2021年12月21日

完全版 社会人大学人見知り学部 卒業見込 若林正恭

完全版 社会人大学人見知り学部 卒業見込 若林正恭 角川文庫

 お笑いコンビ「オードリー」の春日さんじゃないほうの人が書いた本です。
 平成27年、2015年初版の文庫ですが、36版とよく売れて読まれています。

 テレビ番組「しくじり先生」で見かけます。
 テレビ番組「モニタリング」で見かけたころは、まだ名前が春日さんほど知られていなくて、ロケ先で苦労されていました。
 M1グランプリ2008年準優勝でした。

 『オードリー』はアメリカ女優のオードリー・ヘプバーンからとったのだろうと思いながら読み始めました。あとで、調べたらやはりそうでした。

 だいたいは、雑誌に掲載された短いエッセイを集めた本になっています。
 平成22年、2010年からのものです。東日本大震災の前の年です。

 冒頭は、自分は三十歳で社会に出たというものです。それまでの十年間ぐらいは、若手芸人としての下積み時代です。

 タレントというのは、見るのとやるのとではまったく違うのでしょう。
 やるときは、『仕事』です。無料奉仕の慈善事業ではありません。
 人に見られる『個性』を演じます。

 お客さんが『若様』と書かれたウチワを持っている。
 
 テレビでは、同じ人が同じ話を何度もしています。
 割り切ってやるのがタレントの仕事です。
 一般人は、同じ質問を繰り返されると変な気持ちになります。
 以前、事故にあった小学生女子が、(テレビ局各局のレポーターが)どうしてなんども同じ質問ばかりするのかとあきれていたシーンを思い出しました。

 芸能界での成功経過話です。
 風呂なしのアパートから風呂付のマンションに引っ越しました。『漫才で風呂を勝ち取った』実感がこもっています。

 されど、芸人は消耗品扱いです。

 仕事のときの自分とプライベートのときの自分を分けて生活していく。ただ、たいていの職業人はそのようにしています。働くときのポスト(自分の立ち位置。役職など)を演じています。

 『無趣味のすすめ』村上龍は読んだことがあります。若林さんの場合は、趣味は仕事なのか。

 東京築地生まれ育ちというのは、都会のどまんなかであり驚きました。
 書く習慣がある人です。本を出すには必須の生活習慣です。

 下積み時代は、お金がないので、一日二食とあります。
 自分にもそういう若い時代があったことを思い出しました。昼食に行くふりをして、職場のまわりをぐるりと散歩して戻って、おなかをすかせながら働いていました。だからとてもやせていました。

 ジェンガ:テーブルゲーム。たくさんの直方体でできたタワー。タワーを壊さないように、パーツ(直方体)を抜き取り最上段に積み上げる。

 祖母とのふたり暮らしを体験されています。
 孫がごみとして捨てた服を、祖母が回収して祖母自身が着る。
 夫婦でも似たようなことがあります。
 ごみの捨て方でよくケンカしましたが、いまは折れて妥協できるようになりました。

 十年間、売れない著者を待ったご両親とおばあさんの寛大さに胸を打たれました。
 おばあちゃん、ありがとうとあります。

 『がんばってください』ではなく『応援しています』
 『幸せだから笑うのではない。笑っているから幸せになる』
 
 一話が2分間ほどで読めます。限られた文字数で感情表現をすることは、お笑いの台本づくりと共通する部分があるのでしょう。
 
 ダイエットに挑戦。一日の摂取カロリーが1900キロカロリー以内で、一か月で6kgもやせたそうです。すごい。

 127ページ、ここまで読んで『若様』という愛称は、『殿様』みたいなもので、見た目が、若殿様に見えるからだろうと勘違いしていたことに気づきました。みょうじが『若林』なので『若様』なのでしょう。

