2021年06月16日
兄の名はジェシカ ジョン・ボイン
兄の名はジェシカ ジョン・ボイン 原田勝・訳 あすなろ書房
LGBTのお話だろうか。
本の帯に「身体不一致。カミングアウトの、その先に……?」と書いてあります。
LGBT:性的なもの。レズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(心と身体の性が不一致の人)
カミングアウト:表明すること。人に知られたくない自分の秘密を公表すること。
そんな前知識を得て、本のカバーをはずして、カバーを見て、本の本体の表紙を見ました。
ひとりの人物が鏡を見ています。自分の想像として、観ている人は男性で、鏡のなかに映っている人は女性に思えました。
ぼく(主人公)サム・ウェイヴァー。イギリスのラザフォード通りに住んでいる。13歳。この子の一人称ひとり語りで物語は進行していきます。自分は生まれた時心臓に穴が開いていたので治療をした。そのときに兄ジェイソンがころんでジェイソンの左の眉(まゆ)の上に傷ができた。(この傷の部分の記述がとても気に入りました。『これまでずっと、ぼくを愛してくれてきた証拠だ』)主人公には、難読症(なんどくしょう。ディスレクシア)という障害があるそうです。イギリス人ですから文字は全部アルファベットなので、ひらがな・カタカナ・漢字がある日本とは感覚が異なります。
ディスレクシア:トム・クルーズ、スティーブン・スピルバーグ、トーマス・エジソン、レオナルド・ダ・ヴィンチ、アインシュタインなど。
ジェイソン・ウェイヴァー:サム・ウェイヴァーの兄。兄だけれど、自分は姉だとカミングアウト(公表)します。17歳。カミングアウト後は、スカーフ、ポニーテール、いわゆる女装傾向に向かいます。
デボラ・ウェイヴァー:サムとジェイソンの母親。国会議員で内閣の一員。閣僚。
アラン・ウェイヴァー:サムとジェイソンの父親。国会議員である妻の私設秘書
ディヴィッド・フューグ:サムの同級生。政治的対立あり。(サムの母親の所属する政党を嫌っている)サムから言わせると「宿敵(サムが7歳のときから対立している)」
ヘンダーソンおばあさん:すでに亡くなっている。優しかった。ヘンダーソンおばあさんが亡くなって売りに出た家をサムの宿敵ディヴィッド・フューグの親が手に入れて住んでいる。
ペニー・ウィルソン:小学校一の美人
ブルータス:近所の犬
ジェイク・トムリン:自称ゲイ。サムの同級生
ラウリー先生:歴史を教えている。
ホワイトサイド先生:数学の女教師
運転手ブラッドリー
保健相ヘクター・ダナウェイ
学校秘書フリン:学校秘書というのがどういう職業なのかわからないのですが、教員よりは権限が小さいように書いてあります。
ピーター・ホプキンス:サッカー部のリザーブの選手(補欠ということか)
ワトソン先生:性別のことに関してカウンセリングをする先生。35歳ぐらい。
サッカーチームのオブライエン監督
ジェームズ・バーク:サム・ウェイヴァーと同じクラス。性が不一致の兄のことでサム・ウェイヴァーをばかにする。
リーアム:ジェームズ・バークと同じくサム・ウェイヴァーをばかにする。
事務員のブラウンさん
ローズおばさん:母親の二歳年下の妹。独特な考え方と暮らし方をしていて、母とは対立している。なんども結婚・離婚をくりかえしているようです。
ボビー・ブルースター議員:国会議員である母親の同僚議員。奥さんがステファニー、娘さんが十四歳のローラ
リーサ・タンブール:サム・ウェイヴァーと同じクラス。いじわるな女子
アブド:シリア難民。ローズおばさんがめんどうをみていた。
デンゼルおじさん:ローズおばさんの三人目の夫
あまりおもしろくない出だしです。日本人の自分が読むイギリス文学です。
オペア(家事や子守りを手伝う住み込みの留学生。ホームスティしている留学生が報酬をもらう制度):家政婦のような感じに受け取りましたが、実態は異なるようです。資産家の家では、こどもの身の回りの世話は、雇われ人が手助けします。記述内容を見ると、労働条件や報酬でけっこう対立があります。選挙運動の手伝いまでは契約にないとオペア(留学生)が抗議します。日本の政治家でもそういうことがあるのだろうか。
