2020年11月01日

ノンちゃん雲に乗る 石井桃子

ノンちゃん雲に乗る 石井桃子 福音館

 こどものころに小学校の図書館で見かけたことがありますが読むのは今回が初めてです。
 本は1942年(昭和17年)から執筆が開始され、最初は、1951年(昭和26年)に光文社から発行されたそうです。
 作者は今もご存命であれば、113才です。1907年(明治40年)のお生まれです。作者は2008年に101歳でお亡くなりになっています。
 亡くなったあとも「本」は残り、後世の世代に読み継がれます。

 舞台は東京府です。東京府は、1868年(明治元年)から1943年(昭和18年)まで存在していました。東京府の府庁所在地が、「東京市」でした。
 本作品のなかでは、8才小学二年生女児のノンちゃんは東京府の田舎で暮らしています。ノンちゃんは病弱で赤痢にかかったことがあるそうです。病気療養を兼ねて空気がきれいな田舎で生活しています。
 ノンちゃんの家には、ノンちゃんのおとうさんとおかあさん、ノンちゃんの兄10才タケシ小学四年生、おばさんでトシ子さん、それから、犬のエスがいます。

 ある日、おかあさんとおにいさんがノンちゃんにないしょで、「発明展覧会」を見学するために東京市へ行ってしまいました。そのことを知ったノンちゃんはすねて、家を出て木登りをしていました。ノンちゃんはモミジの木の幹から落ちて、そのあと雲に乗ったようです。
 発想として、「不思議の国のアリス」(イギリス、ルイス・キャロル、1865年刊行)があるのかなと思いました。

 上品でなつかしい昔の暮らしがあります。
 コンピューターが発展してずいぶん生活が変化しました。
 唱歌「太平洋」:ネットで初めて聴きました。文語調の勇ましい曲でした。
 おみおつけ:みそ汁をていねいに言った言葉

 ノンちゃんの成長物語になりそうです。

 ノンちゃんにとって、「空」は「海」で、「鳥」は空を泳いでいるそうです。

(つづく)

 最初の「章」の部分が終わって、次の章あたりからおもしろくなってきました。ここで、本の文字の色が黒色ではなく、青色であることに気づきました。めずらしい。(だいぶ読んでから気づいたのですが、25ペーまでが黒色文字、次のページから青色文字が始まり、246ページから黒色文字に戻ります)

 「雲の上」という章に移ります。
 ノンちゃんは雲の上の世界にいきます。
 スワン・ダイブ:飛び込みの姿勢として、胸をそって頭を上に持ち上げた形
 ジャックナイフ:飛び込みの姿勢として、体をおなかで折るようにして、「へ」の字をつくる姿勢
 芸当(げいとう):ふつうではできそうもない動作。曲芸

 雲の上に、熊手のようなものを持ったおじいさんが出てくるあたりがおもしろい。まっ白いひげを胸までたらしたおじいさんです。雲ぐつ(靴)をはいているから雲から落ちないらしい。昭和17年ころから戦後にかけて、第二次世界大戦中ころに作者が頭の中で空想、そして、創造した世界です。

 だんだん登場人物が増えてきて、「ズッコケ三人組」那須正幹・作のような雰囲気になってきました。
 
 雲=自家用車です。15人乗りです。船みたい。

 まだよくわからないのですが、どうも亡くなった人たちがいて、(ノンちゃんは生きている)ノンちゃんがこれから自分の身の上話をその人たちにするようです。『生い立ちの記』です。聴衆の中に少年がいます。「長吉」という名前です。(あとのほうででてきますが、苗字は、「野村」さんというようです。たぶん戦地で戦死されています)

「ノンちゃんのお話(ノンちゃんの家)」
 時代背景は大正時代の始めあたりか。大正四年ぐらい。
 5歳のノンちゃんが赤痢にかかって、ノンちゃんの父親は、東京の四谷から田舎へ引越すことを決めます。ノンちゃんは、腎臓炎から声帯炎という症状まで出てしまいます。そんなふうだから、ノンちゃんの病気治療のために空気のいいところで暮らすのです。
 赤痢(せきり):赤痢菌で発症。腸内が痛む。発熱、下痢、腹痛
 東京市までのお父さんの通勤時間は片道1時間35分かかるようになったそうです。こども思いのお父さんです。
 やさしくて、やわらかい文章です。
 八歳の女の子が家族のことを話すお話になってきました。

「ノンちゃんのお話(おとうさん)」
 ノンちゃんはおとうさんの仕事のことを知らないけれど、釣りが好きだとか、植物や樹木のことを良く知っているということはわかるそうです。
 1915年(大正4年)に7才ぐらいだったときのことを、1942年(昭和17年)35歳から10年間ぐらいかけて書かれた作品だと推測します。
 「主義」という言葉が出てきます。方針とか態度ですが、作品の中では、「がんこ」とされています。当たっています。笑いました。
 父親が娘にする科学の話がおもしろい。油の被膜の輝き方に関するものです。
 
