2023年06月21日

酔うと化け物になる父がつらい 菊池真理子

酔うと化け物になる父がつらい 菊池真理子 秋田書店

 著者を主人公にしたマンガ本です。
 うちの父親もお酒のみだったので家族が苦労しました。
 わたしが中学のときにお酒が原因で内臓を壊して亡くなりましたが、後年、老いた母親と『もし生きていたらたいへんな目にあっていた』とふたりでしみじみ話したことを、このマンガストーリーを読みながら思い出しました。
 お酒のみの親のこどもに生まれた苦悩は、体験者にしかわかりません。
 お酒のみと結婚すると、しなくてもいい苦労を体験することになります。

 こういう男性像って、けっこう現実にいます。
 仕事はしっかりやりたいタイプ(人からは良く見られたい。だからまわりの人にはチヤホヤされる。ときには、他人のいいように利用されるけれど本人はわかっていない)
 仕事仲間との人間関係は良好(そのぶん家族は犠牲(ぎせい)になる)
 仕事仲間との付き合いが大事(主人公の父親は、休日は仲間とソフトボール、マージャン遊びをします。当然、付き合いにアルコールもからみます)
 そして、安易に保証人になってだまされる。

 へんな話ですが、お酒のみの親をもって、メリットがあったこともあります。
 成人して社会に出て働き出して、そこにもやっぱりお酒のみがいるのです。
 職場の人や顧客(こきゃく)にもアル中みたいな人がいます。
 自分は酒のみを怖いと思ったことがありません。酒のみの扱いに、こどものころからの体験で慣れていたのです。相手が酔っ払って大声を出して暴れて威嚇してきても(いかくしてきても。こわがらせて言うことをきかせようと要求してきても)、どうってことありませんでした。
 自分が若かったこともあって、いざ取っ組み合いのケンカになっても、酔っ払ったおじさん相手なら、俊敏に動けてみなぎる腕力がある自分のほうが強いわけで、相手に勝つ自信が十分ありました。酔っ払い慣れして精神的にもずぶとかったので、メンタルの病(やまい)になることもありませんでした。その点は良かったと思います。

(つづく)
 
 マンガによるメッセージ本です。
 タイトル『酔うと化け物になる父がつらい』から発想する別の本があります。『母が重くてたまらない』です。10年ぐらい前に読んだ時の感想コメントが残っていました。こちらのマンガの内容と共通する部分もあります。

『母が重くてたまらない 信田さよ子(のぶたさよこ) 春秋社』(当時の読書メモの一部です)
 読みやすい本です。読み終えるまでに1日かかりません。読み始めで、作者の意見に同感します。こどもにとって親は重荷です。こどもに自分の面倒をみてもらうことを期待しないでほしい。こどもにあれこれ干渉しないでほしい。何か趣味でももって、こどものこと以外のことに没頭して欲しい。こどもは、親が思うような進路をたどってはくれません。こどもの人生はこどもの人生であり、親の人生ではないのです。
 本に書かれてあることは、表面に出てこないだけで、どこの家庭でもあることなのでしょう。こどもに重くのしかかってくる母親は暇なのでしょう。主婦は実はひきこもりという解釈は新鮮でした。
 自分のことは自分でやる。こどもに依存しない。親に依存しない。親も子も自立する。わたしはこの本を読んで、慰められました。今まで親孝行とは反対のことをしてきたのですが、いつも罪悪感に苦しんでいました。しかしそれは間違っていなかったことをこの本は示してくれました。

 さて、マンガに戻ります。
 父親はお酒のみ、母親は宗教活動にのめりこみです。かわいそうな姉妹がいます。こどもにとって、苦しいパターンの生活環境です。
 姉が主人公ですが、主人公が成長して、付き合う男性もアルコール依存症のDV男(ふだんはおとなしくてまじめそうだが、裏では暴力で女性を支配する男性)です。悲劇です。学歴があって一流企業で働いていても異常な人格をもつ男がいます。
 
 お酒のみの人は、自分が何をやっても許してもらえる。許されると勘違いしています。許されません。アルコールが抜けるとケロッとしています。なにもなかったことにしてしまいます。
 意志薄弱なのです。がまんができない。物事を最後までやり遂げることができない。決断も判断もできない。反対に相手や周囲に向かってクレーム(文句もんく。不平不満。要求)はいくらでも出せる。愚痴話(ぐちばなし)が多い。
 『父にとって母は、愛する女ではなく、召使い、酔った時の介護人(だった)』(よくあるパターンです)

