2022年09月08日

三十の反撃 ソン・ウォンピョン 訳:矢島暁子

三十の反撃 ソン・ウォンピョン 訳:矢島暁子(やじま・あきこ) 祥伝社

 本屋大賞の翻訳小説部門の第1位作品です。
 翻訳部門で表彰される作品は、ときに質が非常に高い作品に当たることがあるので、読むようにしています。
 同作者の『アーモンド』は読みました。
 正直、ピンとこなくて期待はずれでした。
 脳みそのなかにある偏桃体(へんとうたい。アーモンド)がちょっとおかしい男子のお話だった記憶です。感情がないのです。人が殺されている場面を見ても無表情なのです。

 さて、今回は、こちらの本を読みます。
 韓国人の三十代女性の気持ちを書いてあるのだろうと予測して読み始めます。
 近くて遠い国韓国です。
 行ったことはあります。
 もっと仲良くしたいのに、国と国同士は対立ばかりしています。
 世代交代が待ち望まれます。

 作者は、1979年(日本だと昭和54年)ソウル生まれです。
 この作品は、2021年(令和3年)初版です。

 数ページを読んで、これは、女性向けのエッセイだろうか(昔をふりかえりながら、心のままに頭に浮かんだことが書いてある)
 
 「1988年生まれ」という項目から始まっています。日本だと昭和63年、翌年が平成元年です。
 その当時の韓国大統領のことが書いてあります。盧泰愚(ノテウ)大統領です。その前が全斗煥(チョンドウファン)大統領でした。どういうわけか、韓国の大統領は退任後逮捕されてしまいます。不正蓄財とか権力の乱用をしたのか、自分を責める勢力への弾圧の責任を問われています。

 陸上100m競争のカール・ルイスとかベン・ジョンソンの話が出ます。ソウルオリンピックは1988年でした。ベン・ジョンソンが1位でしたが、薬物使用(ドーピング)で勝利を取り消されています。

 生れた時に、主人公女性の名前が、すったもんだあって『キム・チュボン』をやめて『キム・ジヘ』になっています。
 『キム・ジヘ』は平凡な名前だそうで、学校ではクラスに何人もいて、本人『キム・ジヘ』さんが6人もいたそうです。
 お顔は、メガネをかけるとDr.スランプのアラレちゃんみたいになるそうです。

 主人公の勤務先が『DM(Diamant ディアマン ダイヤモンドではないそうです。セメント会社から出発して、建設、食品、化粧品、総合商社です)』
 勤務先の上司が、ユ・チーム長です。主人公のキム・ジヘよりも11歳年上ですから、41歳ぐらいなのでしょう。(わたしはずっと、ユ・チーム長が男性だと思って読み続けていました。最後のほうのページで、ユ・チーム長が女性だとわかったときには、びっくりしました)
 映画、演劇、音楽、食品などの文化事業を担当する所属として『ディアマンアカデミー』というという部署があるそうです。キム・ジヘはそこで働いています。

 レンギョウ:小さな黄色い花。低木の落葉樹。

 主人公のひとり語りが続きます。
 30歳独身女性『キム・ジヘ』の語りです。
 日記を読むようです。

 カカオトーク:韓国のLINE(ライン)みたいなアプリケーションでしょう。

 元D大学英文科教授として、パク・チャンシク教授という人が出てきます。
 未成年者とのエロ行為で20年前に教授職を追われた。
 執行猶予二年に処せられた。
 再起に成功してベストセラー作家となった。
 
(つづく)

 3章は『ジョンジンさん、私の親友』とあります。
 ジョンジンさんは、架空の人です。実在しません。(透明人間)
 主人公のキム・ジヘさんの恋人のような存在で、会社での仲間内からのうっとおしい誘いを断る時の口実にする人物です。