 もうせん:獣毛を加工した織物のようなもの
 カナメ:樹木。カナメモチ

「ノンちゃんのおはなし(おかあさん)」
 お母さんとの関係です。お母さんはノンちゃんに優しい。
 日本の昔の暮らし、母と娘との落ち着いた関係があります。

「ノンちゃんのお話(おかあさんのつづき-にいちゃんのよくばり)」
 にいちゃんはよくばりだそうです。にいちゃんは、なんでもほしがります。ノンちゃんのおやつまでもっていきます。
 にいちゃんのあだなは、「ムサシ」ですが、理由はまだ明らかにされません。
 にいちゃんのともだちに、田村くんがいます。「田村クントベエゴマノヒミツスル」と手帳のメモにあります。
 「マネシツ」は「マンネンヒツ」が正解。「リュウエンケ」は、「リュウセンケイ」が正解
 
 おかあさんのはなしに戻ります。おかあさんは声がきれいで、歌が好きだったので、音楽学校へ行きたかったそうです。

 話はとんで、ノンちゃんがおにいさんにいじわるをしたという話になります。このあと、おにいさんの話になるようですが、ノンちゃんに言わせると、長い長い「きょうだい喧嘩史」になるそうです。おにいさんの名前は、「田代タケシ」です。

「ノンちゃんのお話(にいちゃん-にいちゃんのあだ名)」
 ノンちゃんより二歳年上で小学四年生の田代タケシおにいちゃんのあだ名は、「ムサシ」です。宮本武蔵の武蔵かと思っていたら、武蔵坊弁慶の武蔵でした。幼稚園の卒業式にあった劇でおにいちゃんが武蔵坊弁慶を好演したことから付いたあだ名だそうです。

 智仁武勇、御代のおん宝、ふッ!(ちちんぷいぷい、みよのおんたから、ふっ!):まじない用語。こどもが、けがをしたときに唱える。

 おちごに結う(ゆう):少女の髪型。髪をふたつの輪っかにして結ぶ。

「ノンちゃんのお話(にいちゃんつづき-にいちゃんぶたれる)」
 タケシにいちゃんがトラックの前に出て、「ストップ小僧」と呼ばれるようなあぶない遊びをしたので、お父さんが怒って、げんこつで頭をたたきました。
 「ヒトニメイワクヲカケルナ」という言葉が繰り返されるのですが、読んでいて、だれしも、迷惑をかけたり、かけられたりが、人間社会のありようなのにとちょっとおにいちゃんがかわいそうになりました。自分が八才ぐらいのころ火遊びをしていて父親に家が燃えるじゃないかとすごい剣幕で怒られたことを思い出しました。

「ノンちゃんのお話(にいちゃんつづき-にいちゃんのいじわる)」
 にいちゃんはもうノンちゃんとのおままごと遊びは卒業して、源氏と平家のちゃんばら遊びに夢中です。なにせあだ名が、武蔵坊弁慶の「ムサシ」ですから。
 那須ノ与一(なすのよいち)という弓矢の名人の名前も登場します。
 そのうち飼い犬のエスの話に移ってきました。

「ノンちゃんのお話(にいちゃんつづき-にいちゃんとエス、にいちゃんのうそつき)」「ノンちゃんのお話(ノンちゃんのある日)」「おじいさんのお話」「小雲にのって」「家へ」
 全体を読み終えました。
 木登りをしていてあやまって木から転落した八才女児のノンちゃん(田代信子)が、意識不明になっていた時間帯のことを物語にしてありました。
 そして、それは、20年前の記憶です。だから、現在のノンちゃんの年齢は28歳です。加えて、夢の中に出てきていた「長吉(野村長吉)」という少年は、戦地に行って亡くなっているのです。
 宗教的な感じがするお話でもありました。熊手をもったおじいさんが神さまで、長吉は天使です。
 ノンちゃんの突然の事故もからめて、こどもというのは、学校の成績が良くても悪くても、素行が良くても悪くても、まずは生きていることが大事なことだと再確認しました。先月読んだエドワード・ゴーリーによるおとなの絵本、「ギャシュリークラムのちびっ子たち」を思い出しました。ページをめくるたびに子どもが死んでいます。
 先日テレビで見ましたが、「死ぬこと以外はかすり傷」という余命宣告を受けて病院で亡くなった方の言葉を思い出しました。
 こどもだけではなくて、病気や事故や自然災害で、若くして、あるいは、突然に亡くなる人がいます。未来はこうしたい、ああなりたいと夢を語っていた人に未来はなかったことになります。
 今日隣にいる人が明日も同じように隣にいるわけではありません。明日は隣にいても来年の今ごろはいないかもしれません。

 捨て犬だったエスは、犬としての天寿を長寿としてまっとうします。拾って育ててくれたにいちゃんに感謝です。
 上品な語りが続きます。

 調べた言葉として、
 ほろがや:幼児用の小さな蚊帳(かや)
 うそも方便(ほうべん):物事がスムーズに運ぶためにうそも必要なときがある。相手の利益になることを前提としてうそを肯定している。
 アークトルス:星の名前。うしかい座のα(アルファ―)星(せい)

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