アーセナルのアカデミー:イングランド・プロサッカーリーグに属するチーム。アカデミーは中学生、高校生チーム。この小説のなかでは、ジェイソンが9歳でトライアルを受験しています。(まだ早いと言われています)
チャールズ皇太子+ダイアナ元妃
長男ウィリアム王子+キャサリン妃
次男ハリー王子+メーガン妃
政治的な話、親子関係、自由と平等、ディスカッション(討論)、兄弟愛、18ページ付近まで読んでの出てきた事柄です。
袖の下(そでのした):内緒で送るお金や物。見返りを期待する。融通をきかせてもらったお礼。わいろ。不正な報酬
多国籍企業:複数の国に生産拠点をもつ企業
イギリスの二大政党:保守党(現在ジョンソン内閣)、労働党(労働組合が支持層)
どうして知ったのかわからないのですが、サム・ウェイヴァーの宿敵ディヴィッド・フューグが、サムの兄ジェイソン・ウェイヴァーのトランスジェンダー(心と身体の性が不一致の人)を教室で教師や生徒にばらしてばかにします。
ジェイソン・ウェイヴァーのトランスジェンダーもややこしい。ゲイではないのです。彼は(本当は彼女は)サッカーがうまい人気者のサッカー選手でもあります。美人の恋人もいます。でも、自分では、自分の性が「女性」だと感じている。だけど体は男の体をしている。かなり苦しい。
ジェイソン・ウェイヴァーのトランスジェンダーを両親は受け入れることができません。とくに母親は「(本人からの告白)話はなかったことにする」と切り捨てます。
母親に国会議員をつとめる資格はありません。政治家のメッセージは、「自由」と「平等」が基本です。母親は夫に「(長男のトランスジェンダーが)けがらわしい」と吐き捨てるように言います。男尊女卑の観点からいうと、夫が私設秘書という立場にいることもややこしい。いろいろと無理解な母親です。母親息子に対して、二度とこの話はするなと突き放します。
ヴォーグ:ファッション誌
『(女王)エリザベス一世は、女性に対する世間の評価を変えたからだ』(女性でも国を治めることができることを示した)
差別する人と、差別される人と、両者の関係者がいます。
トラニー:トラニーチェイサー。異性装者
どうして人間は差別したがるのか。
数年前に思ったことですが、差別ではありませんが、四十年前ぐらい前にいじわるな人がいて、四十年ぶりぐらいにその人のことを聞いたのですが、やっぱり四十年後もその人はいじわるな人で、人って、何十年たっても変われないんだと悟ったことを思い出しました。
生まれもった人間の性質は変わらないのです。だから人は、すべての人とは、仲良くはなれないのです。
カフカ:チェコ出身ドイツ語作家ユダヤ人。「変身」「城」を読んだことがあります。
フェタチーズ:ギリシャの代表的なチーズ。羊、ヤギの乳からつくる。
旅先として日本を紹介されるとイギリス国会議員の母親から「中華料理は苦手だ(にがてだ)」という返事が返ってきます。世の中は誤解だらけです。ジェイソン・ウェイヴァーが言うとおり、中国と日本は全然別の国です。誤った知識で物事を判断するポストについて権力を行使されるのは怖いです。
湖水地方:イングランド北西部
EU離脱:2020年にイギリスが脱退した。(欧州連合)EU構成国として、ヨーロッパを中心にして27か国が加入している。
ホモを嫌う話が出た時に、アメリカ映画「イージーライダー」が頭に浮かびました。男同士でバイク旅をするのですが、昔はそういうことはホモの人がすることだったようで、そこには誤解があって、そんなことはないのですが、アメリカは銃社会だからそうなるのか、最後はふたりとも撃ち殺されてしまい映画は終わります。アメリカ社会の問題点を浮き彫りにしたのでしょう。こちらの本はイギリスです。どこでも起こる差別です。
兄の女装傾向は、学校では浮きますが、卒業したら自由です。法令に違反しているわけでもありません。
兄は将来、作家になりたい。
なれるんじゃないだろうか。
兄は、三歳のころから女子トイレに行きたかったそうです。
読みながら思ったことです。
歳をとってくると、性別がなくなってくる感覚があります。
だれもが、おじいさんに思えたり、だれもが、おばあさんに思えたりするのです。
あるいは、中性になるのです。
