2021年03月24日
阿Q正伝・狂人日記 魯迅
阿Q正伝・狂人日記 魯迅・作 竹内好・訳 岩波文庫
魯迅(ろじん):1881年-1936年 55歳没 中国の小説家 思想家 1902年(明治35年)国費で日本に留学した。宮城県仙台で医学を学んでいたが、とある出来事があり、思うところあって小説家になる道を選択した。1909年に中国へ帰国した。
阿Q正伝(あきゅうせいでん):「阿Q」は、人の名前。1921年から翌年にかけての作品。日本では大正10年ころ。もう今から100年前です。
昨年読んだ太宰治氏の作品「惜別」からこの本にきました。「惜別」には、魯迅氏の仙台滞在時のことが描いてありました。藤野先生は、魯迅氏が仙台で医学を学んだときの解剖学の先生です。
文庫には、15本の文章が収められています。何本か読んで、感想を残してみます。
吶喊(とっかん)全体のタイトルでしょう。訳註(やくちゅう。翻訳者が付けた注釈)に「開戦にあたって両軍の兵士が叫び声をあげること)とあります。
魯迅氏の伝記は小学生のころに漫画で読みましたが、内容はもう覚えていません。
「自序(じじょ):序文のこと」 1922年12月3日 北京にて 日本では大正11年
ご自身の貧しい体験記があります。
日本に留学していた時のことが書いてあります。仙台の学校(現在の東北大学)で医学を学んでいた時にニュース映像を見た。日露戦争の最中です。(1904年ころ)日本人が、ロシア軍のスパイである中国人を処刑するシーンで、取り囲んでいたのは現地の中国人です。みな無表情だったそうです。魯迅は自国民を愚弱(ぐじゃく。愚かで弱い)とし、自分は医学を学ぶよりも誇りをもった中国人を育てるために文芸活動を起こそうという気持ちになったということが書いてあります。
中国国民が置かれている場所を鉄の部屋にたとえて、鉄の部屋を壊す。希望をもとうとこの文章で訴えておられます。
調べた言葉などとして、
寂寞(せきばく):ひっそりとしてさびしいようす
蘆の根(あしのね):薬の素材。イネ科の植物
臂を振って:ひじをふって
慷慨悲憤(こうがいひふん):運命、社会の不正にいきどおって、悲しんで嘆くこと。
「狂人日記」 末尾に「1918年4月」とあり (日本では、大正7年。この年に、スペイン風邪の大流行あり。1914年から1918年の第一次世界大戦中でもあった)
すごいタイトルの短編ですが、作品としてはまだ駆け出しの内容だとなにかで読みました。
主人公の親友の弟の日記です。彼は、「被害妄想狂」で病院にしばらく入院していたそうです。今は良くなってどこか遠方で働いているそうです。
「おれはあれを見なくなってから、三十年あまりたつ」とあります。何を見なくなったのだろう。16ページを読んでいる今はまだわかりません。(その後もわかりませんでした)
月に対するこだわりがあるのですがその理由もまたわかりません。
幻覚、幻視ありの状態で、被害妄想の症状が脳にあります。
患者である弟の兄が人間を食う話が出ます。自分は人間を食う人間の弟だという自分を評価します。ちょっと理解できません。人肉は煮て食う。中国ではいろいろなものを食べると聞きますが昔は人肉も食べたのだろうか。おそろしい。おいしくはないと思う。
100年ぐらい前の作品ですが「昔からそうだったのなら、正しいか?」と記事があります。不思議な感覚が生まれます。どこに時点の基準を置いたらいいのか。
「自分では人間が食いたいくせに、他人からは食われまいとする」という部分は、まるで、資本主義経済の社会を表現しているようです。
読み終えて、「詩」のようでもありました。
錯雑(さくざつ):まとまりがなく入り乱れているようす
荒唐(こうとう):根拠がなくでたらめ。
任官(にんかん):官職へ任用される。
枷(かせ):昔の刑具。木や鉄でつくられたもので、手足などを拘束される。
「孔乙己(コンイーチー 人の名前)」
こちらの作品は傑作に入るそうです。
酒屋です。店の奥が立ち飲み形式の小さな酒場になっています。昔、日本にもよくありました。肉体労働者が仕事を終えて帰路に立ち寄ってちょっとしたものをつまんで雑談などをしていました。
語り手は二十年以上前に少年だった男性です。十二歳から酒屋の小僧に入ったそうです。
中国の風俗風土ですが、昔の日本に似ています。
立ち飲み仲間に孔乙己(コンイーチー)という名の男性がいます。名はあだ名です。背が高く青白い顔。長衣なる服を着ていて目立つ変わり者です。笑いを生むためのからかいの対象です。
文字の読み書きの話になります。
孔乙己(コンイーチー)が少年に文字を教えます。
なにがどうという話でもないのですが、孔乙己(コンイーチー)は亡くなります。わびしい暮らしがあります。当時の中国の人たちはこれを読んで何かを感じ取ったのでしょう。
「阿Q伝」
阿Qという名前の男性の伝記でした。
