2012年05月23日

僕たちの旅の話をしよう 小路幸也

僕たちの旅の話をしよう 小路幸也(しょうじゆきや) MF文庫(メディアファクトリー)

 巻地小学校6年生の藤倉舞ちゃんが飛ばしたお手紙付き風船が、3人のこどもたちの手に届くところからお話が始まります。受け取ったのは、小学校5年生の芳野健一くん、小学校6年生の喜田麻里安さん、小学校6年生の半沢隼人くんです。
 風船お手紙で交流が開始するのですが、舞ちゃん以外の都会のこどもたちは、パソコンのメールで交流が始まるという対比がおもしろい。舞ちゃんは、山村の限界集落(人口が減少してやがて人がいなくなる)に住んでいます。パソコンや携帯電話などの電子機器がないけれど自然には恵まれています。
 こどもたちは、父と母が離婚交渉をしていたり、母が男をつくって出て行ったり、父が新興宗教の活動をしていたり、祖父が外国人だったりといろいろな家庭の事情を抱えています。
 健一くんは視力が抜群にいい、麻里安さんは、匂(にお)いで人柄の区別ができる。都会の3人は、田舎の舞ちゃんの家まで旅をしようと計画しますが、計画中に健一くんが行方不明になってしまいます。中盤で、3人と舞ちゃんはもう会えないのではなかろうかと心配しました。
 親に不信感を募(つの)らせながらも親の愛情を求めているこどもたちです。遺伝について考えました。親をうらんでいる彼らもまた、やがて親のようになります。彼らの親もまた、その親の性質を受け継いでいます。こどもは親のようになるのです。
 こどもたちの様子がだんだん現実離れしていきます。こどもたちが妖精になっていくようです。そして、こどもたちにとって「親」は悪魔のような存在になることもあるのです。各章は「手紙」が起点となっています。ただ、248ページにある最後の手紙は必要なかったでしょう。親とこどもとの心の距離がなぜにそんなに遠いのか。後半の物語展開はいまいちでした。
 小学校という建物の中にいる間、こどもは平等です。小学校という建物の外に出ると、こどもひとりひとりは、さまざまな問題を抱えており、彼らは他者とも自分自身とも闘っています。

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