 パク理事、ユン次長、キム部長、ユ・チーム長。
 以上が、ディアマンアカデミーでの上司スタッフです。
 キム・ジヘはインターンです。(日本のインターンとは制度が異なります)
 親会社のDM(ディアマン)は、食品、映画事業に力を入れているそうです。
 インターン:韓国の場合、非正規職員、営業職員らしい。正職員への道あり。契約社員のようなものか。この物語の場合、キム・ジヘは、インターンとしての採用が9か月経過しています。
 ウォン:韓国の通貨。1ウォンが、0.102713円ぐらい。1万ウォンが、1027円13銭。
 以前自分が韓国ソウルに行ったときのメモが残っています。(以下メモの一部『半島へ、ふたたび 蓮池薫 新潮社』を読んでから行きました)
 『読む前は、日本との貨幣価値の比較がよくわかりませんでした。現在、1万ウォンが850円ぐらいです。蓮池さんがソウルに行かれた2008年2月頃は、1万ウォンが1120円ぐらいなので、ウォンのほうがずいぶん不利になっています。本に記述があるタクシー運転手の月収は、160万ウォンですから13万6000円になります。それが、労働者の一般的な月収のようです。』

 インセンティブ:報奨金、奨励金などのようにやる気を出させるもの。外からの刺激。
 カンタビーレ:表情豊かに歌うように。

 イ・ギュオク:DM(ディアマン)の所属の一部であるディアマンアカデミーの新しいインターン(契約社員のようなもの)男性。ホッキョクグマのような大きな体。キム・ジヘと同い年の30歳。無名大学哲学科卒。定職についたことなし。(このあと主人公のキム・ジヘとからみながら、物語の骨格を築き上げていきます)

(ここで巻末にある訳者あとがきを読みました)
 著者の言葉として『……(自分は)勤め人としてうまくやって行けそうにない』これと同様の印象を受けた作家さんが今年読んだ本でいたことを思い出しました。
 読んだ本は『ねにもつタイプ 岸本佐知子 ちくま文庫』
 OLをできない人はいます。作家向きです。
 八八ウォン世代:韓国で、1997年のIMF危機以降大学を卒業して定職に着けず、非正規社員、アルバイト、インターンのわずかな収入で暮らす若い人たちのこと。88万ウォンは、約8万4000円。この物語の主役であるキム・ジヘさんは、八八ウォン世代だそうです。半地下の部屋で生活しているそうです。アカデミー賞受賞作品『パラサイト 半地下の家族』を思い出します。

 さて、物語に戻ります。
 
 鍵を握る主人公キム・ジヘと同い年(おそらく30歳)のインターン(実態は企業にとって都合のいいアルバイトのような職)イ・ギュオクが本音で相手とぶつかります。ひとり目は、アカデミーの講師であるパク教授。

 PM2.5:微小粒子状物質。大気中に浮遊する。健康に影響がある。肺に入りやすい。気管支ほかの呼吸器系統に悪影響あり。肺がん、循環器系への影響もあり。中国大陸の大気汚染が原因。
 本の中では、韓国のお天気として書かれているのですが、昨年九州地方へ用事があって行ったときには、地元の人たちが「PM2.5」のことを気にしていたので、ちょっと意外でした。中部地方では話題にはなりません。

 イ・ギュオクによる「椅子の魔法」。教室の前にある椅子に座ると、自分に権威と力があると錯覚する。生徒側のたくさんある椅子に座ると力のないその他大勢になっていまう。前の椅子に座る人間に洗脳されてしまうというような解釈あり。心理をコントロールされてしまう。(なるほどと思いつつ。そうだろうかという思いもあります)

 ウクレレ講座を受けることになったイ・ギュオクとキム・ジヘです。
 小学生が3人、小学生の母親が2人、50代のおじさん、30代の男、イ・ギュオクとキム・ジヘ、合計9人の生徒です。
 ウクレレの講師は、作曲・演奏を仕事とする中年男性です。
 
