2021年12月16日

僕の人生には事件が起きない 岩井勇気

僕の人生には事件が起きない 岩井勇気 新潮社

 お笑いコンビ「ハライチ」の岩井勇気さんです。
 澤部佑(さわべ・ゆう)さんのほうが目立つので、単体でお名前だけ聞くとだれかな?と思ってしまいます。
 「ハライチ」というのは、ふたりが生まれ育った埼玉県上尾市(あげおし)にある地域の名称で、その点で好感をもっています。

 岩井勇気さんは、テレビ番組「鶴瓶の巷の噺(つるべのちまたのはなし)」でゲストに出た時の澤部佑さんの婚姻届け呈出話で爆笑しました。
 突然澤部佑さんに役所に来るように呼び出されて行ったら、澤部佑さんとこれから奥さんになる女性がいて、ふたりが出す婚姻届の証人欄に署名を求められたというような経過でした。
 それまで、岩井勇気さんは、澤部佑さんに付き合っている女性がいるということを知らず、澤部佑さんはこれまで、女性体験がまったくない男だと信じ込んでいたそうです。
 奥さんになる女性は、そのとき妊娠されていました。
 
 この本は書評の評判が良かったので読んでみました。
 よく売れている本です。

 『文字書きが苦手です』から始まりますが、読んでいて、そんなふうには思えませんでした。
 接続詞が少なく、読みやすい。文章にリズムがあります。
 編集担当の人が、手を入れてくれていたのかもしれません。

 変化の少ない人生を送っておられるそうです。
 お笑いの仕事をしていても、埼玉県の実家から都内の職場へ通勤されていたそうです。ゆえに下積み時代と呼べる苦労した時期がない。
 大都市周辺で生まれ育った人というのは、地方で生まれ育った人間からみるとうらやましい。
 いなかだと、進学するにしても就職するにしても、高校を卒業したらいったん家を出なければならないことが多いのです。
 お金も手間もかかります。新生活に慣れるための苦労も伴います。
 みかえりは『夢』を追う楽しみがあることです。

 ご本人は、30歳にして初めて家を出て、東京都心にあるメゾネットタイプ(長屋二階建て)のアパート住まいをされています。ふつう、なかなかそうはいきません。
 新居の隣地にある墓地と幽霊話が出てきます。
 シラカシの木の話は、うちの庭にも二本植わっているので、親近感をもちました。

 母親の得意料理がペスカトーレ:魚介類をつかったトマトソースのスパゲティ

 気楽に読める芸人さんのエッセイという位置づけの本です。

 芸人の生活パターンのレクチャーを受けているようです。(講義)

 焼き肉店でのタブレットによる注文についてあれこれうまくいかないと書いてあります。
 自分にも同様の体験があります。生ビールをタブレットで注文しようとしたら画面に生ビールがなくて、若い男性店員に聞いたら、理由はわかりませんが、自分も知らないと言うので、じゃあ一緒に勉強しなきゃと言って、しばらくして、奥から出てきた別の店員に使い方を教えてもらいました。
 それにしても、ジョッキで飲む「生ビール」は、タブレットの最初のページにあるべきではなかろうか(なんどか画面をスクロール(タッチしてなでて)してようやく生ビールほかの飲み物の画像が出てきました)
 
 予約したことを忘れることが多い岩井勇気さんです。
 こういう人っています。
 直りません。
 脳にあるべき手順のプログラムがなされていないのです。
 だれしも、人間としては不完全な部分があります。

 岩井勇気さんは、どんくさい人でもあります。(不器用。通販とかホームセンターで購入するDIY自分でつくる木製の棚をつくれない)

 珪藻土(けいそうど)製品に、はまる記事があります。
 だれしも中毒気味の買い物をする時期があります。
 自分にも覚えがあるので、岩井勇気さんを責める気にはなりません。

 『錯覚(間違えている)』の世界があります。『想像(頭の中につくりだす)』の世界ではありません。
 
 文章には、なくてもいいオチを求めている部分もあります。

 野球の話は共感する部分が多い。
 昔の少年たちは遊びが野球ぐらいしかありませんでした。
 長い年月の経過により時代は変わりました。
 日本全国にたくさんある野球場はだんだん別のスポーツ施設ほかに変わっていくであろうと自分なりに未来予想をしています。

 昔まだこどもだった息子とプロ野球観戦で球場に行ったら、そばにいたおばあさんたちが嫁さんたちの悪口を延々と言い続けるので閉口したことを思い出しました。
 なにも、プロ野球観戦のスタンド席まで来てそんな話をしなくても。なにかで手に入れたタダのチケットだったのでしょう。野球のことはなにも知らないのでしょう。

 読んでいて、人間ってなんだろうという気持ちになりました。
 人間は不完全な生き物で、なにごともうまくいかないという前提に立って、折り合いをつけながら人生を楽しめたらいいという着地点を見つけました。

 学校にしても職場のものにしても、同窓会というものは、成功した人間の集まりなのでしょう。
 自分はあまり行きたくありません。親しい人とだけ楽しく飲食するならいいけれど、自慢話を聞かされるのは著者同様に苦痛です。でも、自慢話をする人は多い。しかたがありません。だれしも人から認められたい。
 体験談を読むと、芸能人が親族の冠婚葬祭に顔を出すのも場の雰囲気として、むずかしいものがあります。
 芸能人は、ちょっと特殊な仕事です。

 著者の心は冷めています。
 
 親戚づきあいはめんどくさいというのは、今どきの若い人たちの感じ方なのでしょう。昔は、親戚同士で助け合わないと生活していくことが大変だった時期がありました。今はいい時代になりました。

 相方の澤部佑さんに関する分析と評価が鋭い。
 村田紗耶香作品(むらた・さやか作品)『コンビニ人間』に登場する主人公女性の個性が澤部佑さんの個性です。
 澤部さんに人気があっても『澤部が一番好き』という人はいないのです。著者いわく彼は『真似(まね)』であって『素(す。実体。本質)』がないのです。
 昔読んだ本で、永六輔(えい・ろくすけ)さんの娘さんが、父は「永六輔」という個性(人格)を演じていたと語られていました。芸能関係の仕事をする人は、だれだれという人物を演じることが仕事なのです。
 よく考えると芸能人でなくても、人は、職場で、その職場に応じた人格を演じているということはあります。職場にいる全員が役者なのです。

(その後のこと)
 この本を読んだあとしばらくして、今は、お笑いコンビ『オードリー』の若林正恭さんの本を読んでいます。『完全版 社会人大学人見知り学部 卒業見込み』という本です。
 『ハライチ』の岩井勇気さんとは対照的で、下積み期間が10年間もある若林正恭さんです。
 読みながら、「売れる」ってなんだろうって考えています。苦労しなくても売れる人は売れる。苦労して売れる人もいる。苦労しても売れない人もいる。
 お金があるから成功者なのかという、幸せの基準についての考察もあります。
 たぶん正解はさがしても見つからないのでしょう。

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