前記した「自序」の内容が創作のヒントになっていると思います。阿Qは、無実の罪で捕らえられて(とらえられて)、銃殺刑で殺されてしまいます。見せしめ、見世物です。処刑を見るために集まっていた中国人たちは、首切り処刑のほうが楽しめるのにという感想を漏らすだけです。
1921年(日本では大正10年)という時代背景で、魯迅は、この作品で、中国人に魂を入れることを試みたと考えます。作中では、文字の読み書きができないことが出てきます。教育を受けていないので、中国人が「無知」であるという国民性が浮き彫りにされています。ゆえに魯迅氏は、医学の道をやめて、文芸の道を選択したのでしょう。文芸によって自国民の人間としての力をつけたかった。思想を植えつけるようなものなのでしょう。
斬新だったのは、口語表現で文章を書いたことでしょう。中国は漢字文化ですからすべての文字が漢字でできていた。読み書きは、とてもむずかしそうです。
1921年のこととして、文章書きの手法として、この時代の形式(ルール)を破ろうと挑戦していることがうかがえます。タブー(禁止)を破ろうとしています。中国人の暮らしぶりを文語体ではなく、口語体で表現して、事実を描写する文体にするという画期的なことだったのでしょう。
地保なる警察組織が出てきますが、賄賂(わいろ。官憲に金銭や物品を渡して融通をきかせてもらう)が横行する社会です。
血筋による身分差別もあります。
賭博場(とばくじょう。ギャンブル)もあります。
以前中国へ行ったときのことを思い出しながら読みました。統治するために、規律を優先して、力で押さえつける国というような印象でした。読みながら、国民性の違いをお互いに理解するには大きな努力が必要な気がしました。
辮髪(べんぱつ):髪の毛をみつあみにして後ろにたらす。中国男子の風習だった。
贓品(ぞうひん):盗品
辛亥革命(しんがいかくめい):1911年から1912年。1912年に清国が滅亡。中華民国が誕生した。
「薬」「明日」「小さな出来事」「髪の話」「から騒ぎ」「故郷」「端午の節季」「白光」「兎と猫」「あひるの喜劇」「村芝居」
100年前の中国人の日常生活を口語記述で読みやすく書いてあります。そのことが当時の常識を打破する新しい文章表現方式だったのでしょう。
日誌記録のようでもあります。
訳注を読んでいて調べた言葉として、「客死(かくし。きゃくし):旅先または他国で死ぬこと」
魯迅(ろじん):1881年-1936年 55歳没 中国の小説家 思想家 1902年(明治35年)国費で日本に留学した。宮城県仙台で医学を学んでいたが、とある出来事があり、思うところあって小説家になる道を選択した。1909年に中国へ帰国した。
阿Q正伝(あきゅうせいでん):「阿Q」は、人の名前。1921年から翌年にかけての作品。日本では大正10年ころ。もう今から100年前です。
昨年読んだ太宰治氏の作品「惜別」からこの本にきました。「惜別」には、魯迅氏の仙台滞在時のことが描いてありました。藤野先生は、魯迅氏が仙台で医学を学んだときの解剖学の先生です。
文庫には、15本の文章が収められています。何本か読んで、感想を残してみます。
吶喊(とっかん)全体のタイトルでしょう。訳註(やくちゅう。翻訳者が付けた注釈)に「開戦にあたって両軍の兵士が叫び声をあげること)とあります。
魯迅氏の伝記は小学生のころに漫画で読みましたが、内容はもう覚えていません。
「自序(じじょ):序文のこと」 1922年12月3日 北京にて 日本では大正11年
ご自身の貧しい体験記があります。
日本に留学していた時のことが書いてあります。仙台の学校(現在の東北大学)で医学を学んでいた時にニュース映像を見た。日露戦争の最中です。(1904年ころ)日本人が、ロシア軍のスパイである中国人を処刑するシーンで、取り囲んでいたのは現地の中国人です。みな無表情だったそうです。魯迅は自国民を愚弱(ぐじゃく。愚かで弱い)とし、自分は医学を学ぶよりも誇りをもった中国人を育てるために文芸活動を起こそうという気持ちになったということが書いてあります。
中国国民が置かれている場所を鉄の部屋にたとえて、鉄の部屋を壊す。希望をもとうとこの文章で訴えておられます。
調べた言葉などとして、
寂寞(せきばく):ひっそりとしてさびしいようす
蘆の根(あしのね):薬の素材。イネ科の植物
臂を振って:ひじをふって
慷慨悲憤(こうがいひふん):運命、社会の不正にいきどおって、悲しんで嘆くこと。
「狂人日記」 末尾に「1918年4月」とあり (日本では、大正7年。この年に、スペイン風邪の大流行あり。1914年から1918年の第一次世界大戦中でもあった)
すごいタイトルの短編ですが、作品としてはまだ駆け出しの内容だとなにかで読みました。
主人公の親友の弟の日記です。彼は、「被害妄想狂」で病院にしばらく入院していたそうです。今は良くなってどこか遠方で働いているそうです。
