2012年03月11日

ビブリア古書堂の事件手帖 三上延

ビブリア古書堂の事件手帖 三上延(みかみえん、男性) メディアワークス文庫

 神奈川県大船と鎌倉を舞台にして物語は始まります。昔は映画の撮影所があったそうですが見たことはありません。そのそばに「ごうら食堂」があってその経営者の孫が主人公五浦大輔(ごうらだいすけ)です。(もちろん架空の設定です。)彼が北鎌倉の「ビブリア古書堂」で働き始めて辞めるまでの間に起きた事件が1冊目に収められています。ビブリア古書堂の店主は、篠川栞子(しおりこ)で今は足を骨折して入院しています。
 古書店を舞台にして、古書を素材にした推理小説というスタイルを初めて目にしました。大輔の筋書きがあって、別に栞の筋書きがあって、ふたつを重ねて、トリックを仕掛けるという手法です。もちろん大輔と栞の間にはLoveの感情が通いあっています。
 登場する古書名は聞いたことがないものがほとんどです。太宰の「晩年」は読んだことがありません。夏目漱石「それから」は読んだことがあります。不倫話です。祖母の不倫から血縁関係のどろどろ話にまで発展します。全体をとおしてアンバランスですが、若いひとたちには受け入れることができるのでしょう。頭が固くなってしまった初老のわたしには苦しい。登場人物たちの外見(顔、スタイル)と性格が正反対です。古書店に大輔を置き、病院に栞を置く。その周囲に個性的な登場人物を置く。古書に従事する人たちは、内気です。本以外のことで会話をすることができません。控えめな小説です。書店を中心としたグループの雰囲気はいい。後半は強い事件性を帯びてきます。うまくできています。印象に残った文節です。
 今まで読んだ小説を全部暗記してるんですか?
 わずかな手がかりからよくここまで思いつくものだ。
 本さえあればなにもいらない。家族も友人もいらない。
(2冊目を読んでみます。)
 3話が収められています。1冊目よりもずいぶん読みやすくなりました。書き方がすっきりしました。1冊目にはぎこちなさがありました。主人公である長身の就職浪人五浦大輔は本をながめたり、整理したりすることは好きだけれど祖母に叱責されてから本を読めない体質になったとか、美人で可愛らしくて巨乳でメガネをかけた篠川栞子さんは内気で小声、古書以外の会話はできないとか、銀行員のようなきちんとした服装ではあるけれど前科者という男性も登場します。別の男性は、ホームレスなのに古書通という風貌と一致しない性格設定を受け入れることに労力を費やしました。
 第一話は中学生の読書感想文盗作問題です。中学生女子相手にそこまで追い込まなくてもという気持になりましたが結末に納得しました。作者の真剣さが伝わってきます。内容は真面目です。男女間のさわやかな別れが誠実に描かれています。3冊目も出るようで、短編の内容は研ぎ澄まされてゆくことでしょう。なさぬ仲の母子関係があります。栞子さんには失踪した母親がいます。彼女には、母を許せないけれど許したいという迷いがあります。古書店という地味で平板なステージに推理とサスペンス、人間ドラマを展開させる筆力はすごい。心に残った文節は「この読書感想文を書いた人は本当の意味でこの本を読んでいません」というようなセリフでした。


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