2021年08月17日

ネブラスカ DVD

ネブラスカふたつの心をつなぐ旅 DVD 2013年日本公開アメリカ映画

 アメリカ合衆国ネブラスカ州:合衆国中西部にある州。州都は、リンカーン
 アメリカ合衆国モンタナ州:映画の主人公家族が住むところ。老いた認知症ぽい父親と次男が、ネブラスカ州の州都であるリンカーンを目指します。リンカーンにある会社の事務所で、一億円ぐらいがもらえる抽選くじの当選金を受け取るためですが、それは詐欺的行為であり、当選はしていません。でも、ぼけた父親は宝くじが当たっていると言い張るのです。

 人間の嫌な面が出てくる映画です。
 されど、最後はさわやかな気持ちで観終えることができました。
 今年観て良かった一本です。

 認知症のような高齢者男性が高速道路を歩いていて、パトカーの保安官に止められるところから始まります。
 オール白黒映像です。
 高齢者男性がウディで、80代の年齢に見えます。妻も同じぐらいです。デヴィッドが次男で、長男がロスです。タイトルにあるふたつの心というのは、父親のウディと次男のデヴィッドだと思います。

 老害とも思える言動がある高齢者男性のウディですが、それでも、自分の実父だからめんどうをみないわけにはいかない次男のデヴィッドがいます。高齢者介護の苦悩があります。
 長男ロイはニュースキャスターをしていて、少々別世界の人となっています。対して、次男のデヴィッドは、同棲をしていたらしいのですが、相手の女性がデヴィッドに愛想をつかして家を出て行ったというさえない境遇です。
 
 老父のウディは入れ歯をはずしてどこかへやってしまいます。入れ歯は、線路のそばで発見されます。そこでひともんちゃく。自分の入れ歯じゃない。いややっぱり父さんのだ。とりとめもないやりとりです。(会話や議論がまとまらない)

 息子と父親のふたり旅です。映画を観ている自分は、もっと年をとれば、父親の立場になります。

 もらえもしない一億円ぐらいの宝くじ当選金です。息子は、ネブラスカ州にある都市リンカーンの今回の件を企画した雑誌会社事務所まで父親と行って、くじははずれだと言われて、父親にあきらめてもらうつもりで付き添います。でも、老父のウディは大金をもらえると信じ切っていて、旅の途中で出会うなつかしい親族や過去の仕事仲間だった人たちに一億円を受け取りに行くとしゃべってしまいます。次男が必死に否定しますが、それを聞いたみんなは信じてくれません。トラブルが起こり続けます。暴力がからんだケンカにもなります。あの時貸した金を「当選金で返せ」です。

 父親の過去をたどる旅でもあります。
 こどもをつくることはできても、こどもをちゃんと育てられるかは別の話です。
 父親はアルコール依存症だった。アルコールで脳みそをやられたんじゃないか。
 三十年間ぐらい交流が乏しかった人たちとの再会があります。
 父親も息子も、親戚一族も昔の仕事仲間も生活は豊かではありません。アメリカ合衆国の一面があります。人々がありもしない当選金一億円目当てにたかりにきます。息子は困ります。
 
 妻(次男にとっては母)による今はもう死んだ人たちの話が延々と続きます。お墓を見ながら話が続きます。
 それを聴きながら、自分は、人間が今も生きているという「奇跡」を感じました。
 長い人生を生きていると、たぶんだれしも複数回、死にそうになったり、場合によっては、殺されそうになったりしていると思います。
 歳をとると、たまに、今、ここで、自分が生きているということは「奇跡」ではないだろうかと思うことがあります。病気や事故、事件や自然災害で、命を失うことはけして珍しくはありません。この世は危険だらけです。

 映像に出てくる人たちの話で、日本車メーカーの話がたまに出ます。あとは、おおぜいで、ソファーセットやテーブルに座って、一台のテレビ映像をみんなで観ています。スポーツ番組観戦ですが、だれしも黙って観ています。やることがないから、お金がないから、ただ、みんなでテレビ映像をぼーっとながめている。むなしい。せつない。なにもない。これもアメリカ合衆国の現実です。経済が低い位置で横ばいだったのでしょう。いまもなおトランプ氏に寄せる期待が大きいことも理解できます。