男だ女だ、恋愛だといっていられるのは、体に水気(みずけ)があって、ぴちぴちしているときだけのような気がするのです。歳をとると体がかさかさになってくるのです。骨川筋衛門(ほねかわすじえもん)という干物(ひもの)になっていく感覚があります。たぶんだれでもいっしょです。
母親は、長男のジェイソン・ウェイヴァーを男にしようとします。カウンセリングの受診です(ムダだと思います)
たまたま新聞にジェンダー(性による差)のことが特集されていました。日本は、管理職とか、議員とか、役員とか責任者の男女比が平等ではなく、ほとんど男性が責任者を務めていてアンバランスであるとありました。
男女平等のことから考えると確かにそうなのですが、じっくり考えると、すべてその責任が男性にあるとも思えないのです。
実態を見れば、家庭では、かかあ天下(かかあでんか。夫を尻にしく強い妻)ですし、職場では、女性を敵に回したら仕事は前に進んでいきません。
また、重い責任をともなうことは男性に背負わせて、負担の軽い位置に自分の身を置いて、自分を守っているようにも見えるのです。
ただ、これからは、役割分担にこだわらず、女性が仕事に出て、男性が家で主夫をするということもお互いの話し合いでやっていければいいと思います。
ペースは遅いですが、徐々に男女平等の世の中に向かっているという実感はあります。
ツイード:毛織物。上着。荒く厚い織物
マスカラ:まつ毛を強調する化粧品
サム・ウェイヴァーのセリフがおもしろい。『(兄が)ぼくのお姉さんになりたいって言ってる。お姉さんはいりません』
こういった場合、どうしたらいいのだろう。性の割り当て間違いがあるとされる長男のジェイソン・ウェイヴァーを両親が受け入れてくれないのなら、ジェイソン・ウェイヴァーは、高校卒業後家を出て、仲間を探して、仲間といっしょに支え合って生活していくぐらいしか思いつきません。
以前テレビで、東京に住む若い男性が帰省時に女装して、東北地方にある実家に帰る番組を観たことがあります。お父さんはたいへん驚いておられましたが、ありのままの自分の息子を「そうか」と受け入れました。それが答えです。親にとっての自分の子どもというのは、とりあえず、生きていてくれればいいのです。
家の中に閉じ込めて外に出さないのは最悪の対応です。
けっこうハード(重荷)なテーマです。
女性の側からの男女差別撤廃アピールはよく聞きますが、男性の側からの自分は女性ですという声は少ない。
ジェンダー問題に関して、イギリスは進んだ国だと思うのですが、この小説では、国会議員の女性が、自分の息子のことで、息子を「異端者。異常者」扱いをして、これだけ男とか女にこだわるのは不可解ですが、この小説の中だけのことだと思いたい。
ジェイソン・ウェイヴァーはひきこもりに近い状態となります。髪型のポニーテールに強いこだわりをもっていますが、彼が寝ているすきにちょん切られてしまったことが引きこもりになった理由です。武士にとってのまげをちょん切られたようなものです。ポニーテールの髪型は彼にとって心の支えだったのでしょう。たしかに彼はうつ状態ですが、まだ完全に病気が完成したわけではありません。やはり家を出る決心をしました。
中学校で、ジェイソン・ウェイヴァーの弟のサム・ウェイヴァーに対して、性が不一致の兄に関していじめとかばかにするとか、挑発する行為があることが不可解です。当事者は兄です。弟は関係ありません。
そのことに関して、暴力事件まで起こります。教室内での中学生同士のけんかとはいえ、ただではすみません。小説ではうやむやにされていますが、現実社会で起きれば、学校や親も巻き込んで大騒動になります。
話の構図がばらばらと崩れていく印象があります。周囲から攻撃されるべきなのは兄であって弟ではありません。兄と弟の個性が一体化しています。
やがて、親子間の信頼関係もなくなってしまいました。うわべだけをとりつくろうとする両親に対する兄の不信感は強い。『幸せ家族のまねごとなんかできない』
潜在意識:自覚されていない意識
言葉のあや:間接的な言い回しで、複数のとらえかたができる表現をする。
