2022年03月28日

そして旅にいる 加藤千恵 

そして旅にいる 加藤千恵 幻冬舎

 お笑いコンビオードリーの若林正恭さんの本を読んだ時に書いてあったお名前です。若林正恭さんは、西加奈子さんと加藤千恵さんとお酒を飲むことがあるそうです。読んだ本の書名は『ナナメの夕暮れ』文春文庫です。
 西加奈子さんの本は何冊か読みました。加藤千恵さんという方は知らないので、この本を読み始めました。

 旅行記、エッセイ(随筆)だと思っていました。
 行き先が、ハワイ(自分は行ったことがない。いつかは行きたい)、千葉市にある動物公園(用事があって何度も行きました)、香港(行ったことはありませんが、もう1990年代までの香港を見ることは無理なようです。1997年に英国から中国に返還)、北海道(二度行ったことがあります)、大阪(行ったことはありますがあまり縁がありません)、伊豆(何度か行きました)、ニュージーランド(行ったことはありません。たぶん行くことはないでしょう)、ミヤンマー(軍事政権が民主政治に圧力をかけて、たいへんなことになっています)

 自分が知っている場所の記事が出てきたらと楽しみに読み始めましたが、なんだか、ようすがおかしいのです。
 だいぶ読んでからわかりました。この本は、旅行ガイドブックではないのです。
 小説、とくに、男女の恋愛小説です。
 短編が8本おさめられているわけです。
 2019年初版の単行本です。

第1話 約束のまだ途中 ハワイ
 まだ若かったころの自分が『ハワイ貯金』という貯金をしていたことを思い出しました。
 貧困生活だったため新婚旅行でハワイに行けなかったことが後悔としてあって、少しずつ貯金をして、結婚10周年記念で家族そろってハワイ旅行に行こうと決心しました。
 毎週1000円ずつ、郵便局へ行って、ATMで通帳に入金を続けました。ボーナスのときは、多めに入金しました。かなり長い年数、そうやって貯金を続けました。
 二人目のこどもが生まれた時に、育児休業制度が始まりました。共働きをしていた妻が、1年間育児休業を取得することにしました。制度ができた当時は、休みはとれても、給料は無給でした。それまで貯めていた『ハワイ貯金』を全部生活費で消費しました。以来、いまだにハワイの土地を踏んだことがありません。
 そんなことを思い出してから、この短編を読み始めました。

 出だしはこの記述で始まります。
 『長年のあこがれだったハワイは、行くと決めてしまえば、さほどたいへんな道のりではなかった。』羽田→ホノルル便です。
 主人公の旅の目的は、主人公の友だちである弥生さんの結婚式への参加です。
 小学生のときの約束があるのです。
 親しい女子ふたりで、おとなになったら、ハワイに行こう!
 弥生:主人公の小学校同級生。夫になる男性は、28歳。
 本編の主人公女子:南 25歳。人見知り。
 弥生と南の共通の友だちらしき女子ふたり:どういうわけか、名前の表記が出てきません。

 読んでいると、場面が急に、ハワイになったりします。
 逆に、場面が突如、区立図書館になったりもします。

 隠れた情報として、弥生の夫になる人のおばあちゃんが癌で入院している。

 ほろ苦い(にがい)高校時代の思い出話があります。
 芝原くんが登場しますが、詳細は、ここには書きません。

 短編の内容は、自分の娘よりも若い世代のことがらだと感じながら読んでいます。
 平和です。
 女友だち同士の友情が美しく描かれていました。
 さわやかです。

第2話 冬の動物公園で
 天貝倫太(あまがい・りんた):主人公の男友だち。
 わたし(吉村):主人公女性。天貝倫太とは、高校一年生から5年間の付き合いがありますが、恋人同士ではありません。
 コツメカワウソ(千葉市動物公園にいたか、記憶がありません。有名な動物で思い出すのは、レッサーパンダ、ライオン、フクロテナガザル、キリンなどです)
 
 天貝倫太から吉村に対する突拍子(とっぴょうし。とんでもなく、その場の雰囲気を読まない言動)もない言葉があります。
 恥ずかしくて、ここには書けません。まあ、エロいことです。
 吉村さんは、天貝倫太のどこがいいのだろう。