 ほかにすることがなかったから酒を飲んだ。
 朝鮮戦争に派遣された話(1950年から1953年。昭和25年から同28年)。戦争で人生の流れがおかしくなった。
 ふと考えたのですが、第二次世界大戦が一方的な敗戦というあのような終わり方をしなければ、日本も若者に対する徴兵制度が今も残されていたのではないか。
 
 おばあさんがひんぱんに下ネタ話をたくさんするので笑えました。
 ウソ話もありますが、深刻にならずに楽しいほら話です。

 老いた父親は、友人・知人からお金を借りたり、資金を援助してもらったりしたのに、返済をしていません。債権者がいっぱいいます。でも、お金を貸した方は、(老いた父親)相手が貧乏だからとあきらめていた様子です。
 されど、本人が、みんなに大金が当たったと言うのです。だけど、老いた父親は頭がぼけているのです。
 だれかがだれかをねたんでいる。
 だれかがだれかをうらんでいる。
 栄光を手にすると過去に素行が悪かった人間は狙われる。陥れられる(おとしいれられる)
 自分と同じレベル(所得水準)にいるときだけの仲良し関係です。
 人間のもつ厳しさが表現されます。
 次男が、何度も宝くじには当たっていないと父親への金銭貸主たちに説明しても、彼らは次男の言葉を信用してくれません。
 それどころか、認知症らしい父親は、債権者に「都合してやってもいいぞ」と返答してしまいます。
 (昔、四十年ぐらい前ですが、そんなシーンをドラマ「北の国から」で見たことがあります。笠智衆(りゅうちしゅう)さん演じる老人が「山を売ればいい」と言いました。そんな山は老人の借金を返済するために、もうとっくの昔に売り払っていてどこにもないのです。それでも、老人は認知症だから自覚がないのです。「なにを言っているんだ。山はある」彼の頭の中には、いつまでたっても山はあるのです)

 アメリカ合衆国のこのような時代を背景にして、トランプ政権が誕生したのだと理解できます。2017年1月から2021年1月がトランプ大統領の任期でした。映画には他国の資本に侵食されて自分たちの仕事を失ったアメリカ合衆国民の悩める暮らしがあります。(この部分を書いて読み返しているときに、次回の大統領選では、トランプ氏が復活して当選するかもしれないと感じるものがありました。アメリカ経済の景気は良くなるのでしょう。不死身の男という伝説ができあがるかもしれません。対抗馬がいるとは思えない現在の状況ですので、再びトランプ大統領が誕生する可能性はあると今は素直に感じます)
 映画のシーンでは、広大な土地にぽつんぽつんと家が建っています。
 金(カネ)、金、金の話が続きます。

 世の中には、いじわるな人がいっぱいいます。
 これまで、友だちだと思っていた人が、いじわるな人だったりもします。(それでも、次男は、みんなは老父にお金を貸してくれた。人情に厚かった彼らを責めることもできませんといいます)複雑な気持ちがあります。
 金の貸し借りをすると友情は壊れます。

 運転免許がないのに老父は新車のトラックがほしいと言います。若い時からの夢だったそうです。トラックはドラマの後半に向かって、伏線になっていきます。
 
 高齢者は、行き詰まると眠ります。

 ネブラスカ州都リンカーンの会社事務所で、女性事務員が「この抽選番号ははずれです」「せっかくここまできてくれたので、帽子かクッションをプレゼントします」
 老父は、帽子をもらいました。

 それでも、最後は、さわやかな終わり方をしました。
 今年観て良かった一本です。

この記事へのトラックバックURL

http://kumataro.mediacat-blog.jp/t144674
※このエントリーではブログ管理者の設定により、ブログ管理者に承認されるまでコメントは反映されません
上の画像に書かれている文字を入力して下さい