156ページ「シドニーのハーバーブリッジに登ったことがある」:以前、現地で旅行ガイドさんの説明を聞いたことがあるのですが、そのときのメモ記録が残っていました。『橋のアーチ部分をよく見ると階段になっているのがわかります。シドニーの高校生は3年生になると、胆だめしで深夜この階段を使って、橋を渡ると聞きました。本当は歩いちゃいけない場所なのでしょう。 (その後新聞で、この階段を歩くツアーができたことを知りました。命綱や安全ベルトをつけて歩くそうです。スリルと絶景を味わうことができるでしょう)』
265ページあるうちの212ページまで読みました。
すがすがしい展開になってきました。
ジェイソン・ウェイヴァーはロンドンの自宅を出て変わり者の叔母の家へ行きます。
ロンドンの家の人間は、ジェイソン・ウェイヴァーをまるで、最初からこの世にいなかったもののように扱い、自分が女性だという兄は、忘れ去られた存在のようになります。母親が息子を心配する声が少し出ますが、100パーセントそう思っているのかは疑わしい。母親は長男のジェイソン・ウェイヴァーに「男性」として帰って来てほしいのです。そこを読んでいて思ったことです。日本でも昔の大家族で兄弟姉妹が多いと、本人自活後、親と疎遠な関係になる人もいました。冠婚葬祭で顔を合わせなくなると親族でも何十年間も会うことがなくなります。
ジェイソン・ウェイヴァーは変わります。でも、幸せそうです。
セーシェル諸島:インド洋に浮かぶ島々。アフリカ大陸の東、マダガスカル島の北
オートクチュール:オーダーメイドの服飾。注文でつくる一点もの。高級仕立服。
ガーデナー:庭師
クレアラシル:ニキビ治療薬
モノポリー:ボードゲームのひとつ。不動産取引。相手を破産させることが目的
バジル:メボウキという草。甘くフレッシュな芳香
黄金の羅針盤(おうごんのらしんばん):イギリスのファンタジー小説
ペアレンタル・コントロール:SNS機器の使用を親が監視して制限する。
武士の魂である「ちょんまげ」をちょん切られるような屈辱をポニーテールのしっぽ部分をちょん切られると表現してあるとうけとめました。見た目は男ですが、ジェイソン・ウェイヴァーにとって、ポニーテールは、女子としての「誇り」なのです。ローズおばさんは、サム・ウェイヴァーにお説教をします。兄のポニーテールをちょん切ったのは弟のサム・ウェイヴァーだからです。
ローズおばさんは寛容な人です。ジェイソン・ウェイヴァーは、女性になって、再び姿を現しました。ジェイソン・ウェイヴァーは、ホルモン治療もして、完ぺきに女性になる決心をしました。
良かったセリフとして、『……今はしっくりきてる』『……パンツの中がどうなってるかは、なんの関係もないってことがわからないのか?……』『……まわりが変わるのを願うしかないのかもな。世間の人たちはそんなに残酷じゃない、もっと親切なはずだ、ってね。……』
そして、ジェイソン・ウェイヴァーは、もう男に戻るつもりはありません。
読んでいて、しみじみとして、胸にじーわーとくるものがあります。
イギリスロンドンダウニング街十番地:イギリス首相が居住する首相官邸の所在地
224ページ付近を読んでいて思ったことです。
先日とある日本映画を観ていて悟ったことです。同様の趣旨である記述内容がこの本にあります。
不条理なこと(あるべき姿に反していること)、理不尽なこと(避けることが無理な圧力に屈すること)、不合理なこと(理屈にあわないこと)に折り合いをつけて生きていくのがおとなの世界です。
ただ、この本は小説ですから理想とする結論へと話は進んで行きます。
男が男であること。女が女であること。それが「普通の家族」という意見が出ます。
すさまじい差別があります。
信頼している人からの裏切りもあります。
スキャンダル(名誉と立ち位置がくずれていくような出来事。世間体を損なう。恥さらし)で失脚、失速していきそうな政治家の姿があります。
人間をいたぶる(痛めつける)ことに快感をもつ人間がいます。
トランス(ジェンダー):生まれつきの性の不一致
兄を家から追い出したという話が出ます。母親が言います。『追い出したとは言えないが、ここにいられないようにしてしまった。』『わかってあげようと努力すべきだった。』
イギリスの人口:約6560万人(本書では6000万人)
ロミオとジュリエット状態が発生します。
されどサム・ウェイヴァーは、まだ中学生です。
ラスト付近は、感動的なシーンです。
『ジェイソンなんていない』『兄さんの名はジェシカだ』