 母は自死してしまいました。

 自分が成人してから知ったことが、アルコールを大量に摂取する人の死に方です。
 内臓がぐちゃぐちゃになって、体の働きが正常に機能していかなくなるイメージがあります。
 おしっこ・うんこのコントロールが自分でできなくなって、オムツを付けて、糞尿(ふんにょう)まみれになって死んでいく。(このマンガの本を読んでいたら、最後のほうでそのようなシーンに出会いました。やっぱり……)
 そこまでしてアルコールを飲む理由は、心の病(やまい)なのでしょう。依存症です。

 主人公の父も物語の最後では全身がんのような状態で亡くなります。食道にも肺にも脳みそにもがんができます。ステージ4の余命宣告です。あと半年の命です。まだ70歳手前の年齢です。(父親には借金がありますから死後『相続放棄』の手続きをしなければなりません。しないとこどもは借金取りに追いかけられます。負(ふ)の相続財産です。なかなかたいへんです)
 父親は、年金保険料も納めていません。今さらですが…… 今まで、父親は、なにをしていたのだろう。無年金者の老後は、アウトです。生活保護しか思い浮かびません。

 自死で母親を亡くした長女の主人公は、父子家庭において、母親の役割を果たしていかなければなりません。
 これが、男の兄弟だと、長男が父親代わりを務めなければなりません。長男は、ぐれる(不良になる)わけにはいかないのです。男でも家事はやります。料理もチャレンジします。

 読んでいると気の毒で、こんな父親は切り捨てればいいと思ってしまいます。
 主人公が二重人格になっていきます。外面(そとづら)はいい。家では暗い人間です。(そのうち、父親に対して暴力を振るい始めます。DVドメスティックバイオレンス、父親虐待です)

 親がアル中というこども体験のある人はけっこう多そうです。
 そういう体験をした人は、おとなになってから、アルコールは飲まないか、たしなむ程度なのでしょう。あるいは逆に遺伝でこどももやっぱりアルコール漬けになることもありそうです。

 ナルシスト:自分が好き。自分を愛する。自分は立派な人間だとうぬぼれる。自信たっぷり。

 父親のようすを見ていると、世話をするほうは、自分はもうこの世にいたくないと思ってもおかしくありません。父親は、人間のクズです。

 父親の友人にあんがいいい人もいます。いい人にも苦労体験があるのでしょう。
 理屈ではなく、感情で付き合う人間関係です。
 父親は若いころ小説家志望だったらしい。
 破滅型の小説家ですな。
 不思議なのは、主人公の祖父母とか叔父叔母(おじおば)、いとこは出てきません。
 酒乱の父親と宗教のめりこみの母親だと、親戚は距離をおくのかもしれません。

 人に優しく(やさしく)されたことがない人は、人に優しくできないということはあります。自分のことは自分でやってきた人です。だから、自分のことは自分でやれ!が思考の基本です。

 暗い話です。
 救いがありません。
 長女を堕胎(だたい)する話があった。(父にとって主人公は)望まれて産まれてきたこどもではない。
 
 ただ、主人公にも大きな課題があります。
 なんだろう。主人公に毅然(きぜん。はっきりした)とした意思決定の態度がありません。
 まわりの人に、かわいそうなわたしをかわいそうと言ってほしいという気持ちはあります。
 主人公は、意思表示をしない人です。
 察して(さっして)ほしい人です。
 それでは、自立・自活は、無理です。
 依存とか寄生によって生活してく人の日常生活です。
 主人公は頭がおかしいのではないかとすら思えてきます。
 反発しなければならない相手(アル中の父親、DV(暴力をふるう)恋人みたいな男性)にしっぽを振っています。
 本の中では主人公のことを『学習性無気力』と表現します。苦しみに耐えすぎて感覚がマヒしています。

 自分の思いどおりにならないと、机をたたいたり、イスをけったりする人がいます。まともな人ではありません。距離を置いたほうがいい。

 父親は、右半身まひになります。そうなるまで車の運転をしていました。(ひどい。犠牲者が出なくてよかった)

 言うのが遅い。
 『あんたは、こどもにうらまれて死んでいくんだ!』

 友人で、法律事務所で働いていたことがあるミーちゃんという人柄のいい女性がいます。きっと主人公と同じような苦労をされた体験があるから心優しいのだと思います。

 最後のほうのマンガの絵は、感情的になりすぎていて、別の本のようで違和感がありました。(しっくりこなかった)

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