2021年12月22日

スマホ脳 アンデシュ・ハンセン

スマホ脳 アンデシュ・ハンセン 久山葉子・訳 新潮新書

 読み始める前の心構えとして、スマホの良くないところについて書いてある本であろう。

 街で、ながらスマホをしながら歩いている人を見ると危険を感じます。
 一度ぶつかりそうになったことがあります。
 以降、ながらスマホをしている人には、近づかないようにしています。
 
 今年あったニュースで、スマホを見たまま、線路の踏切内に立っていた若い女性が列車にはねられて死亡するという事故がありました。
 どうも本人は、自分は、踏切の遮断機の外にいると誤解していたようです。
 まわりにいた人たちもみんなスマホを見ていて、彼女のことに気づけなかったそうです。
 異常です。

 著者は、1974年生まれのスェーデン人精神科医です。
 日本とは事情が異なる点もあります。
 スェーデンの人口は一千万人ぐらい。国民の9人のうちの1人はうつ状態で、薬を服用しているそうです。
 自分が若い頃は、北欧の福祉施策はすばらしいというような評価がたびたび出ていましたが、どうもそうでもないようです。この世は誤解と錯覚で成り立っています。
 スウェーデンでは、心の不調で精神科の受診者が増加しているそうです。スマホがひとつの要因になっているそうです。

 スマホのために病人にはなりたくありません。

 急速なデジタル化に人心がついていけていないという趣旨で記述があります。
 人によりけりなのでしょう。
 日本では、スマホやパソコンをもたない人たちもたくさんいます。
 日本人、一億二千六百万人のうちのどれぐらいかはわかりませんが、自分自身が日常生活を送っていて、デジタル機器を使いこなせている集団が大きいとは思えません。

 『睡眠と運動が必要』
 
 インフォデミック:ネット上のうわさやデマが社会に混乱をもたらす。

 文脈から、一般人は『だれかの金もうけの餌食になっている』と読み取れます。

 目次を見て、目を引く項目として『人類はスマホなしで歴史を作ってきた』『スマホは私達の最新のドラッグである』『バカになっていく子供たち』
 昔テレビで観たドキュメンタリーを思い出しました。
 南の島国で、手で持つ銛(もり)を使って集団による捕鯨をしていた民族に、国際的な組織が捕鯨船をプレゼントした。おもしろいようにたくさんのクジラがとれるようになって、部族は大喜びをした。
 手間と時間をかけて一頭のクジラをみんなで協力して仕留めるという地域集団の生活のリズムがなくなった。ある者は、富を得て働かなくなった。クジラの数も減少してきた。
 部族は、捕鯨船を無用なものとして海岸に放置した。捕鯨船は朽ち果てた姿で残っている。
 部族は、またもとのように日にちをかけて、一頭のクジラをみんなで捕獲する狩猟方法に戻った。
 記憶にあるストーリーは以上でした。

 『進化』とは、今の状況に適応していくことだが、人間は、進化できていない。
 黒いクマが、北極に移動してから白いクマに進化した経過が書いてあります。1万年から10万年かかっているそうです。興味深い。

 ADHD(注意欠如・多動性障害):常に周囲を確認する。異常なほど活発。すぐに他のことに気を取られる。
 
 世界の平均寿命は、女性が75歳。男性が70歳。(日本は、女性が87歳。男性が81歳)

 世間では、事務処理の手法が急速に変化しました。
 自分がこどものころは、そろばん、ガリ版、習字の世界でした。電卓もありませんでした。
 それが、いまでは、パソコンによる入力処理、電子マネーの利用にまで発達しました。
 人にやってもらっていたことが自分でやるようになりました。
 銀行ATMも昔はなかった。出始めの頃は、自分で出し入れするのなら、人件費がいらないのだからみかえりがほしいという声がありました。
 もういまでは、コンビニやスーパーも自分で支払い処理をするように変化しました。
 ついていくのがたいへんです。
 思えばこどものころ、コンビニもスマホもパソコンもありませんでした。
 昭和五十年代後半に見た大きなカバンのような携帯電話は、仕事用であり、携帯電話は普及しても、仕事だけのために使うものだと思い込んでいました。

 この本では、変化による人間の思考、感情、経験をつかさどる脳の働きに着目します。
 狭い世界を深く追求します。

 決断を下すのは、感情であるとあります。
 考えてみれば、感情のあとに後付けの理屈があるということはあります。

 人の性質として、人は、ストレス(負の感情)を好むそうです。

 SNSは便利な反面、ドラッグ(幸福感を感じた後に死す毒薬)の一面をもっている。
 SNS:ソーシャル・ネットワーク・システム。SNSを使ったことがきっかけで命を落とす人がいます。犯罪に巻き込まれる人もいます。メンタルの病気になる人もいます。
 本では、SNSをつくった人たちは、危険性に気づいていて、自分のこどもには、機器を使用させなかったとあります。
 SNSは、一部の人たちが富豪になるために開発された製品のようなものという位置づけで、脳に与える影響についての説明があります。
 SNSは、脳の中枢を煽る(あおる。挑発する)

