2022年04月23日

六人の嘘つきな大学生 浅倉秋成

六人の嘘つきな大学生 浅倉秋成(あさくら・あきなり) 角川書店

 本屋大賞がらみの番組で紹介されていました。
 別の作品が大賞に選ばれたようです。
 以前自分も本屋大賞の候補作を全部読んでいた時期があります。
 自分がいいと思った作品が大賞に選ばれたことはありませんでした。
 選考者は、すべての本を読んでいなのではないかという疑問を今ももち続けています。

 さて本作品です。
 2011年の出来事です。東日本大震災が起こったあとの時期になっています。
 35ページまで読んだところで、感想を書き始めます。
 かなりの文章量です。299ページあります。

 6人の大学生ですから、6人を紹介します。
 受ける会社が渋谷駅前21階にあるという2009年設立『スピラリンクス』SNSの会社。
 初任給50万円だそうですが、それはちょっと怪しい(あやしい)会社です。
 一か月後の4月27日に、チームディスカッションで採用を決定するそうな。
 6人全員採用ということもあるそうな。(おかしな会社です)

①波多野祥吾:この物語の進行役。これから思い出を語るというところから始まります。就職活動をしている大学生たちのお話です。立教大学。

②嶌衣織(しま・いおり):早稲田大学社会学部。美人。清純派女優タイプ。(全体を通して読みにくかったこととして、この人のみょうじがあります。嶌(しま)さんなのですが、無意識に、蔦さん(つた)さんと読み違えてしまうのです。普通の漢字にしてほしかった「島」)

③九賀蒼太(くが・そうた):慶応大学総合政策学部。上野にレンタルオフィスがあることをみんなに紹介した。好きな言葉が『フェア』

④袴田亮(はかまだ・あきら):明治大学。187cm。人間を分類する。『リーダ部門(九賀蒼太』『参謀部門(波多野祥吾)』『最優秀選手部門(袴田亮)』『データ収集部門(森久保公彦)』『グローバル部門&人脈部門(矢代つばさ)』

⑤矢代つばさ:美人。ファッションモデルタイプ。ファミレスでバイトをしている。お茶の水女子大学。海外のSNS事情を調べた。

⑥森久保公彦(もりくぼ・きみひこ):一橋大学。スピラに関する資料を大量に収集していた。

 これから就職する人たちの話です。
 なんというか、就職してからのほうが、困難が長い。
 作者の実体験が下地なのだろうか。
 仕事というものは、採用されてからが「本番」です。

 文章から考えると、会社の利潤を追い求めるための優秀な人工知能ロボットになってくれる人材を選考する試験に思えます。
 サラリーマンというものは、一般的には、低賃金で、とても長く、一生を縛られます。途中、住宅ローンを背負ったりもします。仕事を辞めたくてもやめられない奴隷のような拘束された立場になります。見返りは、年金や、医療、介護などの保険の充実です。社会保障の権利を取得できます。

 人事部長が、鴻上さん。(こうがみさん)

 みなさん、素晴らしき学歴ですが、世の中には、ウソの学歴を言う人がいます。
 そういう人をこれまでに何人か見たことがあります。
 ウソの学歴を言う人は、ほかのことでもウソをつきます。

 メンバーたちに、「生活臭」がありません。

 クラッシャー:就活試験のグループディスカッションで、実力もないのに、全体を仕切ろうとする人間のこと。無駄な時間となる。

 ES:エントリーシート。就職活動における会社への応募書類。

 相楽ハルキ(さがら・はるき):歌手。薬物使用で逮捕された。

 『東日本大震災の発災により、採用人員数を一名とする。』
 2時間30分かけるグループディスカッションの議題を『6人の中で誰が最も内定にふさわしいか』に変更するそうです。議論の結果を尊重して、選ばれた人を内定するそうです。
 考えられません。あり得ません。いい加減な会社です。さっさと見切りをつけたほうがいい。採用の判断をするのは会社側の人間であって、申し込みをした人間ではありません。
 (もしかしたら、この設定に納得がいかず、この時点で、読書を打ち切る人がいるかもしれません)

 このまま話が続くことに幼さを感じます。いまどきの若者のはっきりしない態度があります。おおぜいで、イルカのようにつるむ。同調する。自分の意思はもたない。つまらなくなりました。

 時間は突然飛んで、2019年になりました。
 ふりかえりの記述になります。

 ディスカッションでトラブルがあったらしい。
 人が死んでいるらしい。

 だれが内定者にふさわしいかという投票を30分ごとに手を上げて6回行う。
 自分に投票することはできない。

 64ページにあるような新聞記事は、現実には新聞には出ません。
 プライバシーの侵害です。
 社会的に大きな問題になります。

 まるでロシアみたい。あった事実をなかったと表現します。
 「フェイク」→「デマ(虚偽の情報)」

 登場人物たちは口が達者です。理論づけた長時間のおしゃべりが上手です。
 人間はこんなふうには会話をしません。
 頭の中ではいろいろ考えが渦巻いていても、無口で無言の時間帯が多い。

