会ったとき、教師にも友人にも出会えなくて、1冊の心を打つ本にめぐり会ったときとあります。179ページの畑田義則さんの言葉にも胸を打たれました。二度と同じ過ちを繰り返さないために、このピアノを保存したい。魂(たましい)がこもっています。
 戦時中の学校教育はめちゃくちゃです。読みながら、自分はいい時代に生まれた。不平不満は言えないという気持ちになりました。
 この本を読み終える頃に、自分はもう一度知覧特攻平和会館に行かなければならないという強い意思が生まれました。若者たちが残した遺書をていねいに読まねばならないのです。

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