2022年05月16日

みんなのためいき図鑑 村上しいこ

みんなのためいき図鑑 村上しいこ・作 中田いくみ・絵 童心社

 本のカバーに書いてあることを読んで思ったことです。
 カバーには『あーあ、みんなのためにと思ってやったことなのに……』と書いてあります。
 よかれと思ってやったことが、かえって、迷惑がられることがよくあります。
 だったら、もう何もしないと思うのですが、ついついて、口が出て、手が出てしまいます。
 だから、相手は、イヤな時は、イヤだとはっきり意思表示をしてくれれば、口も手もひっこめるのに、だまっている人が多いのが世の中です。直接文句を言わずに、陰で悪口を言うのです。しゃべらない人はにがてです。とかくこの世はむずかしい。

 熊太郎おじいさんは、ときおり独特な本の読み方をします。
 同じ本を何回も読みます

「1回目の本読み ゆっくり全体のページをめくって、さいごのページまで到達します。全部読んだような気になれます」
 ページをめくりながら、紙にメモをしていきます。とくに、登場してくる人物の名前と特徴をメモします。
 気になったことが書いてあるページには、ふせんをはります。気になった理由をふせんにメモすることもあります。
 
 では、ページをめくりはじめます。
 タイトルに『図鑑』と書いてありますが、この本は図鑑ではないことはわかります。

 出てくる人たちとして、4年1組五班のメンバーがいます。(主役の集団です)

 ぼく:田之上嵐太(たのうえ・らんた):愛称が『たのちん』この物語は、「ぼく」である田之上嵐太のひとり語りで進行していきます。

 星合小雪(ほしあい・こゆき):絵を描くことが好きだけど、愛菜(まな)にコンクールで負けたことがあるそうな。人に対して、きつい性格です。

 宮村孝四郎:愛称が『コーシロー』

 新開七保(しんかい・ななほ):星合小雪よりは、きつくはないそうです。でも、性格がきつい部類だそうです。
 
 加世堂ゆら(かせどう・ゆら):保健室登校と書いてあります。熊太郎おじいさんのこども時代には、保健室登校というような登校方法はありませんでした。登校拒否児なのだろうか。保健室なら行けるということか。とにかく、出席日数は確保しようという手段なのか。考え出すと賛否両論出てきそうです。

 階田リナ先生(かいだ・りな先生):一組の担任の先生。
 保健室の岡安先生:保健師さんだろうか。
 みつる:4年一組一班。親が大学の先生。
 愛菜(まな):絵を描く(かく)ことがじょうずらしい。みょうじは、出てこなかったような。4年1組二班。
 
 尾崎れん:一組のクラスメイト。
 小石川さら:一組のクラスメイト。

 目次は、1から9まであります。小さなお話が9つ集まって、ひとつの物語になっています。
 物語は、150ページまでで終わっていて、151ページからは『みんなのためいき図鑑』という別の固まりになっています。(あとから、この部分が、この本でいうところの『図鑑』の部分だとわかりました。

 この物語は、自分たちで、なにかを題材にしながら、図鑑をつくろうという物語なのでしょう。

 この本に出てくる小学生たちは、小学校4年生で、組は一組で、班ごとに分かれて、なにかをつくって、発表したのでしょう。

 9ページで『おしごと図鑑』という言葉が目に入りました。仕事の分類と内容を図鑑にするのだろうか。
 タイトルの『ためいき図鑑』から、考えられることは、ためいきというのは、楽しい時とか、うれしいときに出るものではなくて、がっかりしたとき、ざんねんだったとき、あきらめたとき、気持ちが沈んだときに出るものなので、ためいきが出るときの状態を図鑑にしたものではなかろうかという発想が生まれます。
 ちらっと読むと、一班は、みんなの親の仕事を調べて図鑑としてまとめるようなことが書いてあります。
 一班は『おしごと図鑑』、二班は『ペット図鑑』、三班は『病気図鑑』、四班は『?(本の10ページにはまだ書いてありません)』
 
 20ページに「2 ためいきこぞう」と書いてあります。
 ためいきこぞうとは、なんじゃろな。
 そういう「こぞう」が出てくるのだろうか。楽しみです。
 24ページに民話みたいな絵が描いてあります。地面の上にしゃがんでいるのが「ためいきこぞう」だろうか、されど、こぞうのうしろに、しっぽがついたおばけみたいなものがおぶさっています。なんじゃろな。