LGBTのお話だろうか。
本の帯に「身体不一致。カミングアウトの、その先に……?」と書いてあります。
LGBT:性的なもの。レズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(心と身体の性が不一致の人)
カミングアウト:表明すること。人に知られたくない自分の秘密を公表すること。
そんな前知識を得て、本のカバーをはずして、カバーを見て、本の本体の表紙を見ました。
ひとりの人物が鏡を見ています。自分の想像として、観ている人は男性で、鏡のなかに映っている人は女性に思えました。
ぼく(主人公)サム・ウェイヴァー。イギリスのラザフォード通りに住んでいる。13歳。この子の一人称ひとり語りで物語は進行していきます。自分は生まれた時心臓に穴が開いていたので治療をした。そのときに兄ジェイソンがころんでジェイソンの左の眉(まゆ)の上に傷ができた。(この傷の部分の記述がとても気に入りました。『これまでずっと、ぼくを愛してくれてきた証拠だ』)主人公には、難読症(なんどくしょう。ディスレクシア)という障害があるそうです。イギリス人ですから文字は全部アルファベットなので、ひらがな・カタカナ・漢字がある日本とは感覚が異なります。
ディスレクシア:トム・クルーズ、スティーブン・スピルバーグ、トーマス・エジソン、レオナルド・ダ・ヴィンチ、アインシュタインなど。
ジェイソン・ウェイヴァー:サム・ウェイヴァーの兄。兄だけれど、自分は姉だとカミングアウト(公表)します。17歳。カミングアウト後は、スカーフ、ポニーテール、いわゆる女装傾向に向かいます。
デボラ・ウェイヴァー:サムとジェイソンの母親。国会議員で内閣の一員。閣僚。
アラン・ウェイヴァー:サムとジェイソンの父親。国会議員である妻の私設秘書
ディヴィッド・フューグ:サムの同級生。政治的対立あり。(サムの母親の所属する政党を嫌っている)サムから言わせると「宿敵(サムが7歳のときから対立している)」
ヘンダーソンおばあさん:すでに亡くなっている。優しかった。ヘンダーソンおばあさんが亡くなって売りに出た家をサムの宿敵ディヴィッド・フューグの親が手に入れて住んでいる。
ペニー・ウィルソン:小学校一の美人
ブルータス:近所の犬
ジェイク・トムリン:自称ゲイ。サムの同級生
ラウリー先生:歴史を教えている。
ホワイトサイド先生:数学の女教師
運転手ブラッドリー
保健相ヘクター・ダナウェイ
学校秘書フリン:学校秘書というのがどういう職業なのかわからないのですが、教員よりは権限が小さいように書いてあります。
ピーター・ホプキンス:サッカー部のリザーブの選手(補欠ということか)
ワトソン先生:性別のことに関してカウンセリングをする先生。35歳ぐらい。
サッカーチームのオブライエン監督
ジェームズ・バーク:サム・ウェイヴァーと同じクラス。性が不一致の兄のことでサム・ウェイヴァーをばかにする。
リーアム:ジェームズ・バークと同じくサム・ウェイヴァーをばかにする。
事務員のブラウンさん
ローズおばさん:母親の二歳年下の妹。独特な考え方と暮らし方をしていて、母とは対立している。なんども結婚・離婚をくりかえしているようです。
ボビー・ブルースター議員:国会議員である母親の同僚議員。奥さんがステファニー、娘さんが十四歳のローラ
リーサ・タンブール:サム・ウェイヴァーと同じクラス。いじわるな女子
アブド:シリア難民。ローズおばさんがめんどうをみていた。
デンゼルおじさん:ローズおばさんの三人目の夫
あまりおもしろくない出だしです。日本人の自分が読むイギリス文学です。
オペア(家事や子守りを手伝う住み込みの留学生。ホームスティしている留学生が報酬をもらう制度):家政婦のような感じに受け取りましたが、実態は異なるようです。資産家の家では、こどもの身の回りの世話は、雇われ人が手助けします。記述内容を見ると、労働条件や報酬でけっこう対立があります。選挙運動の手伝いまでは契約にないとオペア(留学生)が抗議します。日本の政治家でもそういうことがあるのだろうか。
アーセナルのアカデミー:イングランド・プロサッカーリーグに属するチーム。アカデミーは中学生、高校生チーム。この小説のなかでは、ジェイソンが9歳でトライアルを受験しています。(まだ早いと言われています)
