2021年05月25日

ぼくのあいぼうはカモノハシ ミヒャエル・エングラー・作

ぼくのあいぼうはカモノハシ ミヒャエル・エングラー・作 はたさわゆうこ・訳 杉原知子・絵 徳間書店

 本の帯にある「オーストラリアにはどうやって行くの?」というキャッチコピーを見て、以前シドニーを訪れた時に見学したタロンガズー(タロンガ動物園)を思い出しました。水槽に入ったカモノハシをのぞき込みましたが、カモノハシがいるにはいましたが、暗くて姿がはっきりとは見えませんでした。
 それから2005年に開催されたあいち万博のオーストラリア館で、おおきなカモノハシのつくりものが展示されていました。

 さて、この物語では、ドイツ人の男の子が人間のことばを話すことができるドイツの動物園にいたカモノハシとオーストラリアに行くようです。(人間のことばを話すのでしょうが、ドイツ語でしょう)
 本のカバーの絵をながめています。かわいいまんが絵です。ベンチに座った男の子は両手でリュックをかかえています。その右となりで、カモノハシが両手を(両前足を)をびんのようなものの上にのせています。なんだろう? 旅行に出かけるのに何をもっていこうとしているのだろう。わかりません。(読み続けて、27ページでなにかがわかりました。「ピーナツバター」の容器でした。名前がシドニーというカモノハシの好物です。人間のこどもみたい)
 本のカバーを見て、男の子の名前が「ルフス」であることがわかりました。姉のヤニーネ11歳と母とドイツで暮らしているそうです。父親はエンジニア(技術者)で、オーストラリアに単身赴任で働きに行っているそうです。

 本のページをめくります。コアラの絵があります。オーストラリアといえばコアラです。そして、カンガルーです。
 名古屋市にある東山動物園のコアラは、オーストラリアのタロンガ動物園から来ました。ちなみに名古屋市とシドニーは姉妹都市です。
 いろいろと身近に感じながら読書が始まりました。
 タイトル「ぼくのあいぼうはカモノハシ」から、テレビドラマの番組である「相棒」が頭に浮かびました。

 ドイツにある動物園のバス停の近くで、10歳ぐらいに見えるドイツ人男子ルフスと動物園から逃げて来たというカモノハシのシドニーが出会います。(読み終えてみると訳者のあとがきで、ルフスは小学二年生か三年生ぐらいとありますので、八歳か九歳でした)
 シドニーはふるさとのオーストラリアに帰りたい。ルフスは、オーストラリアに働きに行っている父親に会いに行きたい。ふたりの望む行き先が一致しました。

 カモノハシの姿を文字で表現するとしたら、ルフスのことばでは「くちばしビーバー」「水かきウサギ」わたしが考えたのは「あひる口(くち)をしたコツメカワウソ」です。
 ポケモンのコダックが思い浮かびます。
 カモノハシのシドニーの話だと、カモノハシの意味は「美しさと勇気と知性あふれる無二の生きもの」だそうです。とても長い。
 日本だとカモノハシはどこの動物園にいるのだろう。調べましたがどうも日本にはいないみたいです。(訳者のあとがきにも日本の動物園にカモノハシはいないと書いてありました)
 
 おもしろいことが書いてあります。
 カモノハシが人間にことばを教えたそうです。

 違和感があったのは、「パパに会いたい」の部分でした。
 単身赴任先の父親に会いたいという少年はいないような……
 小学生の頃の自分をふりかえってみると、父親は怖い存在で、それなりにうっとおしかった。息子に優しいパパって少ないんじゃないかな。でもママはパパに会いたいかもしれません。
 そんなこともあって、このお話には、おとながおとなの気持ちで書いた児童文学作品の雰囲気があるのです。
 パパはエンジニアで、シドニーに新しい工場をつくるために一年間という期間で単身赴任をしているそうです。まあ、夫というものは家庭をかえりみずに仕事だけに専念する時期が数年間あります。そうしないと会社で昇進できません。

 34ページあたりからおもしろくなってきました。生き生きとした文章です。

 カモノハシのシドニーは、いざというやばいときは、死んだふりをして、ぬいぐるみになったまねをします。クマと出会った時に人間は死んだふりをするといいとは聞きますが、それとは逆パターンです。でも、動物同士でもありそうな話です。
 シドニーは死んだふりの練習をします。きちんとやらなければならないそうです。徹底的に仕上げるというドイツ人気質を感じました。ちょっと怖い。

 カモノハシのシドニーとルフスの関係は、ドラえもんとのび太の関係のようです。ドラえもんがのび太くんにアドバイスするように、シドニーがルフスにいろいろ教えます。
 わたしはふたりがすぐに飛行機でオーストラリアに飛ぶのだと思っていましたが違いました。
 木登りをしたあとなんとふたりは、バスでドイツからオーストラリアに行こうとします。(カモノハシは自力で木登りはできないと思うのですが、シドニーはできると言っていました。シドニーはいろいろとほらふきですが(うそをつく)言動が前向きなので、にくめません)
 
 ウルル:オーストラリアにある山に見える一枚岩。エアーズロックともいう。
 ミュンヘン:ドイツの都市。1972年(昭和47年)に夏のオリンピックが開催された。
 
 シドニーの顔が緑色とあります。茶色だけかと思っていましたが、ネットでみたカモノハシの顔色が緑色に見える写真もありました。

 ヤギが木に登るという文章があるので、調べたら、本当にヤギが木に登って葉っぱを食べている写真がネットにあったのでびっくりしました。アフリカモロッコにあるサハラ砂漠のヤギは木に登るのです。(でも観光用のやらせの疑惑があるようです)

