2021年05月10日

お探し物は図書室まで 青山美智子

お探し物は図書室まで 青山美智子 ポプラ社

 第一章を読んだところですが、感想を書き始めてみます。なかなかおもしろい、いい本です。

「第一章 朋香(ともか) 二十一歳 婦人服販売員」
 藤本朋香 スーパー「エデン」で婦人服販売担当正社員。レジ打ちと接客をしている。コーラルピンクのブラウスが制服(オレンジがかった桃色)
 東京のアパートでひとり暮らし3年目 地方出身者
 沙耶(さや):朋香の郷里に住む高校時代からの友人
 桐山:25歳男性。スーパーエデンの中にあるメガネ店の社員
 上島:35歳。藤本朋香の上司。仕事をやる気なし。
 沼内:五十代女性。婦人服売り場での勤続十二年というベテランパートさん
 森永のぞみ:図書室受付。容姿は高校生ぐらい。若く見える。瞳が大きい。髪はポニーテール。
 小町さゆり:図書室の司書。白熊のように大きい体格をしている。

 あれやこれやあって、小学校に併設されている図書室へたどり着いた主人公の藤本朋香さんです。東京都羽鳥区(はとりく。架空の行政区)区民のためのコミュニティハウスです。集会所では、各種講座が開催されています。

 羊毛フェルト:手芸。羊毛をつつくと形になる。

 お仕事小説の面と、恋愛小説の面とが重なっています。

 司書の小町さゆりさんが、困っている人に適切な本を紹介していく物語のようです。

 レファレンス:図書館員が図書館利用者に対するサービス。利用者の必要としている情報を提供する。
 ハニードーム(架空の設定):お菓子

「二章 諒(りょう) 三十五歳 家具メーカー経理部」
 ニット帽:毛糸でできた帽子。頭からすっぽりかぶる。

 舞台である場所を想像するに、神奈川県鎌倉あたりにあるらしき、煙木屋(えんもくや。架空の設定)というアンティークショップから始まります。
 読んでいて、そこの店主とこの短編部分の主人公の再会が最後に用意されているのではないかと予想と期待をしましたが、最終的には、そのようにはなりませんでした。

 海岸に打ち寄せられるものはみなゴミだと思っていました。拾って、その物の過去に思いを寄せて再利用する。シーグラスという浜拾いの行為が出てきます。

 浦瀬諒(うらせ・りょう)さんがこの短編部分の主人公です。気弱で、人づきあいが苦手です。
 浦瀬涼さんは、この本の第一章と同じコミュニティハウスの図書室を訪れて巨体の司書小町さゆりさんに出会います。小町さゆりさんは、ゴーストバスターズに登場するマシュマロマンみたいだそうです。マシュマロマンを知らなかったので調べました。巨大な雪だるまみたいなキャラクターでした。

 各短編は、一時間程度で読める分量です。
 読み終えて、さわやかな気持ちになれる読後感の良い小説です。
 お仕事小説です。いろいろ励まされる文章が多い。
 職場に、ひどい上司や怠け者の同僚や部下がいると、やる気が失(う)せます。
 お金のためと割り切って働く。
 定年退職後に夢をかなえることをめざして、健康維持に努め、早くから定年退職後の準備をしておく。

 作品内容から考慮して、一般的に、女子の親は、結婚話の際に、娘の夫になろうとする男について、人物を観るのではなく、男の職業を見るのでしょう。ついでに男の親の職業も見て、娘の結婚についての評価と判断をくだすのでしょう。
 就職の採用にあたっては、血縁、地縁によって採用されることもあります。とてもよくあります。実力で採用された者は、就職後、理不尽に耐えることになります。
 
 パラレルキャリア:仕事をもちながら第二の活動をする。第二の活動は、収入を目的としない。精神的な充足を目的とする。
 
 外に出かけなくても「旅」の経験はできる。

 ひとりでやるのは大変。相棒が必要。

 大事なものは『信用』

 ただ、読んでいて、理想なんだろうなあという思いは残ります。
 現実は厳しい。

「三章 夏美 四十歳 元雑誌編集者」
 崎谷夏美さん、旦那さんが修二さん、お子さんが双葉さん二歳というメンバーの三人家族で、こどもさんを保育園に預けながらの共働きの子育てです。
 冒頭で、サンタクロースがいるかいないかの話が出ます。わたしの自宅の本棚に立ててある『サンタクロースっているんでしょうか? 子どもの質問にこたえて』偕成社という本に目がいきました。でも、その本のお話ではありませんでした。その本では、サンタクロースはいるとされています。さて、こちらの短編ではサンタクロースの存在について、どう決着がつくのでしょうか。