チャールズ皇太子+ダイアナ元妃
長男ウィリアム王子+キャサリン妃
次男ハリー王子+メーガン妃
政治的な話、親子関係、自由と平等、ディスカッション(討論)、兄弟愛、18ページ付近まで読んでの出てきた事柄です。
袖の下(そでのした):内緒で送るお金や物。見返りを期待する。融通をきかせてもらったお礼。わいろ。不正な報酬
多国籍企業:複数の国に生産拠点をもつ企業
イギリスの二大政党:保守党(現在ジョンソン内閣)、労働党(労働組合が支持層)
どうして知ったのかわからないのですが、サム・ウェイヴァーの宿敵ディヴィッド・フューグが、サムの兄ジェイソン・ウェイヴァーのトランスジェンダー(心と身体の性が不一致の人)を教室で教師や生徒にばらしてばかにします。
ジェイソン・ウェイヴァーのトランスジェンダーもややこしい。ゲイではないのです。彼は(本当は彼女は)サッカーがうまい人気者のサッカー選手でもあります。美人の恋人もいます。でも、自分では、自分の性が「女性」だと感じている。だけど体は男の体をしている。かなり苦しい。
ジェイソン・ウェイヴァーのトランスジェンダーを両親は受け入れることができません。とくに母親は「(本人からの告白)話はなかったことにする」と切り捨てます。
母親に国会議員をつとめる資格はありません。政治家のメッセージは、「自由」と「平等」が基本です。母親は夫に「(長男のトランスジェンダーが)けがらわしい」と吐き捨てるように言います。男尊女卑の観点からいうと、夫が私設秘書という立場にいることもややこしい。いろいろと無理解な母親です。母親息子に対して、二度とこの話はするなと突き放します。
ヴォーグ:ファッション誌
『(女王)エリザベス一世は、女性に対する世間の評価を変えたからだ』(女性でも国を治めることができることを示した)
差別する人と、差別される人と、両者の関係者がいます。
トラニー:トラニーチェイサー。異性装者
どうして人間は差別したがるのか。
数年前に思ったことですが、差別ではありませんが、四十年前ぐらい前にいじわるな人がいて、四十年ぶりぐらいにその人のことを聞いたのですが、やっぱり四十年後もその人はいじわるな人で、人って、何十年たっても変われないんだと悟ったことを思い出しました。
生まれもった人間の性質は変わらないのです。だから人は、すべての人とは、仲良くはなれないのです。
カフカ:チェコ出身ドイツ語作家ユダヤ人。「変身」「城」を読んだことがあります。
フェタチーズ:ギリシャの代表的なチーズ。羊、ヤギの乳からつくる。
旅先として日本を紹介されるとイギリス国会議員の母親から「中華料理は苦手だ(にがてだ)」という返事が返ってきます。世の中は誤解だらけです。ジェイソン・ウェイヴァーが言うとおり、中国と日本は全然別の国です。誤った知識で物事を判断するポストについて権力を行使されるのは怖いです。
湖水地方:イングランド北西部
EU離脱:2020年にイギリスが脱退した。(欧州連合)EU構成国として、ヨーロッパを中心にして27か国が加入している。
ホモを嫌う話が出た時に、アメリカ映画「イージーライダー」が頭に浮かびました。男同士でバイク旅をするのですが、昔はそういうことはホモの人がすることだったようで、そこには誤解があって、そんなことはないのですが、アメリカは銃社会だからそうなるのか、最後はふたりとも撃ち殺されてしまい映画は終わります。アメリカ社会の問題点を浮き彫りにしたのでしょう。こちらの本はイギリスです。どこでも起こる差別です。
兄の女装傾向は、学校では浮きますが、卒業したら自由です。法令に違反しているわけでもありません。
兄は将来、作家になりたい。
なれるんじゃないだろうか。
兄は、三歳のころから女子トイレに行きたかったそうです。
読みながら思ったことです。
歳をとってくると、性別がなくなってくる感覚があります。
だれもが、おじいさんに思えたり、だれもが、おばあさんに思えたりするのです。
あるいは、中性になるのです。
男だ女だ、恋愛だといっていられるのは、体に水気(みずけ)があって、ぴちぴちしているときだけのような気がするのです。歳をとると体がかさかさになってくるのです。骨川筋衛門(ほねかわすじえもん)という干物(ひもの)になっていく感覚があります。たぶんだれでもいっしょです。