 コツメカワウソの存在はなんなのだろう。

 片思いのさびしさ、つらさが伝わってきました。

第3話 見えないものを受け取って 香港
 羽田空港、キャセイパシフィック航空、ラウンジで食べたタンタンメン。豪華なビジネスクラスの航空機席。入社4年目、7月上旬の旅です。
 理佐:加賀の女友だち。
 加賀(わたし):女性。
 史嗣(ふみつぐ):わたしの元カレ。別れた。飛行機嫌い。
 
 なにかしら、上品な世界です。
 男女のことも、ふわふわとした空想の世界のような感じがします。
 異性に関する考えが絵空事のような。(えそらごと。美化や誇張で現実的ではない)
 男が女に優しすぎる。いまどきは、こんな男ばかりなのだろうか。

 失恋をなぐさめるための旅行だったわけか。

第4話 冬には冬の 北海道
 11ページの短い作品です。
 
 姉:妹よりも4歳年上。
 妹:主人公。

 姉と妹の北海道旅行です。
 羽田空港→旭川空港。旭山動物園。旭川駅。札幌。

 ラム肉。

 姉妹という女子の世界です。
 姉は、婚約者と北海道に来るつもりだったそうです。されど、男は浮気をしておりました。それも何人もと。

 読み終えて、人は、なんのために旅行をするのだろうかと考えました。
 ストレス解消。
 好奇心(知らない世界を知りたい)
 現実逃避(現実から離れて、非日常の別世界を体験する)
 おいしいものを食べる。
 交流を深める。
 思い出づくり

第5話 神様に会いに行く 大阪
 オードリーの若林正恭さんとの意識の共通点が見られます。
 神様とは、芸術家岡本太郎作品、大阪万博のときの『太陽の塔』です。
 若林正恭さんは、太陽の塔をイメージして、オードリー春日さんのイメージをつくったと彼の本で読んだことがあります。

 さて、こちらの短編です。東京から藤崎さんが、りょうさんに会いに行きます。
 藤崎さん:りょうさんの友人。男性。
 りょうさん:正体不明の長髪の男。出だしでは東京居住。靴のかかとを踏んづけて歩く。彼女あり。彼女は藤崎さんのことを「康ちゃん(こうちゃん)」と呼ぶ。本名は、両部康希(りょうべ・こうき)
 水野絵美香に対するひとつひとつの受け答えをまともにしてくれないという個性あり。音楽バンド活動をしている。仕事はデザイン会社で働いている。
 水野絵美香:主人公。服飾ブランドのアトリエで働くインターンとして、藤崎さんに世話になった。りょうさんとは、3年前女子大生の三年生の時に出会った。
 
 太陽の塔から「お告げ(おつげ。アドバイス)」があるのです。
 太陽の塔には、気持ちが挫折(ざせつ。くじける)したときの救いがあるのです。

 過去と現在がいつの間にか交錯(こうさく。入り混じる)しながら進行することが、この短編集の特徴です。

 ちょっと書きにくいことを書いてみます。(このあと本の最後まで読み続けて気づいたのは、自分が男性だから以下、感じたことなのだろうという推定です)
 人心の把握が浅いような感じがします。
 自分だけの世界を文章で表現してあります。
 おっさんに恋をしたらしき主人公の女子大生だったころから社会人になった現在です。おっさんは、彼女が、気楽に話ができる相手です。
 だけど、ものすごく好きなわけではない。
 なんだろう。
 人間がしゃべっているように見えません。
 進行のしかたとして、「柱(はしら。項目)」がしゃべっているような感覚をもちました。

