2022年03月09日

十二月の十日 ジョージ・ソーンダーズ

十二月の十日(じゅうにがつのとおか) ジョージ・ソーンダーズ(米国作家。男性) 岸本佐知子=訳 河出書房新社(かわでしょぼうしんしゃ)

 本の帯に『全米ベストセラー第1位!!!』とあります。知りませんでした。
 長編小説かと思ったら短編集でした。
 日本で言うところの、星新一さんのショートショートのようです。全部で10編あります。
 購買を誘ううたい文句として、①親しみやすい ②共感を呼ぶ ③笑わせてくれる ④ダメ人間の優しさ、尊厳、奇想 ⑤独創的な文体 とあります。
 2019年初版の単行本です。
(その後の追記として)
 非常にわかりにくい文章でした。
 わかりやすくするために短編の最後に、著者のあとがきの一部分を残しておきます。
 あとでわかったのですが、SFでした。サイエンスフィクション。

「ビクトリー・ラン」
 タイトルは、勝利の走りという意味だろうか。26ページぐらいの文章量です。
 (つづく)
 読み終えましたが、何が書いてあるのか理解できません。
 独特な文体です。人間の話ではなく、人形の話を読んでいるような印象があります。(でも人間の話です)
 もうすぐ15歳になるアリソン・ポープという女子の頭の中で繰り広げられる出来事の数々が羅列(られつ)されているようにみえます。
 散文、詩、幻想、純文学(あらすじ、時の経過がない。心象風景を表現する)みたいです。
 エロはあります。頭がおかしい人が書いたような文章です。(外国ではこれをユーモアというのかもしれません)
 自分にはついていけない世界です。(本を買ったのは失敗だったのか)
 何が書いてあるのかさっぱりわかりません。
 911:ナイン・ワン・ワン。アメリカ合衆国の緊急通報用電話番号。日本の110番、119番に相当する。

<訳者のあとがきから>
 少年は、両親の声を聞いて、自分の両親に従うことを決心した。(わたしは、この部分を読むまで、主人公は、少女だと思っていました)

「棒きれ」
 わずか2ページの作品です。
 2ページですが、文字がびっしり書いてあります。
 そして、おもしろい。
 タイトルの棒きれというのは、父親が庭に植えた十字架のような鉄パイプを指します。
 こどものころの思い出話です。
 ケチで倹約家のおれたちの親父の話です。
 十字架には、サンタクロースの服がかぶせられます。アメリカンフットボールのジャージとヘルメットをかぶせることもあります。軍服、お化けの衣装、いろいろなものが棒きれにかぶせられます。
 文章に、胸にしみじみとくる味わいがあります。
 事実なのか、虚構なのかわかりませんが、たぶん事実なのでしょう。
 なかなかいい。
 変な話ですが、自分が書く文章に似ています。

「子犬」
 わかりにくい作品です。
 わかるのは、児童虐待を強く憎む精神がメッセージになっていることです。
 こどもの名前なのか、子犬の名前なのかはっきりせず、名前がたくさん出てきます。
 擬人法で、子犬がこどもを表しているのかという感覚があるのですが、こどもはこども、犬は犬と分離してあるようにも読めます。
 家族がいて、母親が児童虐待をしていて、母親は子犬を販売していて、犬を買いたくてたずねてきた女性が、庭で首輪と鎖を付けられた人間のこどもを目にして、というような流れです。
 表記のしかたとして、カッコの多用があります。「 」とか< >の中に文字が書き入れてあります。
 だれの視点で文章が書かれているのかが、判然としない部分もあります。
 ママは、怖い。幻視、幻覚がありそう。
 救われる言葉があります。『あんた正気か? 子どもだぞ、自分の子どもなんだぞ?』
 児童虐待をする人間への憎しみがにじみ出ています。
 『児童福祉課への通報だ』あそこの職員はおそろしく仕事が早いという文脈があります。
 
 恐ろしい。どこまでが本当で、どこからがウソなのか、まるでわからない作品でした。

「スパイダーヘッドからの逃走」
 書いてあることは、もう、自分にはわからない世界です。
 自分にとっては、意味をとれないので、読んでいても、つまらない文章です。
 実態としての中身がありません。
 この作品がいいというのは、なにか、勘違いがあるのではなかろうか。
 
 村上春樹作品のような雰囲気もあります。
 
 エロな世界の描写です。

 三人の男性と、二人の女性に、複数の薬物を投与して、男女関係の効果を測定します。
 刑務所内で服役囚を使って人体実験をしています。薬物投与の人体実験です。最近の出来事として、オリンピックスケート競技を思い出します。ドーピングです。(薬物摂取で運動能力を高めて勝利を獲得する)
 アメリカ人が、こういう小説が好きだとは思えないのですが、事実としては、売れている作品なのでしょう。
 