 バスでオーストラリアに向かったふたりです。日本の絵本で「こんとあき」があります。こんはきつねのぬいぐるみで、あきは小さな女の子です。ふたりは、電車に乗っておばあちゃんに会いに行きます。こんのくちぐせは「だいじょうぶ。だいじょうぶ」です。こんもシドニーもこどもを守る妖精のような存在なのでしょう。

 サルディーニャ島:イタリア沖の地中海にある島。
 
 ○○ごっこの世界です。旅ごっこ、旅行ごっこ、冒険ごっこ、疑似旅行です。
 旅の困り事はたいてい「トイレ」です。
 バスの中にはトイレがありません。
 人に見つかって、死んだふりをしてぬいぐるみに化けるシドニーには、ウフフフフと笑いがこみあげてきます。
 
 地球儀が出てきます。自分が小学生だった頃、地球儀を見て、どうしてなにも疑問をいだかなかったのか不思議です。地球が丸いということを素直に受け入れています。白黒テレビで、ウルトラQとかウルトラマンの映像を見ていたからでしょう。
 
 壊血病:かいけつびょう。ビタミンCの不足で、体の中で出血する。

 バスでオーストラリア行きに失敗したふたりは、こんどは、池にある足こぎ貸しボートでオーストラリアへ行こうとします。だんだん漫才みたいになってきました。
 面かじ:おもかじ。進行方向を右にとる。左のときは「取りかじ」
 まわりを岸に囲まれているので、ボートは当然オーストラリアには着きません。
 いろいろと勉強をいっぱいしないとオーストラリアまでは行けないよ。

 タスマニアデビル:オーストラリアのタスマニア島に住む動物。肉食有袋類(にくしょくゆうたいるい)

 カモノハシは卵を産む哺乳類です。
 カモノハシは食べられるかというような文章が出てくるのですが、食べようと思えばなんでも食べられるわけで、でも、カモノハシは食べちゃいけないんです。食料用の生きものではありません。貴重な動物です。生きていてくれなければなりません。人間が自然界にある動物の種類を根絶やしにしてはいけないのです。

 ついに飛行機でオーストラリアへ行けることに気づいたふたりです。
 なんと航空券を偽造します。
 もう半世紀ぐらい前にまだ十代だった自分が生まれて初めて飛行機に乗った時のことを思い出しました。まず、飛行機の切符がどこで売っているのかがわからなくて、バスで駅前から空港まで行きました。そして、たぶん手荷物を預ける受付カウンターのところで「切符をください」と言ったら相手の方はたいそうびっくりした顔をされていました。当日分のチケットだと思われたようで、一か月ぐらい先のチケットがほしいと言うとその場で売ってもらえたような記憶が残っていますがちょっと記憶があいまいです。そして、わざわざ空港まで来なくても営業所のようなところの窓口で売っていると教わりました。その後は、バブル景気まっさかりのころなどには、窓口の長い行列に並んで購入していました。いまは、インターネットでも購入できるのでとても便利になりました。

 マジョルカ島:マヨルカ島。地中海にあるスペインの島。

 ふたりは、路面電車にも乗りました。

 カモノハシのシドニーはなにかしらコアラに対抗意識をもっています。同じオーストラリアの動物ですから協調してオーストラリア観光をPRしてほしい。

 漫才の台本を読むような感じで、喜劇としてお話が進行していきます。

 ハンブルク:ドイツ北部の港湾都市

 空港でお年寄り夫婦との出会いがあって、なんとなくテレビ番組の「空港ピアノ」とか「駅ピアノ」のシーンが脳裏に浮かびました。
 退職して年金生活の穏やかで仲の良いご夫婦です。見習いたい。
 ご夫婦はオーストラリアに住む娘さん夫婦に会いに行くそうです。
 
 ソーラー発電:太陽光発電

 まあ、壮大なほら話パターンの物語です。
 シドニーを抱いたルフスは「小さな密航者」です。

 日本からオーストラリアに飛行するときは、オーストラリアの東海岸沿いに南下しますが、ドイツから行くときは、西海岸のほうから近づいていくそうです。かなり遠い。訳者のあとがきによると、ドイツからだと、日本からブラジルに行くような位置関係にあるそうです。

 こどもたちよ、世界に羽ばたいてくれたまえ。

(その後)
 NHKのテレビ番組「ダーウィンが来た」を見ていたら、少しだけカモノハシの映像が出ました。カモノハシの攻撃を受けた人の手が傷ついて腫れていました。(はれていました)カモノハシは蹴爪(けずめ。後ろ足にある突起物)に毒をもっているそうです。映像にあるカモノハシは、見るからに野生の動物であり、物語やアニメに出てくるような愛らしさはありません。むしろ、生きるためのたくましさと強さを感じる動物でした。

(さらにその後)
 「いきもの最強バラエティー ウソナンデス」という本を読みました。
 162ページにカモノハシが出てきます。
 最初は、生き物だとは思われなかったそうです。つくり物だと判断されています。1799年ごろのお話で、カワウソにくちばしをくっつけたつくり物だと思われたそうです。
 ほ乳類なのに、卵を産みます。お乳はおなかのしわから出します。オスの後ろ足のツメには毒があります。大昔の生き残りのほ乳類だそうです。恐竜みたい。進化の途中のようでもあります。

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