2021年05月22日

ゆりの木荘の子どもたち 富安陽子・作 佐竹美保・絵

ゆりの木荘の子どもたち 富安陽子・作 佐竹美保・絵 講談社

 本の表紙には、女の子が三人、男の子がふたりの絵が描いてあります。五人とも小学生に見えます。
 「ゆりの木荘」というのは、木造二階建てですが、アパートには見えません。洋館です。屋根にはニワトリか鳳凰(ほうおう)の風見鶏のような飾りが立っています。孤児院のような施設だろうか。グリム童話のブレーメンの音楽隊とか、ポケモンのホウオウを思い出しました。
 これから読み始めます。読みながら感想を付け足していきます。
 本をめくるとどういうわけか、おばあさんとおじいさんの背中が横に並んでいます。お顔は見えません。五人のお年寄りの向こうに白い物が見えますが、物ではなく、トンネルの出口のようなものなのでしょう。
 さあ、はじまり、はじまり。
 「ゆりの木荘」は100年以上前に立てられたおしゃれでりっぱな洋館でした。ちょっと不思議なのは、家に魔法がかけられているそうです。魔法? どんな?
 ゆりの木荘には、おばあさんがひとりで住んでいたそうですが、亡くなって、今は大改築工事がされて「有料老人ホーム・ゆりの木荘」になったそうです。

 ゆりの木:落葉高木。チューリップのようなうすい黄緑色の花が咲く。ハスのような花にも見える。5月から6月ごろに花が咲く。

 有料老人ホームには、おおきな振り子時計があるそうです。
 ここでピンときました。
 「時」を変えるのです。過去にさかのぼるとか、未来へいけるのです。アメリカ映画「バックトゥザフューチャー」の世界です。

 本の表紙の絵は、子どもたちなのに、いきなり、有料老人ホーム「ゆりの木荘」で暮らす三人のおばあさんたちが出てきて、しゃべりだしました。いろいろと、わからないことだらけです。

 森野:モリノさん。どっしりと大きいおばあさん。87歳。
 佐倉:サクラさん。ちんまりと小さいおばあさん。87歳。昔、結婚して、夫の転勤でこの近くに引っ越してきた。
 杉田:スギタさん。笑わない人。動かない人。もうじき90歳。無口なおばあさん。
 
 コデマリの花:落葉低木。別名スズカケの花。高さ1.5mぐらい。手鞠(てまり)のような形をした白い花がたくさん咲く。とても美しい。
 手鞠歌(てまりうた)が流れますから、コデマリの花と関連づけてあるようです。
 
 ヒイラギ:葉っぱのふちがとんがっている。常緑小高木。高さは4mから8m。
 フジ:つる性落葉木。紫色の花がたくさんたれさがる。
 カズラ:つる植物
 アヤメ:草地に自生。紫色の花。花ショウブに似ている。
 ハコベ:春の七草
 ヤマブキ:落葉低木。黄色の花が咲く。高さは1mから2m。
 
 てまり歌を歌うと、時が昔にさかのぼるのです。
 お庭に風が吹き渡って、お庭は、昔の風景に変化するのです。

 ほらやっぱり「ふたりのおばあさんではなく、ふたりの女の子が、ならんでベンチにすわっていました。」と本に書いてあります。
 87歳だったモリノさんとサクラさんは、10歳の女の子になってしまいました。今だと小学4年生ですな。
 推理小説を読むようです。
 
