2012年05月19日

リンゴが教えてくれたこと 木村秋則

リンゴが教えてくれたこと 木村秋則 日経プレミアシリーズ

 無農薬によるリンゴづくりに挑戦して、失敗の連続で家族が貧困に陥って、11年が経って、ようやくリンゴの白い花が咲いて、赤いリンゴが実(みの)ったという感動的な経過と結果が本人によって記されています。キャバレーでの就労は、とても真似できません。こどもとの関係では、PTA会費も払えない悲しさがあります。
 この本の魅力は、木村さんのお人柄とご家族の協力、本当のリンゴの味、そして、うつ状態の人が読むとほっとできることです。前半の100ページで100%堪能(たんのう)できます。それ以降は、作物の育て方となり、ことに148ページ以降は、農業従事者向けの内容となっています。わたしは、そのページ以降は読みませんでした。
 害虫・益虫の観察、同様に鳥の観察、一本一本のリンゴの木への声かけ、まるで宗教のようです。お店で売られているリンゴ1個にも心がこもっていることがわかります。作者は意外に若い。都会暮らしの経験もあり、工業簿記を学んでいたことから数値による表現があちらこちらに出てきます。文章はアマチュアですが、説得力があります。苦労の積み重ねの体験は、想像を絶(ぜっ)します。
 長い人生は、常にいつでもベストでは、ありえない。長い経過のなかで、いい時もあるし、ついていない時もある。そう慰められます。はじめにある、地球の自然にとっては、人間はいないほうがいいという言葉は、的を得ています。人間=毒です。あわせて農薬も毒です。作者は農薬の散布で体を壊します。農薬でできた果実や野菜を食べているわたしたちの体も蝕(むしば)まれているのでしょう。
 24ページ付近にある開放的で寛容な学校運営はなつかしい。わたしたちはたくさんのものを失いました。

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