第6話 パノラマパーク パノラマガール 伊豆
 複数の登場人物が、順番に、自分の気持ちを語る形式文章です。語る人物が、いったり、きたりはあります。
 佐田麻友香:主人公女子。彼氏は大塚くん。
 児玉里瀬(・りせ):表情が変わらないタイプ。身長170cm。ショートカット。第一印象は怖い。猫のようにつりあがった目。唇は上下とも薄い。彼氏はいない。今回の旅行先静岡伊豆を提案した。
 高校の卒業旅行として、伊豆半島を旅する女子ふたりです。
 いずっぱこ:伊豆箱根鉄道。ふたりは、静岡県の三島からスタートします。伊豆パノラマパークという所へ自分は行ったことがないと思って読み始めましたが、ロープウェイがあるということで、乗った記憶がよみがえり、たぶんずいぶん若い頃に短時間だけ立ち寄ったことがあると思い出しました。
 
 ジオラマボーイ パノラマガール:マンガ。岡崎京子作品

 わたしは、たぶん、児玉里瀬が、大塚君と過去に付き合っていたという秘密が隠されているとして読んでいましたが、意表をつかれました。(予想外の展開に驚かされました)

 そうか。びっくりしました。
 そうか。そういうこともあるわいな。
 
 『どうしよう。どうしようどうしょう。』
 佐田麻友香は、とても迷います。

 うーむ。
 結論になっているような、なっていないような。
 なっていないようなグレーゾーンです。
 女子高でならよくある一時的な現象だと、何かで耳にしたことがあります。心配ないと。

第7話 さかさまの星 ニュージーランド
 自分が読んでいて感じる違和感は、自分が男性だからだろうということが、ここまで読んできてわかりました。
 女性の心の中はなかなか複雑なのです。どっちつかずなのです。
 この本は、女性向けの恋愛短編集です。
 おしゃれ、おいしい食事、スイーツとか、旅行、恋、女同士の関係、そして結婚前の状態など。

 紘美(ひろみ)+佑一(背が高くて180cm以上ぐらいでモデル体型。目は二重でくっきりしている)が、カップル
 (主人公わたし)朋乃(ともの)フリーライター27歳+和春(かずはる)が、カップル
 調和がとれたように見える四角関係が維持されています。

 テカポ:ニュージーランドにある夜空の星が美しいところだそうです。ニュージーランド南島にテカポ湖があります。(いらぬことですが、自分の体験だと、灯りが少ない日本の田舎に行けば、夜はどこも満点の星が輝いているのが見えます)

 なにかしら、かしこまっていて、行儀のいい交際です。
 結婚前の(あるいは、まだ結婚を約束していない男女の)ふたつのカップルがニュージーランド旅行をしています。自由な恋愛観があります。
 年配になった自分の世代が若かったころには考えられない行動です。そんなことをしたら、親族一同から責任を求める批判を集中砲火のように浴びせられたことでしょう。

 表向きは、健全に見える人間関係があります。
 本当は、心のうちに、相手の不幸を祈る自分の欲求を抑えている状態があるのです。

第8話 優しい国 ミヤンマー
 この本の中で、一番好きな短編になりました。
 自分の生活とも重なる部分があるからでしょう。
 『三月のはじめに父が逝った。六十歳だった。』から始まります。半年という短い余命宣告を受けた癌でした。
 人生はお金じゃありません。人生は時間です。生きていなきゃ、お金はあっても使えません。
 
 文章表現のしかたとして、事象から、一歩距離をおいた書き方をすることが、この作家さんの特徴です。
 
 オードリー若林正恭さんのキューバ行きの話しと重なります。若くして、病気で亡くなったお父さんは、キューバへ旅に行くことを希望されていました。
 本編の場合は、癌で亡くなったお父さんは、ミヤンマーへ行きたかった。娘がその夢を果たします。

 月と六ペンス:サマセット・モーム作品。

 父は小説家を目指していたが、電機メーカーで経理の仕事をしていた。(たぶん小説家になる活動をしようとして、早期退職をしたのだけれど、思いがけず癌があることが判明してしまい、命を落とすところにまで至ってしまった)

 火葬後の遺骨拾いのお話が出ます。
 のどのあたりにある仏さまに似た骨が紹介されます。
 自分は去年二回斎場での骨拾いを体験しました。
 まだあと、何回か体験して、最後は自分が焼かれたあと拾ってもらう立場になるのでしょう。
 読み終えてやはり、この作品が一番良かった。

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