2011年06月19日

BOX! ボックス 百田尚樹

BOX! ボックス 百田尚樹(ひやくたなおき) 太田出版

 「ボックス」=ファイトの意味です。「ボクシングをする」からボックス(たたかえ!)という言葉になっています。
 高校生のアマチュアボクシングが素材で、舞台は大阪です。うさぎと亀の物語でもあります。うさぎは、鏑矢(かぶらや)という高校1年生の天才ボクサーです。彼は才能に溺れており、しっかりとした練習をしません。亀は、彼の幼馴なじみ木樽優樹(きたる)です。彼は鏑矢にあこがれてボクシング部に入部し、愚直にパンチの練習を始めます。天才ボクサーである鏑矢は喧嘩好きで下品、いっぽう木樽は特進クラスの勉強ができる生徒です。いつしか、木樽は、天才ボクサーである鏑矢を超える実力を身につけます。書中では「化ける」と表現されています。主人公は鏑矢または木樽と思いがちですが、本当はマネージャーの丸野智子です。「もし高校野球のマネージャーがドラッカーのマネジメントを読んだら」という本が話題になっています。その野球小説のマネージャーの川島みなみ、北条文乃(あやの)、そして、宮田夕紀、二階正義などの役割を果たすのが、この本では、丸野であり、英語教師高津耀子(ようこ)23歳、ボクシング部顧問保健体育教師沢木、ボクシングジムトレーナー曽我部です。アニメ「スラムダンク」も目に浮かびます。小説にも囲碁や将棋のような定石があります。感動を生むための歩みです。
 ページ数の多さは、ボクシング解説書のような説明文の長さにあります。585ページの作品は1000ページくらいのページ数に感じます。アニメシナリオのような始まり部分からその後の経過を経て、400ページ付近から深層心理に響く重厚な作品のきざしが出始めます。445ページ、そこまで読み続けた読者にだけ贈られるご褒美(ほうび)は涙です。泣けます。
 前半は面白いとは言えず、同作者の「永遠の0(ゼロ)」を読んだ者には期待はずれです。でも、だんだん物語の展開に引き込まれていって、いつしか、本読みをしている自分の周囲の光景が変化していきます。自分もリングサイドで観戦しているのです。作者は鏑矢を負けさせないつもりか。最後は真面目であることに到達します。ひとりの女性を巡って闘うふたりの男、後半では軍鶏(しゃも)という表現がなされます。あなたは、軍鶏を見たことがありますか。わたしはあります。ニワトリ同士を闘わせてどちらが勝つか賭けるのです。ボクシングという競技に通じる原始的な闘争という要素があります。
 勝ったり負けたりを「勝負」という。ボクシングを引退してからの人生の方がボクシングをする期間より長いという。太陽の個性の人と月の個性の人があるともいう。この小説は「風」で始まり「風」で終わるのです。読んでよかった1冊になりました。


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