 頭を使う話が続きます。
 体を使う話は出てきません。

 ウクレレ:弦が4本。弦はそれぞれ、ラ、ミ、ド、ソ。

 作者は、韓国の低調な経済状態を表現したいのだろうか。

 コ・ムインガン:ゴム人間。

 ウクレレ講座が終わって、打ち上げという名目での、4人の飲み会です。
 イ・ギュオクとキム・ジヘ(50代のおじさんから「ミスワイズ」というニックネームを付けられた)、50代のおじさん(名前は、ナム・ウンジュ。ふだんは「ナムン」。妻はトルコにベリーダンスを学びに行って帰ってこない。中学生の娘あり。娘が可愛い。娘の名前はジユル。ナムンおじさんはイベント会社で働いている。サンタやピエロのかっこうをする)と30代の男(名前は、コ・ムイン。やせっぽち。シナリオ作家。作品として「ゴム人間」)というメンバーです。

 酸っぱい葡萄(すっぱいぶどう):自分に手の届かないものをけなすこと。

 キーワードとして『価値観の転覆(てんぷく)』イ・ギュオクの言葉です。物事の判断基準をひっくりかえすということだろうか。
 世の中の理不尽(道理に合わない。筋が通らない)とか不合理(論理的ではない)とか不条理(人の道に反する)とかと格闘して、価値観を転覆させるという趣旨のようです。

(つづく)

 イ・ギュオクは、上司を攻撃します。
 キム部長に厳しい指摘をします。
 『屁(へ)をするな。げっぷをする時は…… 豚さんよ!』
 いろいろありますが、キム部長の不潔な行為は、やまります。

 キム・ジヘは、イ・ギュオク(がっしりとした肩、色白の顔、素朴で整った目鼻立ち)を尊敬しだします。
 同い年で同じ時代を生きて来たから話が合います。
 イ・ギュオクの名言が出ます。『観客がいなくては、誰も主人公になれません……』
 イ・ギュオクからキム・ジヘに質問が飛びます。『…… ジヘさんが本当にやりたいことは何ですか?』
 
 読んでいて、夢をかなえられない韓国社会が横たわっていると感じました。
 キム・ジヘの夢は、小さくても価値のあるものを作り出すこと。(企画です)

(つづく)

 学生運動のことが書いてあります。
 日本でも昭和40年代にありました。
 最後は国家権力に負けてしまうのですが。韓国も同様だったようです。
 その結果、韓国の若者の意識は冷めた。(さめた)『……熱気はすぐに消える花火のようなものだと』という文章で表現されています。

 108ページ付近を読んでいて、ふと、鷺沢萌(さぎさわ・もえ)さんというずいぶん前に自殺された父方祖母が韓国人の作家の方を思い出しました。
 小説作品では在日韓国人を扱っていて、主人公は、日本人ではない。また、韓国人でもない。自分は、何者なのかと問い詰めていきます。
 今読んでいるこの本で主人公は、韓国人である自分のことで悩んでいる。

 グラフィティ:落書き芸術(本物語の場合「ぼくたちの中に住みついた権威に対する服従を打ち破る練習」)
 バスキア:黒人アーティスト。1960年アメリカ合衆国ニューヨーク生まれ。1988年薬物過剰摂取により27歳で死去。
 
 タキ183:ニューヨークの落書きのこと。
 バンクシー:正体不明の路上アーティスト。

 30代の男(名前は、コ・ムイン)が落書きをした文字が『無人(ムインと読むらしい。いない人として扱われる人のこと)』さらに発展して『舞人(ムイン)』
 
 コ・ムインの言葉がいい。『……もう一度頑張って書いてみようと思います。ものを書いてこそ物書きですから』

 ダビン:主人公キム・ジヘの女友だち。身長157cm42kg。中学生に見える外見。
 仲良し5人組が、キム・ジヘ、ダビン(オーストラリアでのワーキングホリディ体験あり。農場で働いた。現在は、既婚、幼稚園に通う5歳の息子あり。夫は家事・育児をしてくれない)、ほかに、ジウォン、ユリ、ヘナが友だち仲間です。

