2012年05月18日

いつも旅のなか 角田光代

いつも旅のなか 角田光代 アクセス・パブリッシング

 海外旅行記です。登場する国々は、モロッコ、ロシア、ギリシャ、オーストラリア、スリランカ、ハワイ、バリ、ラオス、イタリア、マレーシア、ベトナム、モンゴル、ミャンマー、ネパール、タイ、台湾、アイルランド、中国、韓国、スペイン、キューバと多彩です。読み終えて、わたしが行きたいと感じたところはモロッコ(砂漠、峡谷)、ギリシャのカランバカ村(岩山の上に修道院が建設されている。)、ベトナム(北ベトナムの首都だったハノイ)、モンゴル(大地と大空が広がる風景)、タイ(プーケット(リゾート地))でした。
 読み始めて驚かされたことは、短文なのです。1か所の記述があっという間に終わってしまいます。また、その土地の暗い部分が記述されています。直接的な観光勧誘案内にはなっていません。読み始めは物足りない感じがしていましたが、読み進むにつれて、やはり作家さんの文章です、中身が濃厚になり力強さが湧き出してきます。
 作者は大変かわいらしい容貌なのですが、していることはおじさんです。タバコを吸い多量のアルコールをたしなみ、前へ前へとイノシシのごとく突進していきます。うまく表現できませんが、著者は幸福(しあわせ)を追及しているのではなくて、シアワセ(カタカナ表記になります)を追い求めています。
 ロシアにしてもキューバにしても社会主義の国では、人が働かないという印象をもちました。競争主義ではないので、働かなくても配分されるものがある、お金持ちから配分されることを当然のこととして受け止める、汚職が蔓延(まんえん)する、権力者が派閥や親族の利益を優先する、そんなところです。
 ギリシャの旅は楽しく読みましたが、作者はひとりぼっちでなんだかさみしい。全体をとおしてですが、やはりひとりごとのような記述が多くなり、作者の孤独が浮き彫りになってくるので、わたしは作者のような旅はしたくありません。以前読んだ同作者の作品「だれかのいとしい人」を思い出しました。
 ミャンマーでは観光客でさえ「ス・チー」という言葉を発してはいけないようです。言論の自由は大切です。
 全体をとおして、毎日大量の文字を書いている作家さんの文章だと感じました。内容には意味深いものがあります。キューバ編、300ページ付近にある作者の記述「何を成していようがいまいが、日常を生きるごくありきたりのひとりである」は名言です。

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