 人間の悪い面をあぶりだします。
 この世は誤解と錯覚で成り立っています。
 上手に詐欺的行為(さぎてきこうい)をなしとげた者に富が集まります。
 利益獲得のために、関係者に暗示をかけるのです。

 水天宮前駅(すいてんぐうまええき):東京都中央区日本橋にある駅。東京地下鉄半蔵門線の駅。(東京メトロ)

 キチガイみたいな人がいっぱいいます。

 どんなウソが列挙されるのだろうかということが、興味のポイントになりました。

 いっぺんに全部の封筒を開ければいいのに、ある意味、みんな仲間です。悪の一味(いちみ。悪い意味で同類の仲間)なのです。

 推理小説です。

 良かったセリフとして『最悪だよ、最悪だ!』

 SNSで特定個人の悪事を集めるわけか。

 132ページあたりからおもしろくなってきました。
 隠れていた秘密が明るみに出てきます。

 この本はだれが読むのだろう。読者層はどのあたりだろう。
 すでに働いている一般人は読まないと思います。
 これから就職する大学生が読むのでしょう。

 唆かす:そそのかす。読めませんでした。その気にさせて悪いほうへしむける。

 『嘘つき学生と、嘘つき企業の、意味のない情報交換-それが就活』
 ふだんの仕事でも、時間つぶしの、自己満足の仕事というのもあります。仕事をしているふりが仕事ということもあります。

 波多野芳恵(よしえ):波多野祥吾の妹。

 鈴江真希(すずえまき):嶌衣織(しま・いおり)の職場での後輩。部下のような存在。

 朝霞台(あさかだい):埼玉県朝霞市(あさかし)にある地名。

 悪性リンパ腫:白血球の中のリンパ球ががん化したもの。

 200ページ付近を読んでいます。全体で299ページあります。
 もう終わったことです。しかも10年も前のことです。
 蒸し返しても過去は変わりません。(いったん結末を迎えたものを再調査する)

 スミノフ:ウォカのブランド(酒)

 射幸心(しゃこうしん):まぐれ当たりを期待する気持ち。偶然の利益を期待する。

 川島和哉(かわしま・かずや):久賀蒼太の尊敬する同級生。能力が高い。

 スティーブ・ジョブズ:1955年(日本だと昭和30年)-2011年(平成23年) 56歳病死 アメリカ合衆国の実業家 アップルの共同創業者のひとり。

 デキャンタ:ワインなどを入れる容器。ガラス製容器。

 スペインバル:スペイン語で、居酒屋、酒場、軽食喫茶店

 失敗はだれにでもあります。

 インセンティブ:成果報酬。報奨金。上乗せ支給される金銭、賃金。

 採用面接の考査項目として、『アティチュード(態度、心構え)』『インテリジェンス(知性、知能、理解力)』『オネスティ(正直、誠実、率直)』『エア(自分には意味不明です。空気を読めるかということだろうか)』『フレキシビリティ(柔軟性、融通性)』

 PDCA:プラン(計画)、ドゥー(実行)、チェック(点検、評価)、アクション(改善)のことでしょう。

 面接採用試験の選考方法に、いろいろ苦言があるようですが、面接時の感覚を数値化して、比較するしかありません。

 なにをするにしても『運』はつきものです。だから、運命という言葉があるのでしょう。
 合格したから良かったというのは、その瞬間だけのことで、明るい未来が保障されたわけでもありません。運が良くなるように、日々、コツコツと努力して積み上げていくのです。
 
 ショッキングな結末付近です。
 書き手としては、『恐怖』の状態をつくる最後半部です。
 いくつかの伏線が回収されていきます。
 
 全体的にくどくて(濃密な筆致)、文章の文字数が多かったことが、読書の苦痛でした。
 文字数を減らしても、推理の楽しさは伝わってきたと思います。
 260ページ付近、お見事なつくり(みごと。価値のある)と、展開とゴールでした。
 犯行理由はあっけなく拍子抜けしました。
 犯人は、こどもの世界にいたのです。
 おとなは、グレーゾーンで生きています。
 いつまでもこどもの世界にいたいピーターパンを思い出しました。おとなになりたくない。
 いいところもあるし、そうでないところもある。全体の幸せを夢みて、気持ちに折り合いをつけて、相手や物事を受け入れるのが、おとなの世界です。

 最後の最後の部分は(だめおしのような)ないほうが、さわやかな終わり方でよかった。
 282ページ付近までいくと、どうなのかなあという疑問が生まれます。
 『悪』を擁護(ようご。かばう)ところにまで至ってしまいます。

 290ページ付近では、洋画『ニュー・シネマ・パラダイス』のラストシーンが、なぜが脳裏に浮かびました。過去のことを延々と回想して悲しみと喜びにひたるのです。

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