 知らなかったのですが、韓国では、16歳以上は住民登録証を常に携帯しなければならないそうです。

 女性(ダビン)の幼い子育て事情がじょうずによく表現されていて驚きました。
 未婚女性から既婚子持ちになった女性の心理状態の変化がリアルに文章化されています。女性は母親になったのです。
 いろいろ世間のことに反発していた若い女性が(ダビン)が、結婚してこどもをもうけて、年齢を重ねて、保守的なおとなに変化しています。

 韓国の英語教育のひとつとして『英語幼稚園』があるそうです。
 
 こどもどうしのいじめがあるし、ママ友同士のいじめもあります。
 たむろする女性たちは、たいてい悪口を言っているのでしょう。

 既婚・子あり女性のダビンから、未婚のキム・ジヘの気持ちは離れていきます。
 いる世界が違うので話が合いません。

 ヒョノ:キム・ジヘの元カレらしい。

 50代のおじさん(名前は、ナム・ウンジュ。ふだんは「ナムン」)の孤独が語られます。妻は外国で暮らしていて別居状態。学生の娘は家にいないのでしょう。
 SNSを使って、自分ひとりの食事風景映像を外部へ流している。だれかが自分を見てくれているという感覚をもって、ひとりで食事をしている。
 モッパン:韓国における動画システム。出演者の食事風景が配信で流れる。ナムンのネット上のニックネームが『ディアダディ(親愛なるおとうさんだろうか)』(日本にもいそうな人物像です)
 
 ハン・ヨンチョル:韓国での有名人。俳優。実業家。ナムンおじさんの昔の知人。ナムンおじさんをだまして金もうけをした。

 悪辣(あくらつ):情け容赦のない悪事をする。
 並外れた能力をもつ悪人(彼のおかげで大きな利益を得る人たちから守ってもらえる悪人)は、社会で生き残ることができる。

 マダム国会議員:タレント議員。おおぜいの中のひとり(一票)という価値がある。批判はあるが、なくすことはできない。

 商圏(しょうけん):集客範囲。

 読んでいて感じたのことは「ああ、ここにも『復讐心』がある」

 人間を細かく観察する力がある文章です。感心します。

(つづく)

 4人は(キム・ジヘ、ギュオク、ナムンおじさん、ムイン作家)、チームを組んで、社会に対する小さな反抗活動を開始します。
 さしあたって、ナムンおじさんをだまして、今選挙に立候補している有名人になったハン・ヨンチョルに卵をぶつけて命中させました。
 そのほかにもフラッシュモブ(突然集まってパフォーマンス(演技)をして、終わると解散する)のようなやりかたで、相手に対しての抗議活動を行います。攻撃対象相手は、営利主義者、従業員いじめをしている人間、権力を不当に使用している者などです。
 軽犯罪にあたるのでしょうが、問題にする手間と時間と経費が相手の負担になります。だから相手は、やられ損です。(不謹慎ですが、おもしろい)ギュオクが主導しています。

 ククス:韓国料理。ソーメン。
 カルグクス:韓国料理。手打ちうどん。
 
 ファンデーション:下地用化粧品

 対立することが人間界の習わしです。習わし:ならわし。習慣。風習。
 読んでいて思ったこととして、対立したあとの敗者はどうなるのか。

 命題(めいだい):課題とか問題と自分はとられています。

 韓国では、半地下の住宅とか部屋に住んでいることを人には知られたくないらしい。

 ジファン:キム・ジヘの弟。大学進学はしなかった。工業高校を出て、自動車整備会社で働いて、営業社員をしている。ソウルからソウルの東にある別の都市(ウォンジュ市。原州市)へ引越して、自立し自活している。大学の人文系を出た人間を軽蔑している。大学を出ても働いていないと批判する。
 なお、ふたりの父親は、タクシーの運転手をしていた。その後貯めたお金でいちご農場の持ち主になった。