 ホウセンカ:一年草。紫色や赤色、白色の花。6月から9月に咲く。
 
 90歳だった不機嫌そうなスギタおばあちゃんも長い髪を三つ編みにした少女になって現れました。スギタさんは、これ以降も「テレビがなくなった」と騒ぎ続けます。

 食堂の柱にかけてある一日一枚めくる形式の日めくりカレンダーは「昭和16年8月3日仏滅」となっています。
 「昭和16年」は、太平洋戦争が始まった年で、12月8日に日本の戦闘機がハワイのパールハーバー(真珠湾)を攻撃して、開戦しました。でも、まだ、カレンダーは8月を示しているので、戦争は始まっていません。
 老人ホームに入所しているみなさんは、77年前にタイムトラベル(時間移動)してしまいました。
 ちなみに、日本でテレビの放送が始まったのは、1953年(昭和28年)ですから、昭和16年の日本にはテレビはありませんでした。そして、日本でラジオ放送が始まったのは、1925年(大正14年)ですから、昭和16年の日本には、ラジオがありました。ゆえに、13歳ぐらいに戻ったスギタおばあちゃんが昭和16年の世界でテレビをいくらさがしても、そのころの日本には、テレビはまだ存在していません。
 そして、昭和16年(1941年)のゆりの木荘は老人ホームではありませんから、老人ホームで働くスタッフもいません。老人ホームのスタッフは、まだ、この世に生まれてもいません。
 ついでに、冷蔵庫も電子レンジもエアコンも洗濯機もアイロンもマッサージチェアも、もちろんスマホやテレビゲームもこの時代にはありません。きっと家の中は、静かな夜で、秋になると外では、虫が鳴く音がいっぱい広がっていたことでしょう。

 ふたりの少年が登場してきました。
 川井省一(かわい・しょういち):本当は84歳。いまは7歳。はしっこそうな小さい男の子(はしっこ:すばしっこい)しょうさん。84歳のしょうさんは、おじぞうさんみたい。
 河合大吾(かわい・だいご):本当は84歳。いまは7歳。太った大きな男の子。だいさん。84歳のだいさんは、サンタクロースみたい。
 
 ゼンマイ仕掛けの大きな振り子時計が出てきますが、自分も7歳小学一年生の時に農家である祖父母の屋敷で、振り子時計のゼンマイを巻く作業をしていたことを思い出しました。
 
 さて物語のほうはどんどん進行していきます。
 
 つりしのぶ:植物鑑賞用の入れ物。竹、コケ、シダなどでつくって軒下に吊り下げて楽しむ。

 カヅミちゃん:カズミちゃんのおばあちゃんの家がゆりの木荘。

 小学生だったサクラさんは、毎年夏休みに、お母さんとお母さんのお姉さん(おばさん)の家に一週間ほど泊まりに行っていた。おばさんは、サクラさんを連れて、カズミちゃんのおばあさんの家(ゆりの木荘)に行き、カズミちゃんのおばあさんから生け花を習っていた。
 カズミちゃんは、お花の師匠をしていたおばあさんの孫だった。サクラさんはカズミさんと遊んだ。だけど、サクラさんたちがかくれんぼなんかをして遊んでいたときに、もうひとり小さい子どもがいたそうです。だけど、サクラさんは、それがだれなのかを思い出せません。
 庭にあったゆりの木が切られたことが、なにかからんでいるのかと考えましたが関係はありませんでした。

 読んでいて「座敷童(ざしきわらし)」が出てくるぞーと推理しました。やっぱり出てきました。あたりーです。
 座敷童(ざしきわらし)は家の守り神で大事です。まあ、妖精みたいなものです。妖怪に近いかな。
 でも、わたしは見たことがありません。だけど、いるに違いないと思っています。

 またまた予想です。
 手まり歌を歌うとまたおばあさんに戻るのだろう。

 『約束』があったそうです。
 座敷童が家に閉じ込められているとして、外に逃がしてやりたい。
 サクラさんと座敷童は座敷童をこの家から逃がしてあげると約束をしたそうな。
 これから先のくわしいことをここに書くのは、やめておきます。
 広島という地名も出てきたので、原子爆弾投下の話につながるのかなとも考えました。(でもつながりませんでした)
 
 植物図鑑を読み終えたような気分です。

 モリノおばあさんの良かった言葉として「いくつになっても、年をとっても、人間は前に進まなくちゃいけないのよ……」

 不思議な余韻が残る児童文学作品でした。

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