2021年06月15日

ホテルローヤル 邦画DVD

ホテルローヤル 邦画DVD 2020年公開

 主題歌が流れた時に、この曲は遠い過去に聴いたことがあると、ピンと来てなつかしかった。1978年の曲で「白いページのなかに」でした。柴田まゆみさんという女性が歌っていたそうです。当時は、歌い手さんの名前までは知りませんでした。いろんな人たちが歌っておられるようです。

 年齢設定と女優さんの見た目が合わずとまどいました。ラブホテル経営者の田中雅代さん(波留さん)について、美大受験を失敗して家業のラブホテルで働いているとなると、高校を卒業したぐらいの年齢だと思うのですが、二十代後半に見える方なので、自分の映像の見方が違うのかもしれないと混乱しました。(映像の中では高校卒業後何年も経過しているとか)
 もうひとりは、女子高校生役の方ですが、女優さんのお名前をここに書くことは失礼になるような気がするのでやめておきます。ただ、やはり、映像で、しぐさや言動が、高校生の年齢には見えないのです。女優さん自身の年齢は高校生の年齢ではない方です。このふたりが同時に映像に出てくるとやはり頭の中が混乱するのです。
 
 冒頭のお話で、廃屋となっているラブホテルにある室内とかベッドとかが新品同様で、どうして廃屋の中なのに、そんなにキレイで清潔なのかと、それはいくらなんでもおかしかないかと。これもまた頭の中が混乱しました。

 「人間も、また、景色の一部」というセリフが?(クエスチョン、ハテナ)でした。製作者側は、いいセリフだと思っているようですが、意味がわかりませんでした。

 ヌードモデルになる女性がしきりに「おなかがすいた」と言います。うるさいぐらいになんども「おなかがすいた」と言うのです。だったら、食べてから写真撮影をすればいいのにと思ったのです。

 映像は、動画というよりも、ワンカットの写真をくっつけていく手法に見えました。

 「底辺」「本能のままに」を描き出します。
 ざっくばらんで、生活臭があります。
 
 小説を読みましたが、小説にこんなシーンがあったかなあというシーンもあります。

 これは、中途半端なラブコメディなのか。小説の読後感とイメージが異なります。

 セリフが、「説明」になっています。延々と「説明」が続きます。

 どうして、地下倉庫スペースで、部屋での会話の声が聞こえるのだろう。盗聴です。

 なんだか支離滅裂で(しりめつれつで。ばらばらでまとまりがない)、話が組み合わさりません。
 
 貧相な映画でした。観終えてわびしい気持ちになりました。拍子抜けしました。
 作者の方がせっかくNHKのテレビ番組あさイチに出演して熱心に宣伝されていたのに残念です。

 昔の車はドアミラーではなく、車体の前方左右に付いたフェンダーミラーでした。最後のシーンで気になりました。

 つくり手は、観ている人にどんなメッセージを送りたかったのだろう。


(2013年9月のときの読書感想メモ)

ホテルローヤル 桜木紫乃 集英社

 短編7本です。

「ホテルローヤル」
 4月を迎えた北海道です。加賀屋美幸、身長158cm、50kgが見る方向には阿寒岳が見えるはずですが、この日は曇っていて見えません。廃墟となったラブホテル「ホテルローヤル」の一室で、婚約者ともいえない木内貴史に盗撮っぽいヌード写真を撮らせる彼女はスーパー勤めのパート社員で33才です。この短編の中では、男子にとって女体は男の欲望を満たすための道具です。空虚な雰囲気がただよう作品です。文章が若い。角田光代作品ほどの強烈な重さはない。結婚に至らない男女関係をとおして、女性の物悲しさを語る内容でした。印象に残った文節趣旨は「恋愛に夢をみなくなった」「自分しかこの体を守れない」

「本日開店」
 男性と女性の本能である性欲を素材にした作品群が続くようです。売れるパターンのひとつでありますが、本能を用いるあたりは、ちょっとずるい気がします。作者は今後どのような作品を書き続けるのだろうか。このパターンでとおすのか、それとも、別の道を開拓するのか。さて、この「本日開店」も、目をそむけたくなる内容です。道徳あるいは仏の道への冒瀆(ぼうとく。けがす)です。性をからめて、「悪」とされるものを変化(へんげ)させる。無理やり納得を求められる作品です。締めはすばらしい。

「えっち屋」
 ラブホテルのアダルトグッズを扱う会社をえっち屋と称します。ホテルローヤル廃業の日の様子です。ホテルの設立者田中大吉死去のあとを継いだ娘田中雅代39才未婚と商品を回収に来たえっち屋宮川39才とのやりとりは真面目です。哀愁に満ちた好みの一編(いっぺん)でした。「ご時世」という言葉に納得しました。

「バブルバス」
 所帯じみた生活にやつれた夫婦のお話です。ラストのとき、心の中で「そうか」とつぶやきました。好感をもてる一編でした。この作家さんはこのパターンで、このネタで、これから何本も短編を書ける人です。文章に若さが感じられることが特徴です。

「せんせぇ」
 前出「えっち屋」で、ホテルローヤルで心中死した高校教師とその教え子との事件に関するいきさつなどです。この短編の途中まで、読み続けてきて、どうしてこのふたりが心中するのかという疑問が湧いてきました。読んでいると生きることが悲しくなる小説でした。(すべての短編を読み終えて)こんなことって、あるのかなあ。高校教師は教え子に睡眠薬を飲ませてふたりして死んだ。妻と妻の愛人(夫である高校教師の恩師)へのあてつけが理由と解しました。教え子は死ぬ気があったのかなかったのか。考えだすと考えは深まり続けます。

「星を見ていた」
 後半になるに連れ、記述内容は艶っぽいものから小説家が「底辺の生活」を扱う本来の考察へと変化してきました。ホテルローヤルで掃除婦として働くミコ60才の生活です。北海道という土地柄が下地にあります。女性作家であったから書けた胸に沁みる(しみる)一作でした。

「ギフト」
 この本は短編集ではなく、全体で1本の小説でした。ホテルローヤルの歴史です。建設から廃墟となるまでの過程が、現代から過去へさかのぼる形式で仕上げてありました。どこの夫婦、どこの家族でも似たことがあるような歴史の流れです。しみじみとしました。

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