 快楽のあとのむなしさがあります。
 薬でつくられた本物じゃない「愛」です。

 タイトルのスパイダーヘッド:管制室のこと。クモの頭に似ている。足が、ワークルームで、そこで人体実験が行われている。

 治験ちけん:医薬品の試験

 最後に、母親の姿が出てきます。

 なにがいいたいのか。わかりませぬ。
<訳者あとがきから>
 服役している若者は、人間モルモットとして、さまざまな薬を投与されている。

「訓告」
 タイトルの訓告(くんこく)は、仕事上やってはいけないことをやったり、やるべきことをやらなかったりしたときの注意だと思うのですが、わずか6ページしかないこの作品を読み終えてみると、処分というよりも仕事のやり方を示したものだと受け取りました。
 古代の奴隷の話を思い出しました。支配層は、奴隷が嫌がることは奴隷にはさせなかったということです。いやいややらせると、効率が悪いということが理由でした。
 この作品では、『効率』の話が出てきます。目標を達成するための効率です。
 お金のために働く。
 職場での棚の掃除とか整理整とんが例として出されています。
 
 チャント:みんなで輪になって、声をかけあう。スポーツ競技の前の『力を合わせてがんばろー』みたいなこと。

 アンディという男性が、10月に仕事で驚異的な成績をあげたそうです。

 仕事をするときは、気持ちを前向きにもつということが書いてあると思うのですが、いっぽう、やる気のない人は、間引きされるといような意味の言葉もあります。『(あなたの)代わりはほかにもいる』ということです。

 数字を上げろ。数字を下げるな、の世界です。

 実績をあげられない人は、退職勧奨の部屋へ送られるようです。(仕事がない。電話も書類もない。なにもすることがなく一日を過ごす)
 自分が棚になってはいけないというような表現がありますが、うーむ。よくわかりません。
 
<訳者のあとがきから>
 上司が部下たちに送った一斉メールによる通達文です。
 仕事の内容が示されていないことが不気味です。

「アル・ルーステン」
 タイトルのアル・ルーステンは、中年男性の氏名です。
 本人が、「おれ」という言葉で語ります。
 また、よくわからない話でした。
 ドラッグ(薬物)反対のメッセージがあるようです。『笑いで子供をドラッグから守れ』
 アル・ルーステンと友人のラリー・ドンフリーが、チャリティーに出ます。
 男同士の同性愛の話、離婚話とか、おいっこ(甥おい)たちの話が出ます。
 優しい母親の話も出ます。
 うーむ。何が書いてあるのかわからない。

<訳者のあとがきから>
 古道具屋を営む中年男は、地元のチャリティーショーに出演したが、すべってしまい(観衆にうけなかった)、頭がおかしくなっている。

「センプリカ・ガール」
 40歳になる家族持ち男性の日記です。
 センプリカ・ガールというのが、なんなのか。
 貧困層の奴隷女子のようでもあり、電算システムでコントロールされた人形のようでもあり判然としません。
 善意でとらえれば、貧困地帯から都市部への出稼ぎ女子ととらえることもできますが、文脈では、まるで、富裕層のこどもたちのペットのような扱いです。
 タミ(出身地はラオス。売春宿で働くふたりの妹を救うためにこの職を申し込んだ)
 グウェン(モルドバ出身(ウクライナの南にある国)クェートで性奴隷にされたいとこを救うためにこの職を申し込んだ)
 リーサ(ソマリア出身(アフリカ東部にある国)父と妹がエイズで死んだ)
 ベティ(フィリピン出身。家族が地震で被災した)
 4人の女子が、庭で、1mほどの高さで、空中につるされているのです。
 観賞用なのか。わかりません。

 お金の話が出ます。日記を書いている男性は、こどもの頃に父を心臓発作で亡くして、貧困な育ちですが、妻の実家は裕福です。されど、義父は、娘婿(むすめむこ)を嫌っています。
 
 『比較』の話が出ます。センプリカ・ガールである4人の女子たちと主人公家族(こども3人)の暮らしの比較です。
 主人公男性の実家も家庭が壊れていてけっこう苦労されています。
 男性の言葉として『あのころはつらかった』『今でも思い出すとつらい』
 
 マイクロライン:4人の女子をつないで拘束していた線。

 沈んだ内容ですが、最後付近には『光(ひかり)』があります。
 主人公は、未来の人間に向けて、日記を書いています。

<訳者のあとがきから>
 中年サラリーマンとその家族がいる。貧乏だったけれど、宝くじが当たって、SG飾りを庭に設置する。センプリカ・ガールというのが、社会的ステータスの証(あかし)となっている社会だそうです。社会において、上位にある地位を示す証拠だそうです。ちんぷんかんぷんです。