 崎谷奈津美さんは、仕事を優先して、1年4か月とれる育児休業をとらずに早めに職場復帰しますが、人事異動の対象にされ、第一線の編集部から、資料部へと配置換えされてしまいます。育児への配慮が会社側の人事異動を指示した理由です。会社には、子どものいる女性は、崎谷奈津美さん以外はいないそうです。

 共働きの生活というのは、お金で時間を買うような毎日です。ふたりで働いていてもやっぱりお金が十分あるわけではありません。出費はかさみます。

 第三話となり、筋書のワンパターン化がみられます。愚痴の解消マニュアル形式で、マンネリの傾向があります。新鮮さがなくなります。
 五十歳ぐらいである司書の小町さゆりさんは、ちょっとだけ顔を出すだけの登場のしかたです。それでも、この話の部分では、小町さゆりさんの私生活が少しだけこぼれ出ています。
 小町さゆりさんの決めゼリフです。「何をお探し?」。そして、手づくりの羊毛フェルト細工のプレゼントとハニードームという甘いお菓子が加わるのがこの短編集の定番です。

 子どもが病気の時に駆けつけない親は、遠い未来に後悔します。
 子は親を捨てます。
 
 こちらが相手を思っているほど、相手はこちらのことを思ってくれていなかったということはよくあることです。世の中は、誤解と錯覚で成り立っています。

 『変化』に対する考察があります。

「四章 浩弥 三十歳 ニート」
 菅田浩弥(すだ・ひろや)無職。母親とふたり暮らしです。デザイン学校を卒業して就職しましたが、仕事が続かず、退職してうまくいっていません。
 今回、三十歳の節目にタイムカプセルを開くにあたり、高校の同窓会に出席しました。

 「明と暗」「陽と陰」の話に「進化」がからんできます。うまくできた者、できなかった者。対比があります。

 「18歳」が「30歳」になるということは、人生で一番変化がある時期に何があったかということ。なのに、菅田浩弥さんはニートなので、変化がないということ。

 絶対安泰な仕事として、公務員とか大企業と提示がありますが、今の時代、そして、これからの時代は公務員も大企業も大変そうです。
 ストレスで心が壊れないようにが大事です。

 本に書いてあることをそのまままるっきり信じてはいけないという趣旨のセリフは、いいアドバイスでした。
 歴史の本を読むときは、実際のところ、その時代にそこにいた人は、もうこの世にはいないわけで、今となっては、本当のことはわかりません。歴史の本を読むときは、もしかしたら、あるいは、たぶん、こうだったのかもしれないという気持ちで読みます。

 五十歳近く生きてくると百年が短く感じられるという説には同感です。六十歳を超えると、自分が生まれる百五十年ぐらい前が身近に感じられます。父母や、祖父母の誕生日を基準にして時代をさかのぼって出来事を確認すると、とてもわかりやすいのです。

 読み終えて、この短編部分の主人公の性別の設定が女子でも良かったような気がしました。

「五章 正雄 六十五歳 定年退職」
 権野正雄(ごんの・まさお)さん、六十歳で定年退職後、同一職場で再任用されて、六十五歳で雇用期間が終了されたようです。部長職でした。完全退職して六か月が過ぎました。

 権野正雄さんは、何もすることがありません。
 熟年離婚の話だろうか(違っていました)
 六十五歳から囲碁を始めるのは遅すぎるような。
 マンガチックでもあります。滑稽(こっけい)です。
 スェット:だぼっとしていて体操のジャージ風のズボン。権野正雄さんは、このズボンをはいて、サラリーマンをしていた当時の黒い革靴をはくらしい。

 一章から登場していた人たちの関係がつながっていきます。人間関係の伏線の回収に入りました。
 前を見ていると視野が狭くなる。横を観ると視野がワイドになる。
 ラストの表現が良かった。

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