 49ページ「4 こたえようがない」という項目です。
 トラブル発生か。

 57ページで、気になるセリフにぶつかりました。
 「あのな、おならには、ロウハイブツノセイブンっていうのがはいって、それはからだに毒やねん」
 おならという単語には、読み手である自分の目が敏感に反応します。

 62ページの絵には、お母さんが、食事時のおかずが並んだテーブルで「はぁーあ」と大きなためいきをつくシーンが絵にしてあります。

 本のページをかるくめくり続けます。
 150ページ、物語のラストの言葉がかっこいい。
 『ぼくは、きょうもためいきといっしょに、生きている。』
 
 151ページからが、『みんなのためいき図鑑』です。
 つくったのは、4年1組 5班 加世堂ゆら(かせどう・ゆら) 新開七保(しんかい・ななほ) 田之上嵐太(たのうえ・らんた) 星合小雪(ほしあい・こゆき) 宮村孝四郎(みやむら・こうしろう)と書いてあります。
 162ページには、アンケート結果があります。アンケートをとったわけですな。
 さて、1回目の本読みが終わりました。
 推理はどの程度あたっていたでしょうか。
 2回目の本読みで確認します。

「2回目の本読み ざーっと目をとおしていきます。気になったところには、ふせんをはって、ふせんにメモをします」
 やはり、5つの班ごとに『なになに図鑑』というのをつくる企画です。
 8ページの絵を見ながら、どの絵の人が、だれなのかというのを考えました。
 鉛筆をノートにぎゅっと押し付けて怒っているのが、星合小雪(ほしあい・こゆき)です。
 星合小雪の右側で頭を書きながら、にが笑いをしているのが、宮村孝四郎でしょう。
 宮村孝四郎の右下にいる男子が、主人公のたのちんこと、田之上嵐太(たのうえ・らんた)でしょう。
 田之上嵐太の左下に頭だけ見えているのが、新開七保(しんかい・ななほ)ですな。
 この絵にはいませんが、同じ五班のメンバーで、保健室登校をしている加世堂ゆら(かせどう・ゆら)がいます。

 13ページに、星合小雪さんのセリフがあります。感心しません。
 自分たちは塾で忙しいから、図鑑の内容はたのちんが考えなさいと指示を出します。
 『考えること』は、いつだって、どこでだってできます。今すぐにでもできます。あとからやろうと思っていては、いつまでたっても始まりません。
 
 14ページまで読んで、ふと、思う。
 この物語に『ためいき』という単語が何回でてくるか、カウントしてみよう。(数を数えてみよう)おもしろそうだ。数えたくなりました。【最終的な結果は次のとおりでした。最初の物語に出てくる数が181回。次の『みんなのためいき図鑑』に出てくる数が37回で、合計が218回でした。たぶん回数が多いだろうと思ってかんじょうしはじめましたが、かなりの数でした。なお、1回かぞえただけで、みなおしはしていません。間違っていないかの確認はしていません。する気もありません。間違っていてもかまわないのです。合っているかいないかということはどうでもいいことです。コツコツと積み上げるように数えるという作業が楽しかった。まあ、少しずつ貯金がたまっていくような感じです】

 保健室登校をしている加世堂ゆら(かせどう・ゆら)さんが、マンガのような絵を描きました。『ためいきこぞう』というキャラクターで、まるで、田之上嵐太がモデルのようです。田之上嵐太と同じく、ためいきこぞうだから、たのちんだそうです。
 そしてなんと、実写化みたいに、絵の中から、ためいきこぞうが出てきました。紙で体ができているそうな。体は小さいので、一寸法師(いっすんぼうし。一寸は約3センチ)のようです。ためいきこぞうの立場は、ドラえもんのようでもあります。これからおもしろいことになりそうです。
 ためいきこぞうは、けっこう、なまいきです。『おれや。ためいきこぞうや』さらに関西弁です。『たのちんがいうてたやん』
 ためいきこぞうは、だれでも見ることができます。
 