母親は、長男のジェイソン・ウェイヴァーを男にしようとします。カウンセリングの受診です(ムダだと思います)
たまたま新聞にジェンダー(性による差)のことが特集されていました。日本は、管理職とか、議員とか、役員とか責任者の男女比が平等ではなく、ほとんど男性が責任者を務めていてアンバランスであるとありました。
男女平等のことから考えると確かにそうなのですが、じっくり考えると、すべてその責任が男性にあるとも思えないのです。
実態を見れば、家庭では、かかあ天下(かかあでんか。夫を尻にしく強い妻)ですし、職場では、女性を敵に回したら仕事は前に進んでいきません。
また、重い責任をともなうことは男性に背負わせて、負担の軽い位置に自分の身を置いて、自分を守っているようにも見えるのです。
ただ、これからは、役割分担にこだわらず、女性が仕事に出て、男性が家で主夫をするということもお互いの話し合いでやっていければいいと思います。
ペースは遅いですが、徐々に男女平等の世の中に向かっているという実感はあります。
ツイード:毛織物。上着。荒く厚い織物
マスカラ:まつ毛を強調する化粧品
サム・ウェイヴァーのセリフがおもしろい。『(兄が)ぼくのお姉さんになりたいって言ってる。お姉さんはいりません』
こういった場合、どうしたらいいのだろう。性の割り当て間違いがあるとされる長男のジェイソン・ウェイヴァーを両親が受け入れてくれないのなら、ジェイソン・ウェイヴァーは、高校卒業後家を出て、仲間を探して、仲間といっしょに支え合って生活していくぐらいしか思いつきません。
以前テレビで、東京に住む若い男性が帰省時に女装して、東北地方にある実家に帰る番組を観たことがあります。お父さんはたいへん驚いておられましたが、ありのままの自分の息子を「そうか」と受け入れました。それが答えです。親にとっての自分の子どもというのは、とりあえず、生きていてくれればいいのです。
家の中に閉じ込めて外に出さないのは最悪の対応です。
けっこうハード(重荷)なテーマです。
女性の側からの男女差別撤廃アピールはよく聞きますが、男性の側からの自分は女性ですという声は少ない。
ジェンダー問題に関して、イギリスは進んだ国だと思うのですが、この小説では、国会議員の女性が、自分の息子のことで、息子を「異端者。異常者」扱いをして、これだけ男とか女にこだわるのは不可解ですが、この小説の中だけのことだと思いたい。
ジェイソン・ウェイヴァーはひきこもりに近い状態となります。髪型のポニーテールに強いこだわりをもっていますが、彼が寝ているすきにちょん切られてしまったことが引きこもりになった理由です。武士にとってのまげをちょん切られたようなものです。ポニーテールの髪型は彼にとって心の支えだったのでしょう。たしかに彼はうつ状態ですが、まだ完全に病気が完成したわけではありません。やはり家を出る決心をしました。
中学校で、ジェイソン・ウェイヴァーの弟のサム・ウェイヴァーに対して、性が不一致の兄に関していじめとかばかにするとか、挑発する行為があることが不可解です。当事者は兄です。弟は関係ありません。
そのことに関して、暴力事件まで起こります。教室内での中学生同士のけんかとはいえ、ただではすみません。小説ではうやむやにされていますが、現実社会で起きれば、学校や親も巻き込んで大騒動になります。
話の構図がばらばらと崩れていく印象があります。周囲から攻撃されるべきなのは兄であって弟ではありません。兄と弟の個性が一体化しています。
やがて、親子間の信頼関係もなくなってしまいました。うわべだけをとりつくろうとする両親に対する兄の不信感は強い。『幸せ家族のまねごとなんかできない』
潜在意識:自覚されていない意識
言葉のあや:間接的な言い回しで、複数のとらえかたができる表現をする。
156ページ「シドニーのハーバーブリッジに登ったことがある」:以前、現地で旅行ガイドさんの説明を聞いたことがあるのですが、そのときのメモ記録が残っていました。『橋のアーチ部分をよく見ると階段になっているのがわかります。シドニーの高校生は3年生になると、胆だめしで深夜この階段を使って、橋を渡ると聞きました。本当は歩いちゃいけない場所なのでしょう。 (その後新聞で、この階段を歩くツアーができたことを知りました。命綱や安全ベルトをつけて歩くそうです。スリルと絶景を味わうことができるでしょう)』