 お笑い芸人はテレビ局の人間から『商品』『消耗品』扱いされているのではなかろうかという疑問があります。
 競い合う大会を開催することはいいのですが、優勝者となった瞬間、以後一年間休みなしの労働環境におかれるというような待遇は、ごほうびを通り越して、拷問のようなものです。収入は増加するのでしょうが、心身を壊したら、もともこもありません。健康があってこその幸せです。異常なことはやめましょう。テレビ局関係者の頭の中はどうかしているのではないかと感じられる時があります。感覚がマヒしていて、異常さに気づけないのでしょう。契約により権利義務関係が発生して、お金を出すのだから何を指示してもいいのだと思い上がっている層が組織の中にいるようです。

 『考えすぎ』と言われる性格だそうです。
 仕事には、きめこまかな打ち合わせが必要です。
 何回も意思疎通のための会話のキャッチボールをします。
 日本特有の『察する文化(なにも言わなくてもわかる)』には否定的です。めんどうくさいから言わないだけとしか思えません。
 アルコールを飲まないと本音を言えないというのは、いいようでよくありません。
 仕事がらみの酒席はだれしも嫌なものです。
 
 お金がなかったころの女性との付き合いとかの表現が絶品です。
 著者にとって絶対に戻りたくない二十代があります。
 
 相方の春日さんのことが出てきます。
 若林正恭さんは、芸術家の岡本太郎さんが好きで万博の『太陽の塔』が好きなので、春日さんがギャグをするときの姿勢に取り入れたそうです。なるほど。
 春日さんは努力をしない人だそうです。嫌気がさすときもあったけれど、自分はもっていない偉大な面があるそうです。そういうことって、友人関係とか、夫婦関係、恋人関係でもあります。100点満点のものなどないのです。ひとつでも尊敬できるところがあれば、ほかの嫌なところはがまんできるということはあります。お互いさまということもあります。

 徐に:おもむろに。読めませんでした。

 人から見て困難なことでも、これしかやれないからこれを職業にしているということはあります。

 芸人さんの世界だからなのか、発達障害みたいな状態の人も出てきます。
 一芸には秀でているけれど、ほかのことができません。
 ネタを大量生産することができる人がいます。しかしながら、彼はパソコンを使いこなせません。鉛筆と紙でしか台本書き処理ができません。パソコンやスマホがまだなかった時代だったら、彼の夢は花開いていたでしょう。成功するためには『運』がいります。生まれてくる時代がもっと早かったら良かったのに。

 いいとか悪いとかではなく、世の中にはいろいろな人の生き方がある。
 平凡な人生を送る者として思うのは、お笑いタレントさんたちの大半は、いつまでも少年少女の気持ちをもちながら人生を送っていく人たちなのだろうということです。

 男も女も同じには、共感しました。

 なぜお笑いを辞めることができないのか。
 ステージで演じているときに、40人から50人ぐらいの観客集団が起こす瞬間的な大爆笑が、演じる者の快感につながるそうです。『笑い中毒』があって、忘れられないそうです。

 弄り方:いじくりかた。読めませんでした。

 良き言葉として『この世に存在する理由はふたつある。ひとつは、何かをしているから存在していいということ。二つ目は、生まれてきたら、なんの理由も無くこの世界に存在していいということ』

 もうひとつ『君はなんでも俯瞰(ふかん。見下ろす。飛んでいる鳥の視界)で見てしまうから楽しめないんだよ』
 趣味が散歩しかなかったころのことです。

 『最期まであがいた者にのみ、次につながる挑戦が約束されているはずだ』
 (先日見た、昔の太川陽介さんとえびすよしかずさんとゲストの野村真美さんの路線バス乗り継ぎの旅みたいです。静岡県御殿場から新潟県直江津までの再放送でした。困難を克服されてゴールしています)

 後半になるにつれて記述内容がだんだんつまらなくなってきました。
 ネタ切れ、マンネリ、慣れか。
 334ページあたりで、若い不安定な気持ちの時期からの「卒業」があります。
 
 著者同様に、あそこに何年かのちの自分が座っているという未来を、若い時に抱いたことが自分にもあります。

 「あとがき」は、なくてもよかったかな。

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