 『ためいき図鑑』の絵を、星合小雪に書いてもらうか、加世堂ゆらに(かせどう・ゆら)書いてもらうかで、バトル(争い)が始まるようです。
 田之上嵐太(たのうえ・らんた)は、保健室登校をしている加世堂ゆら(かせどう・ゆら)に教室登校に戻ってほしいという希望をもっています。
 きっかけづくりのために、『ためいき図鑑』の絵を、加世堂ゆら(かせどう・ゆら)に描かせてあげたい。
 だけど、星合小雪が、さきに自分が描くと申し出したこともあり、絵は、加世堂ゆらには描かせない。自分が描くと主張します。
 みんなは、いま、四年生ですが、三年生の時までは、星合小雪と加世堂ゆらは親しい友だち関係があったそうです。
 加世堂ゆらが、自分の母との関係が悪くなって、学校へ行くことをいやがるようになったのですが、心配した星合小雪の好意を加世堂ゆらが裏切った過去があるそうです。
 男の子たちはそういったことを知りません。男にとっては、女同士の戦いは怖い。
 ふたりの女子の気持ちのすれ違いは、なかなか、すんなりもとには戻りそうもありません。
 
 絵が描きたいのなら、分担して、ふたりで描けばいいのにと自分は考えましたが、そのあとのページで、星合小雪に否定されました。自分が描く。加世堂ゆらには描かせないそうです。
 ワケワケすれば平和にまとまるのに。どこの世界でも、ひとりじめは、もめるのよ。
 ゆずらないものどうしが、ぶつかたっときにケンカが起こります。
 どちらもけがをします。

 なんだか、だんだん、昔の『道徳(どうとく。人はどうあるべきかを考える。学ぶ)』という教科の内容のようになってきました。

 みんな、絵を描くのが好きなのね。

 話し合いがつかないと、たいていは、じゃんけんとか、くじ引きになると思うのですが、星合小雪はそれでは受け付けてくれそうもありません。
 加世堂ゆらは、話の経過を聞いたら、身を引くのではないだろうか。

 おならの話です。
 おならの話は、宮村孝四郎のおじいちゃんの口ぐせです。
 おならは、がまんしないほうがいい。からだに毒だから、がまんしないほうがいい。
 
 加世堂ゆらのおかあさんは、いわゆる『毒親(どくおや。こどもにとって良くない親)』です。束縛(そくばく。押しつけ 強制して相手の自由をうばう)、過干渉(なにかとさしずする。やりすぎ)があります。度をこえて関与する)です。加世堂ゆらにとって、母親がしんどいのです。だから、登校拒否に至った原因があります。(母親に直接文句を言う勇気がなくて、友だち関係が不登校の理由とうそを言った)
 子育てができない。子育てがにがて。子育てに向いていない。そういう親っています。ひとりの親でもパーフェクト(完全にいい親)という人は少ない。毒親の部分を、多かれ少なかれもっています。
 こどもは、それが嫌で、14歳ぐらいから反抗期を迎え、やがて、自分のことは自分でやる。自分でできると主張して自立、自活して、家を出ていきます。鳥のヒナの旅立ちのようなものです。
 親とは別れる時がきます。こどもは、親に嫌なところがあっても、自分が巣立てるまではがまんして力をつけます。

 ためフェス:ためいきこぞうたちのお祭り(フェスティバル)おもしろそう。

 いつもちゃんとしている親は、こどもにとっては、迷惑です。
 だらしないところが多少あるぐらいで、ちょうどいい。

 いじわるだと思われている星合小雪の言い分は、当たっているし、正しいことです。
 加世堂ゆらもだまっていてはだめです。だまっていたらわかりません。自分はだまっていて、相手にさっしほしいと願っても、願いはかないません。しゃべらないと何を考えているのかは、相手にはわかりません。
 
 『一生保健室にいたらいいよ』と言われたらつらい。
 つらいけれど、うぉーって叫んで、保健室から教室になぐりこむぐらいの強い気持ちがほしい。
 
 128ページにいい言葉が書いてあります。
 『ねがい』
 
 そして、ついに、田之上嵐太からこういう言葉が出ます。
 『ちょっとは、むりしてよ』

 これまで読んできた小学校低学年・中学年対象の読書感想文課題図書の中で、一番おもしろかった。
 なかなか良かったです。

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