2011年11月03日

江分利満氏の優雅な生活 DVD

江分利満氏の優雅な生活 DVD

 えぶりみつる氏ではなく、Every Manと読みます。山口瞳氏の小説の映画化ですが、わたしは同氏も映画のことも知りません。「するめ映画館」という本で、村上春樹氏と都築響一氏の対談に登場する邦画です。噛めば噛むほどするめのように味わいがある映画です。1963年の作品です。最初と最後のサラリーマン男女による屋上でのダンスシーンは気に入りました。途中、チャップリンの無声映画とかドリフターズのコントを思わせるような映像もあり楽しい。それからマンガも面白い。でも、直木賞受賞後に酒を飲んで、くだをまく江分利氏は嫌いです。戦争体験者の愚痴が延々と続きます。内容としては、サラリーマンが直木賞を受賞する経過を追っています。小説の内容は劇中奥さんの言葉を借りると「身辺小説」です。昭和20年代から30年代始めの歴史経過フィルムを観ているようでもあります。わたしより上の世代の人たちが描かれていますが、いつの時代でもこどもは、やりたいほうだいする父親の存在に悩まされています。
 サントリーの宣伝部員として働く江分利満氏33歳のひとり語りが映像を先へと導きます。今年見た映画では、ツリー・オブ・ライフがこのパターンでした。息子が父親について語るものでした。回想でしたが、江分利氏のほうは未来へ向かっていくものです。それでも、現在から見ると過去の日本です。作家も主演者ももう亡くなっています。
 映像がつながっていく手法で場面が変わることに好感をもちました。これは、「ウォーター・ボーイズ」でも用いられています。
 昔は息子30代で親を亡くしていた。日本人は長生きになりました。タイトルに優雅な生活とありますが、江分利氏の生活は借金に押しつぶされています。自分の借金ではなく親がつくった借金です。また、大正生まれは青春時代に戦地に赴いています。戦後世代に対してうらみつらみがあるようです。終戦後に生まれた世代は、所得倍増をはじめとして豊かな高度経済成長時期を過ごし、社会主義かと思うほどの社会保障を享受(利益を受けて楽しむ)しています。無料あるいは小さな負担で生活を楽しむ。経済は衰退へと変化しているのに既得権を確保する気持ちは薄れない。狭間となる支える世代は若いときも老いてからも苦しい。この映画を観ながら感じたことです。

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