2021年04月15日

妻が椎茸だったころ 中島京子

妻が椎茸だったころ 中島京子 講談社

 タイトルが奇抜で引く思いがあったのですが、この方の作品で以前読んだ「長いお別れ」が傑作だったので、この本も読んでみることにしました。一作、一作の内容が、濃密だという印象をもっています。

 短編が五本並べてあります。最初の一本を読み終えて、これは、スリラーだと気づきました。ぞっとする読後感が残ります。

「リズ・イェセンスカのゆるされざる新鮮な出会い」
 リズ・イェセンスカはアメリカ人女性の名前です。
 甲斐左知枝さんがアメリカ合衆国で体験したお話です。
 留学先で困っているときに親切なおばあさんに出会った話が出ますが、甲斐左知枝さんは英語がまだ十分にできないので、意思疎通がスムーズにいかなかった面もあります。英語の和訳を楽しむ面もある読書です。
 おとなが読む小説の雰囲気です。
 怖い話でした。

 ダイナ―:北アメリカ特有のプレハブ式レストラン
 アイボリー:象牙の色。淡い黄色で灰色がかっている。
 ラブ・スパンキング:性的志向で、愛情をこめてお尻を叩く。
 グリーンカード:アメリカ合衆国における外国人永住権証明書

「ラフレシアナ」
 ネペンテス・ラフレシアナ:食虫植物。ウツボカズラ
 立花一郎さんと私(技術翻訳家の亜矢さん)との物語です。
 植物に話しかける私がいます。
 未婚者である立花一郎にとって、ネペンテス・ラフレシアナが心のよりどころになっているそうです。
 立花一郎を変人扱いしていますが、読んでいて思うのは、物語をいま語っている亜矢さんがおかしいというオチだろうかということです。

 たたみかけてくる文章で、恐怖感が増幅されていきます。

 アグラオマネ・ホワイトラジャー:観葉植物

 ふーむ。上には上がいるということか。不思議な世界があります。

「妻が椎茸だったころ」
 いいお話しでした。しみじみして、じーんと胸に広がるものがありました。今年読んで良かった一編です。
 「たがも」は「たまご」「しいたこ」は「しいたけ」から始まります。伏線です。
 泰平(たいへい)さんが定年退職をした二日後に奥さんがくも膜下出血で急逝されました。まだ五十五歳でした。
 読み始めてしばらくは、おもしろくて笑えます。
 鳥取県の大山(だいせん)という山の話が出ます。十六歳の時に山頂付近の幅の狭い尾根となっている峰を登山で歩いたことがあります。今は崩落の危険があるので歩けないような記事を数年前に読んだことがあります。蒜山(ひるせん)という山まで縦走したような記憶があるのですが、確かにそうしたのかは高校の先輩についていく立場だったので、記憶が薄くて思い出せません。下山後は、赤碕(あかさき)という町で、海の堤防手前にあった小さな広っぱにテントを張って野宿しました。そんなことももう半世紀ぐらい昔のことになりました。
 この小説ではその後、「ジュンサイ」の話が出ます。「若さ」について自分の体験と重なる部分があって、感情に深みが生まれます。お話の内容は、定年退職後まもなくの男性向きの小説です。

「蔵篠猿宿パラサイト(くらしのさるしゅくぱらさいと)」
 タイトルを読んだだけでは内容を予想できないのがこの本の特徴です。
 パラサイトは「寄生」ですが、このお話ではそういう意味ではありません。
 トムソーヤーの話が出ます。小学生のときに何度も読みました。たしか、女子とのキスシーンがあってそこばかりを何度も読んでいました。今では枯れ果ててそんな気にもなれません。
 伝説の話が出て怖くなります。あまり書くといけないので知りたい人は本を買って読んでください。やはり、宿で寝ていると音が聞こえてくるのです。
 医師会は石会と続くくだりは、ユーモアに満ちていておもしろかった。
 学術的です。
 そういうつくりかと感嘆しました。(感心してほめたたえる)

 しれっとした顔:そ知らぬふりをして平然と。

「ハクビシンを飼う」
 幻想的な終わり方をするお話でした。
 複雑な親族関係です。義理の父の妹。未婚の母。人嫌い。戸籍の届にこだわらない男女関係などがあります。
 山野草のような植物・樹木がたくさん出てくる本です。ハクビシンは、キツネのような生き物です。化けるかもということがお話の素材です。
 おそらく化けたのでしょう。

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