2021年08月11日

アンデルセンのメルヘン文庫

アンデルセンのメルヘン文庫 ㈱アンデルセン

 いくつかの作品をピックアップして感想を記します。

『第31集』 2014年
「紅しょうがのてんぷら」
 昭和30年代から40年代の郷愁の風景です。
 年配の方がこどもの頃を思い出している内容です。
 絵が温かい。
 幸せな夫婦と娘の三人家族です。
 そうであったのか、そうであったらよかったのにと思うのかは、読み手しだいです。

「きらきらした午後に」
 ゆったりと時が流れていく昔の思い出です。幼稚園生の綾ちゃんがいて、綾ちゃんのもつ着せ替え人形のルミちゃんがいます。
 現実と空想の融合するこどもの脳内世界が表現されています。
 生き生きとした文章でした。

「魔法のコーヒー いかが?」
 年配の方の作文のようでした。ハクビシンとか、タヌキの親子とかが出てきます。
 派手さはありませんが、こどもたちは、静かにお話を聴くと思います。
 体験がベース(基礎、基盤)にあるのでしょう。

「こちら、お化けはけん会社」
 おとなの方の創作という印象です。理屈っぽい面があるからでしょう。
 お化けは、俳優なのか、本物のお化けなのか。
 よかった表現として、『こちらには、人間にいじわるされたり、おどされたり、ごまかされたりして人間をうらんでいるお化けしかいません。(あなたがお探しのネコの)ミケは人をうらんでいましたか(うらんでいなければミケはまだ死んではいない可能性がありますという意味)』

「夜空のダイヤモンド」
 9歳のこどもさん少女が書いたにしては、秀逸です。(優れていて他に類がない。抜きんでて優れている)
 発想がおもしろい。ダイナミックです。力強く生き生きと躍動しています。
 見開きに広がるブルーを下地とした女性と幼児と白い鳥二羽の絵だけが、シャガールの絵の雰囲気に似ていました。
 ダイヤがダイヤモンドらしく輝く作品でした。

『第33集』 2016年
「電車になったあおむし」
 6歳幼稚園年長のけんちゃんとあおむしのお話です。
 自分が小学校低学年だった頃の下校風景を思い出しました。
 畑にはキャベツがたくさんならんでおり、あおむしもよく見かけました。
 あおむしは、やがてさなぎになって、蝶々(ちょうちょ)になるのですが、この物語では、あおむしは蝶々にはならずに電車になります。
 けんちゃんの夢なのでしょうけれど、壮大なほら話です。こういうパターンの表現手法もあるのか。
 最後の絵が、大迫力でした。良かった。

「雪の日の約束」
 奈良飛鳥時代の人物のような姿をした絵です。
 リサという名の少女がいます。彼女のてのひらの上に、ひとひらの雪が舞い落ちます。
 リサが家にたどり着くと、同い年ぐらいの少年がいます。
 リサが彼に名前をたずねますが、いろんな名前があるという返事です。以前読んだ児童文学作品に登場してくる野良猫のことを思い出しました。猫の名前は自称で(自分で自分に付けた名前が)「イッパイアッテナ」でした。野良猫は行く先々で、適当な名前を付けられるのです。だから、自称、名前が「イッパイアッテナ」なのです。
 文章を読みながら、自分が小学校高学年の頃に住んでいた山奥の雪国の風景を思い出しました。雪がたくさん積もるとどそり遊びをしました。木材とゴムでこしらえたお手製の木製そりで斜面を勢いよく下って遊ぶのです。痛快でした。リサと少年も物語のなかで、同じ遊びをします。
 少年は、雪の妖精だったのでしょう。

「運動ぐつのため息」
 9歳の小学生作品です。
 3年3組のげた箱に入っている運動靴たちがしゃべるのです。おもしろい。
 「まぁ! 砂をかけないでくださる!」「ホンマそれ~」関西弁です。楽しい。愉快です。
 文章にリズム感があります。
 「序破急(じょはきゅう)」の流れがしっかりしています。
 感心しました。

『第35集』 2018年
「クリスマスのすきやき」
 リアルで写実的な絵です。
 「クリスマス」という言葉と、雪深い田舎の情景が心の中で一致せず、仏壇も出てくるので、仏教とキリスト教の違いがあり、なにかしら消化不良で、自分には合わない作品だと最初は感じました。メリークリスマスという気分にはなれないのです。でも、読み終えてみると、なかなかいい作品でした。力み(りきみ)がなかったところが良かった。
 絵は本当に写実的で、風景とも合わせて、まるで人間が生きているかのような絵でした。
 文章は、おじいさんの一人称ひとり語りが続きます。おじいさんがまだ小学校低学年ぐらいだったころのお話です。第二次世界大戦がからんでいます。
 「先生」というのは、名字で、「せんじょう」と読むそうです。NHKのお名前を扱ったテレビ番組のようです。
 いい話でした。
 生きていてこその幸せです。戦争には反対です。笑いは命を救います。おじいさんは小さいころ、はらぺこ天使でした。
 
「不思議な布屋」
 ブラックユーモアでした。強欲な人を責める内容でした。
 布を売る布屋がいて、美しい布を「写す」という手法で製作するのです。白い布に、現実にあるものが反映されます。その発想に新しさを感じました。
 ただ、やっつけられるほうに同情してしまう不完全な気持ちをもつ自分がいました。自分の心も白い布に写されているのでしょう。

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