 『ジョブズは機械を人間に近づけようとして……』→この部分を読んで、逆のような気がしました。人間が機械の一部のようになってしまっています。機械に使われているのは人間のほうです。

 レーシック:目の手術。角膜屈折矯正手術。
 世知辛い(せちがらい):世渡りがむずかしい。
 
 ふたつの命題があります。(考える事柄)
 キム・ジヘは、長いものには巻かれて、安全な生活をしていくことが自分の生き方だと考えています。
 キム・ジヘの弟は、まずは節約をして、金持ちになる。いい暮らしをする。結婚はしない。こどもはいらない。車と家を買って、旅行をして人生をエンジョイする。現実に賢く順応していく。
 キム・ジヘの同僚であるギュオクは、現実を問題視して、ぶつかって亀裂を起こして、良い方向へと変革していこうという気合が感じられます。今のやり方をいったん破壊して、次のことを考えるパターンです。
 キム・ジヘは、ただ、つらい気持ちになるだけです。

 いい小説です。
 味わいがあります。
 仕掛けはありませんが、かみしめるたびに味が深くなる味わいがあります。

 職場を去る人がいます。
 一生懸命がんばったのにむくわれません。
 表面は自主退職ですが、ほんとうは、退職勧告を受けたのです。
 辞表を書かされたようなものです。

 韓国国民の苦悩が記録されています。

 韓国国民と海外の都市は、日本人よりも結びつきが強い印象があります。
 国際的です。
 移動が日本人よりも広い。
 沖縄旅行をしたときに、沖縄の若い人たちの目は、東京かアメリカ合衆国に向いていますという説明を聞いたことがあります。
 韓国の若い人たちの目もアメリカ合衆国やヨーロッパ諸国を向いているのでしょう。

 キム・ジヘさんの過去の恋愛話が出ます。
 相手は、ヒョノさんという男性です。
 5年間付き合って別れました。
 ヒョノさんは、転勤でイギリスへひとりで行ってしまいました。遠距離恋愛は無理でした。
 彼が韓国へ帰国したらしい。(このあと、作者はこの話をどう進めていくのだろう。その後とくに動きはありませんでした。それも味わいがありました)

 ゴン・ユン:テレビ番組に出ている有名人女性。キム・ジヘさんの職場であるアカデミーの新たな講師候補との面談があります。(あとで判明するのですが、この人は、13年前の過去において、学校で、キム・ジヘさんの天敵であった人物です)
 どちらかが、どちらかを利用するだけの友人関係と呼ぶ行為は、利用されるキム・ジヘさんにとってはつらい。
 ゴン・ユンさんに使い勝手のいい便利な人間扱いをされてきたキム・ジヘさんです。
 キム・ジヘさんは、当時、ゴン・ユンさんのパシリ(相手の言いなりになる存在)とならねばならなかったのは、そうしないと自分が周囲から「関心をもたれない存在」になるからでした。
 キム・ジヘさんとゴン・ユンさんは、韓国名では、同姓同名だそうです。ゴン・ユンさんがAという本来の存在で、「キム・ジヘ」とまわりから呼ばれ、キム・ジヘさんはBという呼称の存在で、周囲から名前ではなく『ビー』と呼ばれていたそうです。そして、キム・ジヘさんは、そのことが嫌ではあるけれど受け入れていたそうです。かなりつらい。

 文章を読んでいると、人をじょうずにだました人間が、お金持ちになるパターンがあります。(つまり詐欺(さぎ。だましてお金を巻き上げる)
 詐欺行為をじょうずに、巧妙に仕上げて、富を築く。
 194ページ付近に、悪夢があります。
 今年読んで良かった一冊です。
 力作です。

(つづく)
 