「おれはあれを見なくなってから、三十年あまりたつ」とあります。何を見なくなったのだろう。16ページを読んでいる今はまだわかりません。(その後もわかりませんでした)
月に対するこだわりがあるのですがその理由もまたわかりません。
幻覚、幻視ありの状態で、被害妄想の症状が脳にあります。
患者である弟の兄が人間を食う話が出ます。自分は人間を食う人間の弟だという自分を評価します。ちょっと理解できません。人肉は煮て食う。中国ではいろいろなものを食べると聞きますが昔は人肉も食べたのだろうか。おそろしい。おいしくはないと思う。
100年ぐらい前の作品ですが「昔からそうだったのなら、正しいか?」と記事があります。不思議な感覚が生まれます。どこに時点の基準を置いたらいいのか。
「自分では人間が食いたいくせに、他人からは食われまいとする」という部分は、まるで、資本主義経済の社会を表現しているようです。
読み終えて、「詩」のようでもありました。
錯雑(さくざつ):まとまりがなく入り乱れているようす
荒唐(こうとう):根拠がなくでたらめ。
任官(にんかん):官職へ任用される。
枷(かせ):昔の刑具。木や鉄でつくられたもので、手足などを拘束される。
「孔乙己(コンイーチー 人の名前)」
こちらの作品は傑作に入るそうです。
酒屋です。店の奥が立ち飲み形式の小さな酒場になっています。昔、日本にもよくありました。肉体労働者が仕事を終えて帰路に立ち寄ってちょっとしたものをつまんで雑談などをしていました。
語り手は二十年以上前に少年だった男性です。十二歳から酒屋の小僧に入ったそうです。
中国の風俗風土ですが、昔の日本に似ています。
立ち飲み仲間に孔乙己(コンイーチー)という名の男性がいます。名はあだ名です。背が高く青白い顔。長衣なる服を着ていて目立つ変わり者です。笑いを生むためのからかいの対象です。
文字の読み書きの話になります。
孔乙己(コンイーチー)が少年に文字を教えます。
なにがどうという話でもないのですが、孔乙己(コンイーチー)は亡くなります。わびしい暮らしがあります。当時の中国の人たちはこれを読んで何かを感じ取ったのでしょう。
「阿Q伝」
阿Qという名前の男性の伝記でした。
前記した「自序」の内容が創作のヒントになっていると思います。阿Qは、無実の罪で捕らえられて(とらえられて)、銃殺刑で殺されてしまいます。見せしめ、見世物です。処刑を見るために集まっていた中国人たちは、首切り処刑のほうが楽しめるのにという感想を漏らすだけです。
1921年(日本では大正10年)という時代背景で、魯迅は、この作品で、中国人に魂を入れることを試みたと考えます。作中では、文字の読み書きができないことが出てきます。教育を受けていないので、中国人が「無知」であるという国民性が浮き彫りにされています。ゆえに魯迅氏は、医学の道をやめて、文芸の道を選択したのでしょう。文芸によって自国民の人間としての力をつけたかった。思想を植えつけるようなものなのでしょう。
斬新だったのは、口語表現で文章を書いたことでしょう。中国は漢字文化ですからすべての文字が漢字でできていた。読み書きは、とてもむずかしそうです。
1921年のこととして、文章書きの手法として、この時代の形式(ルール)を破ろうと挑戦していることがうかがえます。タブー(禁止)を破ろうとしています。中国人の暮らしぶりを文語体ではなく、口語体で表現して、事実を描写する文体にするという画期的なことだったのでしょう。
地保なる警察組織が出てきますが、賄賂(わいろ。官憲に金銭や物品を渡して融通をきかせてもらう)が横行する社会です。
血筋による身分差別もあります。
賭博場(とばくじょう。ギャンブル)もあります。
以前中国へ行ったときのことを思い出しながら読みました。統治するために、規律を優先して、力で押さえつける国というような印象でした。読みながら、国民性の違いをお互いに理解するには大きな努力が必要な気がしました。
辮髪(べんぱつ):髪の毛をみつあみにして後ろにたらす。中国男子の風習だった。
贓品(ぞうひん):盗品
辛亥革命(しんがいかくめい):1911年から1912年。1912年に清国が滅亡。中華民国が誕生した。
「薬」「明日」「小さな出来事」「髪の話」「から騒ぎ」「故郷」「端午の節季」「白光」「兎と猫」「あひるの喜劇」「村芝居」
100年前の中国人の日常生活を口語記述で読みやすく書いてあります。そのことが当時の常識を打破する新しい文章表現方式だったのでしょう。
日誌記録のようでもあります。
訳注を読んでいて調べた言葉として、「客死(かくし。きゃくし):旅先または他国で死ぬこと」
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