2021年08月24日

飛ぶ教室 エーリヒ・ケストナー・作

飛ぶ教室 エーリヒ・ケストナー・作 池田香代子・訳 岩波少年文庫

 1933年、昭和8年の作品ですからもうずいぶん昔につくられた児童文学作品です。
 ドイツ文学です。創作された当時は、第二次世界大戦(1939年―1945年)に向かうナチスドイツの言論統制下で、創作活動を行うにはむずかしい状況があったであろうと推察します。
 有名な物語のようですが、読むのは初めてです。

 エーリヒ・ケストナー ドイツ人 小説家、詩人 1899年(日本だと明治31年)-1974年(昭和49年) 75歳没 1914年(大正3年)に起きた第一次世界大戦に動員された。同大戦は、1918年(大正7年)終戦。

 物語に出てくる人物が、ヨーナタン・トロッツ(愛称が、ジョニー)で、寮生活を送る学生。ギムナジウム5年生(14歳ぐらい)。アメリカ合衆国ニューヨーク生まれ。父はドイツ人、母はアメリカ人。両親は仲が悪く、母が家を出て行き、ジョニーは4歳の時に、父親にニューヨークからドイツ行きの船にひとりだけ乗せられて捨てられた。
 船長の姉が、ジョニーのめんどうをみてくれた。
 ジョニーが10歳のときにギムナジウムの寄宿舎(学校、10歳から18歳)に入寮した。ジョニーはたくさん本を読み小説を書いている。

 (チョウチョの名前)ゴッドフリート
 アイゼンマイアー先生
 ツークシュピッツェ山:ドイツで一番高い山。オーストリアとの国境にある。
 オーバーバイエルン行きの列車
 ギムナジウム:中高一貫教育校。ドイツにおいては、6歳から10歳が小学校。4年制。小学校卒業後、いくつかの選択肢がある。ギムナジウムは、9年制で、10歳から18歳。ギムナジウム卒業後は大学進学といういわゆるエリートコースのルートをたどる。

 ケストナーが、小説家をめざしていたこどものころのお話だろうか。
 「クリスマス物語」を書くらしい。あるいは、書きたいらしい。だけど、今は真夏だから雪が降るクリスマスシーズンのイメージをつくるにはむずかしいけれど、なんとか書けるだろうとのこと。

 クリスマス物語を書くときの鉛筆は緑色の鉛筆

 さあ、クリスマス物語が始まります。
 登場人物がいっぱいです。

 小説の中の劇の脚本「飛ぶ教室」は、クリスマス劇だそうです。五幕もの。予言的な作品
 第一幕:ゼバスティーアン・フランク(14歳5年生)が演じる先生が、クラス全員を連れて、空の旅に出発する。
 第二幕:飛行機は、イタリアヴェスヴィオ火山の火口に着陸する。(火山は、西暦79年に大噴火をして都市ポンペイが火砕流に埋もれた)
 第三幕:みんなは、エジプトピラミッドのそばに降り立つ。
 第四幕:飛ぶ教室は、北極に降り立つ。
 第五幕:みんなは、天国にやってくる。
 
 「空飛ぶ教室」の作者:ジョニー・トロッツ(ヨーナタン・トロッツ(愛称が、ジョニー)) ラムセス二世のミイラを演じる。
 舞台美術:マルティン・ターラー 学年で(14歳5年生)成績が一番いい。首席。親が貧乏。授業料半額免除の生徒
 マティアス・ゼルプマン 愛称はマッツ。いつもおなかをすかせている。5年生。14歳。劇では、シロクマとか、ペテロを演じる。将来はボクサーになりたい。
 ペテロ:新約聖書に登場する人物。イエス・キリストの使徒(宗教を広める人)のひとり。
 ティーアバッハ:のっぽの学生
 床屋のクリューガー親方
 クロイツカム:父はドイツ語の先生
 ウーリ・フォン・ジンメルン 小柄な金髪の男の子 生徒の妹役を演じる。(いとこのウルゼルが送ってくれた女性用の民族衣装を着る)
 テーオ・ドール 9年生18歳 かっこつけ。5年生から見た敵の立場
 パン屋 シェルフ親方の店(劇で使用する長いお下げ髪のかつらを貸してくれた)
 ゲープラ 7年生。16歳
 校長:グリューンケルン博士
 禁煙さん:列車の禁煙車を買って改造して、禁煙車両列車に住んでいる男性。夜の酒場でピアノを弾いてお金をもらって暮らしている。生徒にとっての良き相談相手。
 正義さん:寄宿舎に住みこんでみんなを監督する舎監(しゃかん):ヨーハン・ベク先生