265ページあるうちの212ページまで読みました。
すがすがしい展開になってきました。
ジェイソン・ウェイヴァーはロンドンの自宅を出て変わり者の叔母の家へ行きます。
ロンドンの家の人間は、ジェイソン・ウェイヴァーをまるで、最初からこの世にいなかったもののように扱い、自分が女性だという兄は、忘れ去られた存在のようになります。母親が息子を心配する声が少し出ますが、100パーセントそう思っているのかは疑わしい。母親は長男のジェイソン・ウェイヴァーに「男性」として帰って来てほしいのです。そこを読んでいて思ったことです。日本でも昔の大家族で兄弟姉妹が多いと、本人自活後、親と疎遠な関係になる人もいました。冠婚葬祭で顔を合わせなくなると親族でも何十年間も会うことがなくなります。
ジェイソン・ウェイヴァーは変わります。でも、幸せそうです。
セーシェル諸島:インド洋に浮かぶ島々。アフリカ大陸の東、マダガスカル島の北
オートクチュール:オーダーメイドの服飾。注文でつくる一点もの。高級仕立服。
ガーデナー:庭師
クレアラシル:ニキビ治療薬
モノポリー:ボードゲームのひとつ。不動産取引。相手を破産させることが目的
バジル:メボウキという草。甘くフレッシュな芳香
黄金の羅針盤(おうごんのらしんばん):イギリスのファンタジー小説
ペアレンタル・コントロール:SNS機器の使用を親が監視して制限する。
武士の魂である「ちょんまげ」をちょん切られるような屈辱をポニーテールのしっぽ部分をちょん切られると表現してあるとうけとめました。見た目は男ですが、ジェイソン・ウェイヴァーにとって、ポニーテールは、女子としての「誇り」なのです。ローズおばさんは、サム・ウェイヴァーにお説教をします。兄のポニーテールをちょん切ったのは弟のサム・ウェイヴァーだからです。
ローズおばさんは寛容な人です。ジェイソン・ウェイヴァーは、女性になって、再び姿を現しました。ジェイソン・ウェイヴァーは、ホルモン治療もして、完ぺきに女性になる決心をしました。
良かったセリフとして、『……今はしっくりきてる』『……パンツの中がどうなってるかは、なんの関係もないってことがわからないのか?……』『……まわりが変わるのを願うしかないのかもな。世間の人たちはそんなに残酷じゃない、もっと親切なはずだ、ってね。……』
そして、ジェイソン・ウェイヴァーは、もう男に戻るつもりはありません。
読んでいて、しみじみとして、胸にじーわーとくるものがあります。
イギリスロンドンダウニング街十番地:イギリス首相が居住する首相官邸の所在地
224ページ付近を読んでいて思ったことです。
先日とある日本映画を観ていて悟ったことです。同様の趣旨である記述内容がこの本にあります。
不条理なこと(あるべき姿に反していること)、理不尽なこと(避けることが無理な圧力に屈すること)、不合理なこと(理屈にあわないこと)に折り合いをつけて生きていくのがおとなの世界です。
ただ、この本は小説ですから理想とする結論へと話は進んで行きます。
男が男であること。女が女であること。それが「普通の家族」という意見が出ます。
すさまじい差別があります。
信頼している人からの裏切りもあります。
スキャンダル(名誉と立ち位置がくずれていくような出来事。世間体を損なう。恥さらし)で失脚、失速していきそうな政治家の姿があります。
人間をいたぶる(痛めつける)ことに快感をもつ人間がいます。
トランス(ジェンダー):生まれつきの性の不一致
兄を家から追い出したという話が出ます。母親が言います。『追い出したとは言えないが、ここにいられないようにしてしまった。』『わかってあげようと努力すべきだった。』
イギリスの人口:約6560万人(本書では6000万人)
ロミオとジュリエット状態が発生します。
されどサム・ウェイヴァーは、まだ中学生です。
ラスト付近は、感動的なシーンです。
『ジェイソンなんていない』『兄さんの名はジェシカだ』
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