 第一章で問題提起をして、第二章で、脳の働きに関する考察があります。

 強いストレス(パワハラなど)にさらされると精神状態が悪くなる。

 賭け事に負けても、もう一回やれば勝てるような気がするから、ギャンブル依存症になっていく。スマホにも類似の性質がある。スマホを手に取ることが中毒になる。

 フェイスブックやインスタグラムに「いいね」がつくのは、意味はない。企業の金もうけに利用されているだけ。
 ヘビーユーザー:怒りっぽく、攻撃的な積極性あり。活動的。競争心が強い。自分を強いストレスにさらしている。

 『スクリーン』という言葉がたびたび出てきますが、機器の画面とかモニターのことだと思って読んでいます。
 
 スマホやパソコンは集中力を奪う。
 手書きメモのほうが記憶に残る。
 仕事をしていたころ、手書きで封筒のあて名書きをしていたら、若い人に、パソコンであて名シールを打ち出せますよと、ばかにしたように言われたことがあります。自分としては、手書きをしながら相手の名前を暗記しているのだと話しましたが、冷ややかな視線を感じました。若い人たちの働き方をみて、もうこれから日本の経済力は衰退していくばかりだと感じました。
 この本では『デジタル性健忘』と定義されて説明があります。

 自己管理による自分自身の行動に対するコントロールが大切なのでしょう。
 
 画面が発するブルーライトの悪影響について書いてあります。
 ホルモンの働きにブレーキがかかって睡眠に悪影響が出るそうです。
 電子書籍もよくないようです。
 
 脳の働きとして、人は悪口を言うことが好きという文脈があります。
 意識の基本は後ろ向きなのでしょう。

 『孤独だと病気になって早死にする危険性がある』
 『ナルシズムという伝染病』自己愛。自己陶酔症。
 『スマホやSNSは、できるだけ人間を依存させるよう巧妙に開発されている』
 『既存の社会機能を壊してしまった』
 SNSの活用を推進しましょうというような世の中の流れのなかで、この本では、厳しい警鐘が示されています。

 法律や警察組織がなかった大昔には、狩猟採取民のうちの10%から15%が別の人間に殺されていたとあります。貧富の差が生まれる農業社会になってからは、20%ぐらいが殺されていたそうです。人類が『自分たち』と『あいつら』を分類するようになった。

 今年読んで良かった一冊になりました。これまで良いこととされていたことを、そうではないと示してくれた良書です。
 フェイスブックの情報は正確な情報ではないと指摘があります。トランプ大統領がしきりにフェイクニュースと叫んでいたことを思い出しました。(嘘のニュース)

 こどもたちひとりひとりにタブレットを配布することが流行していますが、こどもたちにとっていいことなのだろうか。タブレットを配布する人間たちにとって都合のいいことなのではないか。そんなことを考えながら読んでいたら、アップル社を創業したスティーブ・ジョブズ氏の言葉が出てきました。『うちでは、こどもたちがデジタル機器を使う時間を制限している』
 そういえば、スマホではありませんが、昔グァム島へ旅行をしたときに、大型スーパー店のベンチで日本人のこどもたちがたくさん集まって、うつむいたままゲームボーイという機器を操作していました。買い物をしている親たちを待っているのでしょうが、異様な光景に見えました。海外まで来てすることなのだろうか。

 スマホが危険なものなのに世の中に蔓延している(まんえんしている)。
 スマホが、飽きられる時がくるのだろうか。
 大部分の人にとって、スマホは害にしかならないとあります。
 しっかり睡眠をとって、適度な運動をするほうが心身の健康には良いそうです。
 この本を読んでいると、人類は、自分で自分を追い込んで滅亡するのではなかろうかという不安に襲われます。
 スマホの過剰使用で、若者の精神状態が悪くなっているそうです。親が忠告してもきかないでしょう。親も同様に中毒状態になっていたりもします。

 スマホに頼って、記憶することを怠るようになっている人類の知能指数は下がってきているそうです。記憶に加えて考えることもやめている。スマホに相談して、スマホの指示に従う脳になっている。
 人間は人間としての大切なものを失いかけているとあります。
 集中力とか思考力です。
 まずは、各自が自分の未来を選択するのでしょう。
 スマホの使用時間を減らす。
 やることとしては簡単なことです。

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