 キルヒベルク(ドイツにある市)の寄宿舎

 男ばかりの寄宿舎ですから男同士のけんかもあります。場所取りがけんかの原因です。
 そうかと思えば、男同士の社交ダンスもあります。曲はタンゴです。男性版タカラヅカのようです。
 
 もう90年近く前のことなので、読んでいて、理解できないこともあります。

 ギムナジウムと実業高校との間で対立があるようです。夏目漱石作品「坊ちゃん」でもそんなシーンがありました。同じ年齢で、異なる将来のための学校へ行くとなると対立が起こります。ギムナジウムは卒業後大学につながりますが、ほかの学校は就職へとつながります。
 夏目漱石作「坊ちゃん」も同様でした。記録を調べてみました。坊ちゃんが勤める旧制中学校と師範学校との対立がありました。
 『旧制中学校と師範学校の違い:旧制中学校(12歳から16歳までの5年間通う)。師範学校は教員を養成する学校で、教職に就くことが前提条件で、授業料がかからず生活保障もされていた。14歳から16歳が対象』
 夏目漱石作品「坊ちゃん」ができたのは明治39年で西暦1906年ですから、飛ぶ教室の作者は、「坊ちゃん」を読んで、1933年(昭和8年)この作品をつくったのかもしれないと勝手な想像をしました。

 物語の内容は、ギムナジウムと実業高校の生徒とのけんかの話ばかりです。先生もからみます。暴力も出てきます。代表者を出して、決闘のような殴り合いです。『飛ぶ教室』というタイトルに内容が合っておらず、読み手の自分はとまどいました。空想冒険小説だと予想と期待をしていました。

 9月29日の聖ミヒャエル祭:キリスト教の偉大な天使を讃える。

 この本を読んでいたときに、卒業した高校の同窓会名簿が送られて来ました。もう卒業してから四十年以上が経過しています。
 いちばん驚いたのは、創立後二万人ぐらいいる大部分の卒業生は地元で暮らしていることでした。卒業時には、進学するにしても就職するにしてもいったんは実家を離れなければならないような田舎暮らしでした。地元に残る人間は少なかった。それが、半世紀近くたってみると、ほとんどの卒業生が地元で暮らしています。意外でした。
 地縁・血縁がある自分が育った土地で過ごすのが安心なのでしょう。親の世代から引き継ぐべき家屋敷があるということも理由のひとつでしょう。現役職業人をリタイア後、帰郷された同窓生もいるのでしょう。
 もうすでに何人か亡くなっている同級生もいます。病気とか事故とか災害とか、いろいろあるのでしょう。今読んでいるこの本「飛ぶ教室」の内容のように、やんちゃに遊んで、学んで活動している数年間の学生生活のときには、自分やそのときまわりにいる同級生たちの未来の「死」を考えることはありませんでした。同窓会名簿を見ながらしみじみしました。

 お金がないこどもに対する教師の資金援助に関する人情話が出てきます。
 優しい気持ちのクリスマスプレゼントです。
 昔はそういうことがままありました。弁当を持参できないこどももいました。
 学力があってもお金がなければ進学をあきらめて就職しました。会社の理解があれば、夜間の学校へ通いながら卒業証書を手に入れました。働きながら学んで実家へ仕送りまでしました。そういう時代がありました。そういう人たちが過去の日本経済社会を支えてきました。ドイツも同様でしょう。

 変化に富む思い出多い思春期のこどもたちです。
 教える教師にも同様の青春時代が過去にありました。
 この物語では、キリスト教が生活に深く関わっています。クリスマスへのこだわりがあります。

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