 『ウクライナ教会』という文字も出てきます。現在のウクライナ国は、人口4370万人ぐらい。ウクライナ人が80%ぐらい。ロシア人が20%ぐらい。(人口が4000万人を超える国を、軍事侵攻したロシアの軍隊15万人から20万人ぐらいで統制できるとは思えません)
 この部分を読んでいた時に、ロシアがウクライナに軍事侵攻しました。ロシアの大統領は気が狂っています。人を殺してでも自分の希望をかなえたい人間です。自分の思いどおりにならないと、机を叩いたり、椅子を蹴ったりする人間と同じです。脳みそが洗脳(悪魔に脳内をコントロールされいる)されて、暗示にかかっています。彼を止めることができるのは、ロシア国民です。組織は外部の力によって壊れるのではなく、組織は内部の力によって崩壊します。(短期的なことはわかりませんが、長期的に見ると、ロシアという国の体制が崩壊するような気がします)

「ホーム」
 戦争に行って帰ってきた戦争帰還兵男性の不幸話です。
 タイトルのホームは、母親がいる実家ですが、母親は、家賃滞納で追い出されます。母親は癌でもあるらしい。
 『ピーッたれ』という単語が何度も出てきます。『くそったれ』という意味のときもあるし、意味不明のときもあります。日本語の『あれ』に似ています。あれがこうして、あれだから……
 『ロシア人』という言葉が出てきます。また、あんたは正気か! と言ってやりたいロシア大統領の顔が頭に浮かびました。(しょうき:正常な心)

 登場人物はたくさんです。
 家族関係、人間関係がわかりにくい。
 
 いい言葉だと思ったのは『答えは「イエスでもありノーでもある」、ですかね』

 反戦の作品なのだろうか。

<訳者のあとがきから>
 中東から数年ぶりにふるさとに帰ってきた戦争帰還兵は狂っている。

「わが騎士道、轟沈せり」(わがきしどう、ごうちんせり)ごうちん:攻撃された艦船が短時間で海に沈没する。
 テッドという男性がいます。独身です。父親は脊髄損傷です。母親も病気です。同居する妹は病的に神経質です。
 テッドの職場のボスであるドン・マレーと洗い場で働く女性マーサーは、ダブル不倫をしています。(ふたりとも既婚者)
 おもに、ダブル不倫の話です。合意のうえだから、いいのだとボスは言います。
 ダブル不倫を知るテッドへの口止め料が、「昇進」です。
 
 コールスロー:生キャベツのサラダ

 この本の作品群では、薬物の記事が多い。

 自分に合わない作品群なのか、なにが書いてあるのかわからず、文章を追っていると、演劇を見ているような雰囲気になります。現実味がないのです。
 読解力不足なのでしょう。
 ちんぷんかんぷんで、何が書いてあるのか皆目(かいもく。まるっきり)わかりません。
 
 作品はあと1本。本のタイトルにある『十二月の十日』だけになったところで、役者のあとがきを先に読んでみました。
 短編ごとに簡単な説明があります。
 その部分を読んで多少わかったような気分になれました。
 短編ごとに、主人公の絶望的な不幸が書いてあって、それでも、最後は、希望の光がさした終わり方になっているそうです。

<訳者あとがきから>
 テーマパークで働く若者が、薬で、中世の騎士になるが、破滅していく。(本短編、騎士道に関して)

「十二月の十日(じゅうにがつのとおか)」
 おかっぱ頭の色白少年ロビンが出てきます。
 空気銃を持って、湖へビーバーのダムを見に行くのです。
 少年には、地底王国の住人(地底人)という敵がいます。
 ガリバー旅行記を読んでいるような雰囲気があります。小人(こびと)の国への旅行です。
 スーザン・ブレッドソー:カナダモントリオールからの転入生女子
 ニッサンという日本の自動車メーカーが出てきます。どんどん奇想天外になっていきます。(風変わりで奇抜)
 スーザンが、地底人に誘拐された。
 ロビンはスーザンに対して恋心をもっています。
 
 ロビンの親父:ペテン師
 キップ・フレミッシュ:同じくペテン師

 このあと、また、読んでいても、意味がわからない状態になりました。

 子どものロビンが水の事故にあったように思える文章なのですが、よくわかりません。

 うーむ。やっぱりわからない。

<訳者のあとがきから>
 孤独ないじめられっ子の少年とあります。
 少年と自殺願望のある男性が出会うそうな。

(その後)
 書評を読んでいると、訳者の岸本佐知子さんの評判がいいので、エッセイ集『なんらかの事情』ちくま文庫を読み始めました。

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