 読み終えました。
 とても良かった。

 韓国の人の意識なのか『作名所(さくめいしょ)』というところがページのところどころに出てきます。
 お金を払うと名前を付けてくれるそうです。あかちゃんの名付けもあるし、おとなの名前の変更もあります。おとなは、通称名の設定なのでしょう。
 ほかに、韓国では、刑務所から出所した人には、豆腐を食べさせる習慣があるそうです。
 お隣の国のことでも知らないことがたくさんあります。
 韓国では女性を熊や狐(きつね)にたとえるそうです。熊はおっとりしたタイプ、狐はよく気がきくタイプだそうです。
 
 ずいぶんあとのページになって、ようやく知ってびっくりしたのですが、ユ・チーム長は女性でした。男性だと思いながら読んでいました。韓国の人の名前は日本人には性別がわからないこともあります。

 いろいろあって、空中分解みたいに4人の仲間が分離していきます。
 キム・ジヘは退職、転職を考えます。
 いつまでも同じ場所に全員はいられないのです。
 複雑です。
 キム・ジヘとギュオクの恋愛関係は、始まりではなく、別れなのですが、終わりということでもありません。

 『……頑張るのはもうたくさんです……』
 『いつまでこんなふうに生きていくのかなと考えていました(自分の言いたいことが言えない。そんな自分を責める)』
 『僕は矛盾の固まりです』

 透明人間のジョンジンさんが、活躍します。

 堂々としていないと、相手に押しつぶされてしまいます。

 稀代(きたい):変わっている。不思議。世にもまれな。
 チェット・ベイカー:アメリカ合衆国のジャズミュージシャン。トランペット奏者。ボーカリスト。
 ア・カペラ:声楽だけの合唱、重唱。
 コレクトマニア:収集に夢中になる人。
 トム・クルーズの『七月四日に生まれて』:ベトナム戦争に従軍したアメリカ合衆国の若い男性のことを素材にした映画。
 
 ナマケモノ休(ヒュー):家具を作る会社。代表者が、チェ・ジュヌウォン。「食べていくために」仕事をするということが嫌だそうです。遊ぶように生きたい。遊ぶように仕事をしたい。

 ムインの映画シナリオ作品が盗作されて映画化されましたが、相手が大きな組織で、うやむやにごまかされてしまいました。 ムインは、自分は「いない人」扱いをされたと嘆きます。
 『……何もせずに負けてしまうんですか』
 騒ぎが起きます。
 登場人物たちの行動範囲は狭いけれど、人間心理の広さや深さには広がりがあります。
 小説です。
 おもしろい。
 傑作です。(けっさく:特別に優れている(すぐれている))

 こちらの作品は、韓国の料理名がちょこちょこ出てくることが特徴です。
 それから、ジャズの曲のことが出てきます。
 ソンジ:牛の血を固めたもの。
 シレギ:干した大根の葉
 
 チェ・ゲバラ:革命家。キューバのゲリラ指導者。
 
 『(おそらく韓国の社会でという意味をこめて)……成功するのはあまりにも難しいからなんだ……』
 
 (あかちゃんというのは、不思議なもので、オギャーと生まれた途端、お金とか土地とか事業とか、たくさんの資産がくっついて生まれてくるあかちゃんがいれば、オギャーと生れたとたん、借金がくっついてくるあかちゃんもいます。作品では、格差社会を扱っています)
 
 行き詰まりがあります。

 透明人間である「ジョンジンさん」を見ることができるのは、心が優しい人だけだそうです。

 本の中を旅した気分になれた優良な一冊でした。

 ポートフォリオ:金融資産の組み合わせ。

 3年間が経過します。
 消えたこともあります。
 新たに始まったこともあります。

 大きな組織の上層部は、権力を使って、自分たちのいいように、状況をコントロールしていることがわかります。不正の隠蔽操作です。(いんぺいそうさ)
 法令に精通していての、承知のうえでの法令違反があります。組織にとって、都合の悪いことは、お金で解決します。

 最後のページも美しい終わり方で良かった。
 人は、虹のように輝く塵(ちり)になるのです。

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